Vol.13 結晶知能と賢者の知恵
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☆<結晶知能>☆
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
結晶知能は現実の場面で発揮される能力
私たちはよく頭が良いとか、悪いとかを口にします。では、結晶知能は頭の良し悪しとどのように関係するのでしょうか。そもそも頭の良い人とは、どのような人を指すのでしょうか。
頭の良さの定義は、状況に応じていろいろです。学生であれば、勉強ができる人を頭が良いというでしょう。野球選手なら、チームの勝利に結びつく重要なチャンスで機転の効いたプレーができると、頭の良い選手との評価を受けます。
ところで、シニアにとって重要な現実社会との関わりでいえば、「場面に応じて求められる課題に、高い水準で応えられること」といえるのではないでしょうか。
「場面に応じて求められる課題」とは、例えば「会議に必要な資料を揃えなければならない」といった現実の場面において、どう行動すればよいか、ということです。この場合の、「高い水準で応える」とは、「直接必要な資料だけでなく、関連する資料も揃えておく」とか、「類似した案件に関する議事録も参照できるようにしておく」というような行動です。すなわち、周囲の期待に高いレベルで「応える」ことが、賢いという評価につながります。間違えずに正しく「答える」ことが期待される流動知能とは、この点が異なります。
現実場面に対応する能力とは、まさに結晶知能そのものです。結晶知能とは実践的な知能だと述べましたが、それはこのような現実の体験を通じて獲得され、さらに現実の場面で発揮される能力だからなのです。
頭の良さの定義は、状況に応じていろいろです。学生であれば、勉強ができる人を頭が良いというでしょう。野球選手なら、チームの勝利に結びつく重要なチャンスで機転の効いたプレーができると、頭の良い選手との評価を受けます。
ところで、シニアにとって重要な現実社会との関わりでいえば、「場面に応じて求められる課題に、高い水準で応えられること」といえるのではないでしょうか。
「場面に応じて求められる課題」とは、例えば「会議に必要な資料を揃えなければならない」といった現実の場面において、どう行動すればよいか、ということです。この場合の、「高い水準で応える」とは、「直接必要な資料だけでなく、関連する資料も揃えておく」とか、「類似した案件に関する議事録も参照できるようにしておく」というような行動です。すなわち、周囲の期待に高いレベルで「応える」ことが、賢いという評価につながります。間違えずに正しく「答える」ことが期待される流動知能とは、この点が異なります。
現実場面に対応する能力とは、まさに結晶知能そのものです。結晶知能とは実践的な知能だと述べましたが、それはこのような現実の体験を通じて獲得され、さらに現実の場面で発揮される能力だからなのです。
コンピテンシーの高さ=結晶知能の高さ
「場面に応じて求められる課題に、高い水準で応えられる」能力とほぼ一致する概念に「コンピテンシー」があります。コンピテンシーとは、もともと児童心理学で用いられていた「コンピテンス」という概念を、実社会の人事マネジメントに転用したものです。語源は“有能な”を表す形容詞「コンピテント」で、最初に提唱したのはアメリカの心理学者です。
では、児童心理学で用いられていた「コンピテンス」とはどのような能力かというと、「環境と効果的ないし有効に相互交渉する能力」と定義されています。これを現実のシーンで考えてみましょう。
例えば、小学校のあるクラスで授業中に先生が質問をし、「わかる人は?」と尋ねたとします。手を挙げた数名の生徒のなかから先生が指名して、A君が答えます。その答えを受けて、「そうですね。A君の言うとおり○○だから、△△になるのですね」と、先生は授業を先に進めます。
このように「A君のコンピテンスが効果的に機能したことによって、授業がスムーズに展開した」、「先生のこのような授業の進め方によって、A君のコンピテンスが高まる」というような言い方をします。
つまり、A君は、自分が発言し、能力を発揮したことによって、クラスの授業の流れをまとめ、ある方向に向けることができたのです。会社員に適用されるコンピテンシーは、これを応用したもので、ある目的や事業のなかで必要な能力を発揮し、効果的な働きのできる人をコンピテンシーが高いといいます。
コンピテンシーは、企業では新人社員の採用や教育、人事考課に際して用いられているので、人事課の方などはよくご存じだと思います。終身雇用制度の崩壊に伴って、日本でも何をもって社員の能力を測るかが課題となってきたため、アメリカで使用されていたコンピテンシーを指標として用いる企業が増えています。
