Vol.19 遺伝と結晶知能
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☆<結晶知能>☆
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
トンビがタカを生むのも遺伝のうち
「トンビがタカを生む」と言われるようなことが、まれに起こります。「どうしてあの親から、あんな立派な子が生まれたのだろう」などと不思議がる人もいますが、遺伝学的にいえば、これは不思議でもなんでもないことのようです。父親の遺伝子と母親の遺伝子の、最良の部分がたまたま組み合わさると、トンビからタカが生まれることもあるのです。
しかしその一方で、「平均回帰の法則」と呼ばれる現象があるのをご存知でしょうか? 非常に背の高い親からは、それ以上に背の高い子は生まれない。同様に背の低い親からは、それより背の低い子は生まれない。かくして子孫はだんだん平均に近づいていく、というものです。人間の知能が、ある一定の範囲内に収まっていることを考えると、平均回帰の法則は知能にも当てはまるようです。
しかしその一方で、「平均回帰の法則」と呼ばれる現象があるのをご存知でしょうか? 非常に背の高い親からは、それ以上に背の高い子は生まれない。同様に背の低い親からは、それより背の低い子は生まれない。かくして子孫はだんだん平均に近づいていく、というものです。人間の知能が、ある一定の範囲内に収まっていることを考えると、平均回帰の法則は知能にも当てはまるようです。
平均回帰も遺伝子の組み合わせ
実は平均回帰の法則も、トンビがタカを生むのも、父から受け継ぐ遺伝子と、母から受け継ぐ遺伝子の組み合わせの問題にすぎません。10通りの組み合わせがあるとすれば、いちばん端の10になる可能性は10分の1、真ん中の5になる可能性も同じく10分の1です。しかし、端よりも真ん中に近い、つまり2から9までのいずれかになる可能性ならば、10分の8になります。よって、1や10になる可能性よりも、中間のどこかになる可能性のほうがはるかに高いのです。
脳の機能もある程度は遺伝する
どの組み合わせになるかはさておき、遺伝子を両親から受け継ぐ以上、顔立ちや体質と同様、脳の機能もある程度は遺伝すると考えられます。生まれつき胃腸の丈夫な人と弱い人がいるように、脳機能が高い人と低い人とがいるわけです。
知能と遺伝との関連
知能と遺伝との関連を、一卵性双生児と二卵性双生児を使って調べた研究では、やはり関連はあるという結果が出ているようです。ただし、遺伝がすべてではありません。一卵性双生児は、本来一人の人間に育つはずだった一個の受精卵から生まれるため、まったく同じ遺伝子を持っています。つまり遺伝子が100パーセント同じですから、遺伝がすべてを決めるのなら、知能も100パーセント同じはずですが、そうはならないのです。
慶應義塾大学の安藤寿康教授の調査によれば、双生児の知能の相関性、すなわち二人の知能指数(=IQ値)がどの程度似ているかは、一卵性双生児では86パーセント、二卵性双生児では60パーセントという結果だそうです。
二卵性双生児は2個の受精卵から生まれる、つまり偶然同時に生まれただけで、遺伝的には普通の兄弟と同じです。つまり二人が持っている遺伝子は、ほぼ50パーセントが同じなので、知能の相関性が60パーセントというのは不思議です。一卵性双生児と同じように、遺伝子の一致率より知能の相関性のほうが下がるなら、40パーセントぐらいになるはずだからです。
知能には、遺伝以外の影響がある
要するに、知能には環境など、遺伝以外の影響があるということです。しかし、それらがどのように影響するかも含めて、遺伝や知能については、まだまだわからないことだらけといった状態なのです。ただ、脳機能がある程度遺伝するとの前提に立てば、脳機能と密接に関連する流動知能は、遺伝の影響が大きく出る知能だということができます。それに対して、経験や思考によって後天的に獲得していく結晶知能は、遺伝の影響を受けにくい知能と言えます。
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佐藤眞一先生が会長を務める老年行動科学会のホームページは、こちらからご覧になれます。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsbse/
日本老年行動科学会は、高齢者心理の研究者、医療・看護等の専門家、高齢者ケアの実践者等、様々な人々が集い、高齢者の徘徊や行動障害など心の問題に根ざした課題の解明に努め、高齢者の行動・生活改善とケアの向上に取り組んでいます。
現在、月例の高齢者ケースワーク研究会(ACS)、ACSのノウハウを基にした老年行動科学講座を開設しています。