Vol.11 記憶と結晶知能
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☆<結晶知能>☆
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
脳の成長が止まったシニア期以降でも、経験と深い思考を積み重ねることでグングン伸びる脳力。若者にはない、大人の英知のもとになる知能。困難に直面したときに高い水準で解決できる、まさにシニアの知能。
★<流動知能>★
パソコンゲームを競ったり、単純な計算をすばやく行ったりするような脳の「性能」。青年期までは急速に成長するが、シニア期以降、急激に衰えてしまう。シニアは苦手だが、社会的・対人的な問題の対処には役立たない。
シニア世代の記憶力の違い
シニア世代になると、「この頃、物忘れがひどくて」とか、「物覚えが悪くなっちゃって」と言う人が多くなります。しかし、その一方で、80歳を過ぎているというのに、最新流行のカタカナ言葉を覚えて使ったりするので、こちらがオタオタしてしまうような、記憶力の良い人もいます。その違いはいったいどこからくるのでしょうか。
記憶力は、結晶知能と流動知能の両方に関係があります。歳をとっても衰えない面と、脳機能の老化とともに衰えていく面とが記憶力にはあるのです。実は、これはもっともなことです。というのは、記憶とは、記憶力というひとつの能力ではなく、いくつもの能力が絡み合った「プロセス」だからです。ですから、厳密にいえば、「記憶力」という言葉はないのです。
記憶は、ごく単純化していえば、情報の「入力→保持→出力」という3段階から成っています。専門的には、入力を符号化(または記銘)、保持を貯蔵、出力を検索(想起)と呼びます。そして、この「入力→保持→出力」という3段階のどの段階の能力が衰えても、「記憶力」は悪くなります。カタカナ言葉がパッと覚えられないのは「入力する能力」が衰えているからですし、久しぶりにあった知人の名前が思い出せないのは「出力する能力」が衰えているからなのです。
記憶力は、結晶知能と流動知能の両方に関係があります。歳をとっても衰えない面と、脳機能の老化とともに衰えていく面とが記憶力にはあるのです。実は、これはもっともなことです。というのは、記憶とは、記憶力というひとつの能力ではなく、いくつもの能力が絡み合った「プロセス」だからです。ですから、厳密にいえば、「記憶力」という言葉はないのです。
記憶は、ごく単純化していえば、情報の「入力→保持→出力」という3段階から成っています。専門的には、入力を符号化(または記銘)、保持を貯蔵、出力を検索(想起)と呼びます。そして、この「入力→保持→出力」という3段階のどの段階の能力が衰えても、「記憶力」は悪くなります。カタカナ言葉がパッと覚えられないのは「入力する能力」が衰えているからですし、久しぶりにあった知人の名前が思い出せないのは「出力する能力」が衰えているからなのです。
記憶はあるが思い出せない―「出力」の能力の衰え
ところで、認知症の人の記憶障害と、一般の人が感じる記憶の衰えには大きな違いがあります。認知症の人は、新しいことが覚えられない、すなわち情報の入力の能力が、一般の人に比べて著しく衰えてしまいます。一方、シニア世代の多くが感じる記憶の衰えは、喉まで出かかっているのに思い出せない、というような出力の能力の衰えです。しかし、毎日顔を合わせる同僚の名前を思い出せないということはめったにありませんが、久しぶりの同窓会で会った昔の同級生の、顔を覚えているのに、名前が思い出せなくて困った、というような経験が、シニア世代なら誰しもあるのではないでしょうか。
では、同級生の名前をすっかり忘れてしまっているのかといえば、実はそうではありません。何かきっかけがあれば思い出すことができますし、そもそも名前が出てこないのに、「名前は知っている」という確信だけはあるものなのです。そして、現に、何かきっかけがあれば思い出すことができます。長期記憶の貯蔵庫に保存はされているのですが、その名前にたどり着くことが少しだけ難しくなっているだけだからです。
シニア世代の記憶の悩みは、多くの場合、この「出力」に関係しています。つまり、記憶そのものが失われたわけではなく、記憶はあるけれど、思い出しにくくなった、ということなのです。したがって、日常的に頻繁に会う人の名前であれば、思い出せなくなることはほとんどないと言ってよいでしょう。