「場面に応じて求められる課題に、高い水準で応えられる」人とは、結晶知能の高い人ですから、結晶知能の高い人はコンピテンシーの高い、すなわち企業の求める“仕事のできる人”でもあるわけです。これは逆もまた真で、仕事ができる人とは、仕事を通して結晶知能を高めてきた人でもあるのです。
ところが、往々にして、企業では高い評価を得ていた人ほど、リタイアした途端に意気消沈し、やる気を失ってしまうということになりがちです。仕事で培ってきた結晶知能は、リタイアしたからといって消えてなくなるものではないのですが、本人はそれに気づいていません。能力の発揮の仕方、実践の仕方が、リタイア前後では少し変わってきます。それに気づくためには、リタイア後の人生にも前向きな姿勢を保ち、積極的にチャレンジしていくことが大事なのです。
では、児童心理学で用いられていた「コンピテンス」とはどのような能力かというと、「環境と効果的ないし有効に相互交渉する能力」と定義されています。これを現実のシーンで考えてみましょう。
例えば、小学校のあるクラスで授業中に先生が質問をし、「わかる人は?」と尋ねたとします。手を挙げた数名の生徒のなかから先生が指名して、A君が答えます。その答えを受けて、「そうですね。A君の言うとおり○○だから、△△になるのですね」と、先生は授業を先に進めます。
このように「A君のコンピテンスが効果的に機能したことによって、授業がスムーズに展開した」、「先生のこのような授業の進め方によって、A君のコンピテンスが高まる」というような言い方をします。
つまり、A君は、自分が発言し、能力を発揮したことによって、クラスの授業の流れをまとめ、ある方向に向けることができたのです。会社員に適用されるコンピテンシーは、これを応用したもので、ある目的や事業のなかで必要な能力を発揮し、効果的な働きのできる人をコンピテンシーが高いといいます。
コンピテンシーは、企業では新人社員の採用や教育、人事考課に際して用いられているので、人事課の方などはよくご存じだと思います。終身雇用制度の崩壊に伴って、日本でも何をもって社員の能力を測るかが課題となってきたため、アメリカで使用されていたコンピテンシーを指標として用いる企業が増えています。
「場面に応じて求められる課題に、高い水準で応えられる」人とは、結晶知能の高い人ですから、結晶知能の高い人はコンピテンシーの高い、すなわち企業の求める“仕事のできる人”でもあるわけです。これは逆もまた真で、仕事ができる人とは、仕事を通して結晶知能を高めてきた人でもあるのです。
ところが、往々にして、企業では高い評価を得ていた人ほど、リタイアした途端に意気消沈し、やる気を失ってしまうということになりがちです。仕事で培ってきた結晶知能は、リタイアしたからといって消えてなくなるものではないのですが、本人はそれに気づいていません。能力の発揮の仕方、実践の仕方が、リタイア前後では少し変わってきます。それに気づくためには、リタイア後の人生にも前向きな姿勢を保ち、積極的にチャレンジしていくことが大事なのです。
賢者の杖を手に入れ、豊かな人生を!
では、結晶知能を高めると、仕事以外の場面ではどのようなことができるようになるのでしょうか。結晶知能とは「場面に応じて求められる課題に、高い水準で応えられる」能力ですから、例えば、「初対面の人とどのように良い関係を築いていくか」、「困難な問題に出会ったときにどう対処するか」、「助けを必要としている人をどうサポートするか」等々、人生におけるさまざまな難しい局面において、適切に対処できるようになります。そのことによって、周囲の人々から慕われ感謝される存在となると同時に、自分自身の人生も豊かになっていくことに気づくことでしょう。言い換えれば、これこそが結晶知能の最終目標であり、結晶知能を高めるとは、“賢者の知恵”を手に入れ、豊かな人生を送ることにほかなりません。
次回は8月4日(火)、更新予定です。
次回は8月4日(火)、更新予定です。
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佐藤眞一先生が会長を務める老年行動科学会のホームページは、こちらからご覧になれます。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsbse/
日本老年行動科学会は、高齢者心理の研究者、医療・看護等の専門家、高齢者ケアの実践者等、様々な人々が集い、高齢者の徘徊や行動障害など心の問題に根ざした課題の解明に努め、高齢者の行動・生活改善とケアの向上に取り組んでいます。
現在、月例の高齢者ケースワーク研究会(ACS)、ACSのノウハウを基にした老年行動科学講座を開設しています。