第5回 認知症ってどんな病気?(5)
認知症を理解するときの難しさ
周辺症状に対応するためには、まず私たちが認知症の人自身の心について理解することが大切です。自分が認知症になったとき、そのことを自覚している人はどのくらいいるのでしょうか。私がこれまで臨床で出会った2500人の認知症の人のうち、全体の72%の人が「これまでの自分とは違う」と感じていました。一方、残りの28%の人は自分の変化に気づきませんでした。認知症の人の心を理解するときに難しいのは、このように同じ病気でも全くタイプの人がいることです。自分の病気に気づいている人には、その人の悩みや喪失感に寄り添い、気づいていない人にはそれなりの対応が求められます。
本人にとってはそれが事実
でも考えてみてください。自分の変化に気づくか気づかないかにかかわらず、認知症の人が周辺症状による影響を受けたときに、その人にとっては「奇異な体験」をしています。たとえば「もの盗られ」の体験についても、認知症の人は直感的に「お金を盗られた」と感じます。それが周囲の人にとってはあり得ないことであっても、その人には事実であると思うからです。だからその人は周囲の人に言うかもしれません、「私のお金を返して」と。それに対して私たちが不適切な対応をし、その人が感じていることに配慮せず、事実のみを取り上げて、「そんなことあるはずがない」と応じると、その人はより混乱して怒り出すでしょう。
ケアする側の苦難
たとえその人の体験が周囲からみると奇異なものであるとしても、その人にとっては事実と感じられています。周囲の私たちの対応によってその人がもっと不安を感じるようになれば、結果としてより大きな混乱につながります。それゆえ認知症の人がもっと混乱するか、それとも安心して落ち着くかは、われわれ周囲の者の対応によって異なります。
それでは周囲の者はいつ何時でも必ずその人が安心できるように、適切な対応ができるのでしょうか。私はそうは思いません。認知症の周辺症状を中心とする混乱と向き合うことは、ケアする人にとって想像を絶するほどの苦難です。
次回は認知症をケアする人の心理について考えてみましょう。
それでは周囲の者はいつ何時でも必ずその人が安心できるように、適切な対応ができるのでしょうか。私はそうは思いません。認知症の周辺症状を中心とする混乱と向き合うことは、ケアする人にとって想像を絶するほどの苦難です。
次回は認知症をケアする人の心理について考えてみましょう。