Vol.3 大人の知能研究のはじまり
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☆<結晶知能>☆
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
子ども向けの知能テスト
知能テストは、知的な遅れがあって学校での集団的な教育に適さない子どもの選別のために、20世紀初頭にフランスで初めて作成されました。今なお世界中で使用される有名なビネー式知能検査(*)です。
その後、学力との関連性を把握するなどの目的で集団式知能検査も開発され、全国の小学校で実施されました。子どもの頃に知能テストを受けた記憶のある人も多いのではないでしょうか。
その後、学力との関連性を把握するなどの目的で集団式知能検査も開発され、全国の小学校で実施されました。子どもの頃に知能テストを受けた記憶のある人も多いのではないでしょうか。
軍事上の必要性から生まれた大人の知能テスト
一方、大人の知能を測るテストも意外と早く、20世紀前半には作成されています。多くの科学技術が軍事的な目的から考案され、発展してきたように、大人の知能テストも軍事上の必要性から生まれました。
第1次世界大戦(1914〜1918)では、戦闘に大きな威力を発揮する科学兵器が数多く生まれました。複雑な操作や操縦の技能を身につけることのできる兵士や、高度な戦略を理解する能力を備えた士官が必要になったのです。
そのためには、兵士をその知的能力によって選別し、適性にあった部署に配置することが非常に大事になります。そして、米国陸軍式知能検査(USアーミー・テスト)が開発されました。
第1次世界大戦(1914〜1918)では、戦闘に大きな威力を発揮する科学兵器が数多く生まれました。複雑な操作や操縦の技能を身につけることのできる兵士や、高度な戦略を理解する能力を備えた士官が必要になったのです。
そのためには、兵士をその知的能力によって選別し、適性にあった部署に配置することが非常に大事になります。そして、米国陸軍式知能検査(USアーミー・テスト)が開発されました。
知能テストで明らかになった驚愕の結果
この検査には、言語を用いる検査(アルファ検査)と言語を用いないパズルのような検査(ベータ検査)の2種類が用意されました。移民で、英語の能力が十分でない兵士にも適用できるようにベータ検査が作成されたのです。
検査は、将校を含む18歳〜60歳の兵士172万6966名に実施されたとのことです。そして、驚くべき結果が担当した心理学者から発表されました。
データは、知能は30歳前後から低下し始め、中年期以降は急速に衰えることを示していたのです。しかし、戦略を練り、年若い兵士を導くべき壮年の知的能力が若者よりも低いというこの結果を受け入れることに、心理学者は慎重でした。
検査は、将校を含む18歳〜60歳の兵士172万6966名に実施されたとのことです。そして、驚くべき結果が担当した心理学者から発表されました。
データは、知能は30歳前後から低下し始め、中年期以降は急速に衰えることを示していたのです。しかし、戦略を練り、年若い兵士を導くべき壮年の知的能力が若者よりも低いというこの結果を受け入れることに、心理学者は慎重でした。
子どもの知能とは異なる大人の知能
この結果に刺激されて、戦後、さまざまなテスト課題が考案され、大人の知能の特性を明らかにしようとする研究がスタートしました。そして、大人の知能は子どもの知能とは異なる特徴があるらしいということに、多くの研究者が気づき始めました。
しかし、それを説明する理論が欠如していることを憂えた心理学者キャッテルは、1941年の米国心理学会で「成人知能理論」の必要性を訴えたのです。ところが、彼自身の理論が根拠となるデータを備えて発表されまでには20年以上の歳月が必要でした。
しかし、それを説明する理論が欠如していることを憂えた心理学者キャッテルは、1941年の米国心理学会で「成人知能理論」の必要性を訴えたのです。ところが、彼自身の理論が根拠となるデータを備えて発表されまでには20年以上の歳月が必要でした。
60代でも維持される「結晶知能」
そしてついに1963年、「流動性および結晶性知能理論」が発表されたのです。彼の論文によれば、流動性知能は青年期から低下がはじまるが、結晶性知能は60代でも維持される、というものでした。
しかし、その後の研究法や分析法の発達により、結晶知能は60代どころか80代になっても高まる人のいることがわかってきました。
しかし、その後の研究法や分析法の発達により、結晶知能は60代どころか80代になっても高まる人のいることがわかってきました。
(*)ビネー式知能検査
1905年、フランスのビネーがシモンと協力して作成した知能検査。アメリカのターマンらによって標準化され、スタンフォード・ビネー知能検査として発表された。日本では1925年に鈴木治太郎による鈴木・ビネー知能検査、その後田中寛一による田中・ビネー知能検査が開発されている。
問題が難易度順に配列されており、どの程度まで正解できたかで精神年齢(mental age)が求められる。これを生活年齢(chrchological age)で割って100倍し、知能指数(inteligence quotient)を出す。
IQ=MA/CA×100
児童用に開発されたために、幼稚園から小学校中学年の児童の一般知能の測定には適しているが、成人の知能測定や知能の診断的把握には向かないと指摘されている。なお、最新の日本版「田中・ビネー知能検査5」では、成人の知能測定にも適するように工夫されている。
問題が難易度順に配列されており、どの程度まで正解できたかで精神年齢(mental age)が求められる。これを生活年齢(chrchological age)で割って100倍し、知能指数(inteligence quotient)を出す。
IQ=MA/CA×100
児童用に開発されたために、幼稚園から小学校中学年の児童の一般知能の測定には適しているが、成人の知能測定や知能の診断的把握には向かないと指摘されている。なお、最新の日本版「田中・ビネー知能検査5」では、成人の知能測定にも適するように工夫されている。
参考文献
佐藤眞一監修『「結晶知能」革命─50歳からでも「脳力」は伸びる!』小学館
- 関連リンク
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佐藤眞一先生が会長を務める老年行動科学会のホームページは、こちらからご覧になれます。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsbse/
日本老年行動科学会は、高齢者心理の研究者、医療・看護等の専門家、高齢者ケアの実践者等、様々な人々が集い、高齢者の徘徊や行動障害など心の問題に根ざした課題の解明に努め、高齢者の行動・生活改善とケアの向上に取り組んでいます。
現在、月例の高齢者ケースワーク研究会(ACS)、ACSのノウハウを基にした老年行動科学講座を開設しています。