Vol.15 言葉と結晶知能
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☆<結晶知能>☆
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
言葉があったから進化したクロマニヨン人
旧石器時代中期に石器と火を使用したネアンデルタール人は滅び、その後、旧石器時代後期に出現し、やはり石器と火を使用したクロマニヨン人は滅亡することなく現代人へと進化してきました。「なぜネアンデルタール人は滅び、クロマニヨン人は進化したのか。ネアンデルタール人は、現代人である私たちよりも100ミリリットルも大きな脳をもっていたにもかかわらず……」
この謎は、いまだに解明されていません。しかし、ひとつの有力な仮説として、クロマニヨン人は言葉を話せたのに、ネアンデルタール人は言葉を話すことができなかったということが指摘されています。化石を調べると、彼らの喉や口など音声を発するための構音器官の構造が、言葉を話すようにはできていなかったことがわかります。
この謎は、いまだに解明されていません。しかし、ひとつの有力な仮説として、クロマニヨン人は言葉を話せたのに、ネアンデルタール人は言葉を話すことができなかったということが指摘されています。化石を調べると、彼らの喉や口など音声を発するための構音器官の構造が、言葉を話すようにはできていなかったことがわかります。
知識や経験を言葉で伝え、共有する大切さ
ところで、人間が一度に覚えられる数字や単語の数は7つ前後ですが、チンパンジーなどの類人猿も5つ程度は覚えられるということがわかっています。記憶する能力についてはチンパンジーもなかなかのものだということがわかります。さらに、チンパンジーも初歩的な道具を使うという点では、ネアンデルタール人やクロマニヨン人との共通点もあります。
記憶力や道具の使用という点では、私たちの祖先のクロマニヨン人も、チンパンジーやネアンデルタール人と大差はないようですし、遺伝子解析によって、人間とチンパンジーのDNAの全遺伝情報(ゲノム)は、96%〜99%が同じであるということもわかりました。
しかし、ネアンデルタール人が滅び、チンパンジーが類人猿のままであり、私たちの祖先だけが高度な知能を獲得し、文明を築いてこられたのは、言葉を話し、文字として記録することができたからにほかなりません。
いくらすぐれた能力があっても、それを言語化し、他者に伝えることができなければ、それは個人の能力で終わってしまいます。天才的なチンパンジーが高度な道具を作り出したとしても、それだけでは他のチンパンジーが同じ道具を作り出すことはできません。ところが、私たちは言葉によって知識や経験を共有し、それを蓄積し、後世に伝えていくことができます。それによって人類全体の知的レベルは徐々に高まり、ついには宇宙にまで行けるレベルに至ったのです。
記憶力や道具の使用という点では、私たちの祖先のクロマニヨン人も、チンパンジーやネアンデルタール人と大差はないようですし、遺伝子解析によって、人間とチンパンジーのDNAの全遺伝情報(ゲノム)は、96%〜99%が同じであるということもわかりました。
しかし、ネアンデルタール人が滅び、チンパンジーが類人猿のままであり、私たちの祖先だけが高度な知能を獲得し、文明を築いてこられたのは、言葉を話し、文字として記録することができたからにほかなりません。
いくらすぐれた能力があっても、それを言語化し、他者に伝えることができなければ、それは個人の能力で終わってしまいます。天才的なチンパンジーが高度な道具を作り出したとしても、それだけでは他のチンパンジーが同じ道具を作り出すことはできません。ところが、私たちは言葉によって知識や経験を共有し、それを蓄積し、後世に伝えていくことができます。それによって人類全体の知的レベルは徐々に高まり、ついには宇宙にまで行けるレベルに至ったのです。
最良の仕事を成し遂げたのは、どの年代!?
では、知能の根本が言葉と密接に関係しているというならば、言語能力がその基礎となる結晶知能は、理系の人よりも文系の人のほうが高いのでしょうか? 確かに、理系に必要な計算能力や、立体構造の把握能力などは、結晶知能よりも流動知能と関わりの深い能力です。すでに述べたように、流動知能とは、脳の性能に左右される知能で、脳機能の成長とともに高まり、20歳代をピークに下降線を描く知能です。
この点について、どの年齢で最良の仕事を成し遂げたかという「年齢と業績」の関係を調べた研究をみると、まさにそれを裏付けるような結果になっています。業績のピークは、化学では20歳代後半、音楽では30歳代、ところが文学では30歳代から50歳代でした。一般的にも理系の偉大な業績は若い頃のものが多いといわれています。それに対して作家や哲学者では、中年以降にすぐれた作品を残す人が大勢います。
この点について、どの年齢で最良の仕事を成し遂げたかという「年齢と業績」の関係を調べた研究をみると、まさにそれを裏付けるような結果になっています。業績のピークは、化学では20歳代後半、音楽では30歳代、ところが文学では30歳代から50歳代でした。一般的にも理系の偉大な業績は若い頃のものが多いといわれています。それに対して作家や哲学者では、中年以降にすぐれた作品を残す人が大勢います。
偉大な業績は長年の経験の積み重ねから
このように、偉大な業績をあげる人は、理系であっても若い頃の仕事だけが評価された人とは限りません。ノーベル賞を受賞した偉大な科学者のその後の活動をみると、むしろ長年にわたって思索を重ね続け、人を束ねることのできる、結晶知能の高い人物だということがわかります。小柴昌俊さんは、「何度も失敗して経験を重ねると、勘が冴えてくる」と言っています。「これは今までとは違う、新しいものだ。これからの発展にはこれが必要だ」ということがわかるには、経験の積み重ねが必要ということでしょう。
ニュートンが、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見したのも、それまでの思考の積み重ねがあったからこそ。リンゴの落下を見ただけで、何の積み重ねもない人が万有引力の法則に気づくことはあり得ないのです。
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佐藤眞一先生が会長を務める老年行動科学会のホームページは、こちらからご覧になれます。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsbse/
日本老年行動科学会は、高齢者心理の研究者、医療・看護等の専門家、高齢者ケアの実践者等、様々な人々が集い、高齢者の徘徊や行動障害など心の問題に根ざした課題の解明に努め、高齢者の行動・生活改善とケアの向上に取り組んでいます。
現在、月例の高齢者ケースワーク研究会(ACS)、ACSのノウハウを基にした老年行動科学講座を開設しています。