では、同級生の名前をすっかり忘れてしまっているのかといえば、実はそうではありません。何かきっかけがあれば思い出すことができますし、そもそも名前が出てこないのに、「名前は知っている」という確信だけはあるものなのです。そして、現に、何かきっかけがあれば思い出すことができます。長期記憶の貯蔵庫に保存はされているのですが、その名前にたどり着くことが少しだけ難しくなっているだけだからです。
シニア世代の記憶の悩みは、多くの場合、この「出力」に関係しています。つまり、記憶そのものが失われたわけではなく、記憶はあるけれど、思い出しにくくなった、ということなのです。したがって、日常的に頻繁に会う人の名前であれば、思い出せなくなることはほとんどないと言ってよいでしょう。
子どものような驚き・感動で記憶の「入力」量を増やそう
では、80歳になっても最新流行のカタカナ言葉を覚えられるほど記憶力の良い人は、一連のプロセスのどこがすぐれているのでしょうか。いくら記憶力の良い人でも、高齢になれば脳機能は当然衰えているはずです。しかし、その衰えを補って余りあるものがあるから、記憶力が良いのです。この衰えを補ってくれるその余りあるものとは、実は「入力」の量なのです。入力量と記憶力の関係は、大人と子どもを比較して考えるとよくわかります。
子どもは毎日膨大な量の新たな情報を記憶します。脳機能そのものが成長途上なので、よく覚えられるということもありますが、もうひとつの大きな要素として、「新たな経験の量」ということがあります。子どもは毎日のように新しい経験をします。それらを、驚きや感動など、強い感情を伴った情報として、自分のなかに取り込んでいくのです。
ところが、歳をとると、この入力量が減少していきます。子どもならば「すごくきれい!」と感嘆するような美しい景色を見ても、歳をとると過去の経験が多いだけに、「この程度の景色なら何度も見ている」と思ってしまいます。すると、脳は「この景色の記憶は必要なし」と判断してしまいます。脳機能の衰えに加えて、無感動が追い打ちをかけるのです。そして、その結果、その景色を忘れてしまうというわけです。
しかし、歳をとっても記憶力の良い人は、風景を見れば子どもと同じように「きれいだ!」と感動し、新しいカタカナ言葉を知れば「面白い言葉だなあ」と感じることのできる人なのです。好奇心やモチベーションが高く、さまざまなことに興味を持ち、いつも心を動かしている人は、自然に情報の入力量が多くなります。脳機能が衰えても、入力量が多ければ、記憶される量は減らないのです。経験が積み重なることで結晶知能は高まりますが、記憶も同様に、経験時の感動がそのときの記憶を新たな記憶に積み重ねてくれるのです。
子どもは毎日膨大な量の新たな情報を記憶します。脳機能そのものが成長途上なので、よく覚えられるということもありますが、もうひとつの大きな要素として、「新たな経験の量」ということがあります。子どもは毎日のように新しい経験をします。それらを、驚きや感動など、強い感情を伴った情報として、自分のなかに取り込んでいくのです。
ところが、歳をとると、この入力量が減少していきます。子どもならば「すごくきれい!」と感嘆するような美しい景色を見ても、歳をとると過去の経験が多いだけに、「この程度の景色なら何度も見ている」と思ってしまいます。すると、脳は「この景色の記憶は必要なし」と判断してしまいます。脳機能の衰えに加えて、無感動が追い打ちをかけるのです。そして、その結果、その景色を忘れてしまうというわけです。
しかし、歳をとっても記憶力の良い人は、風景を見れば子どもと同じように「きれいだ!」と感動し、新しいカタカナ言葉を知れば「面白い言葉だなあ」と感じることのできる人なのです。好奇心やモチベーションが高く、さまざまなことに興味を持ち、いつも心を動かしている人は、自然に情報の入力量が多くなります。脳機能が衰えても、入力量が多ければ、記憶される量は減らないのです。経験が積み重なることで結晶知能は高まりますが、記憶も同様に、経験時の感動がそのときの記憶を新たな記憶に積み重ねてくれるのです。
さらに、このような人は、さまざまなことに興味があるため、情報が繰り返し再生され、増強されていきます。テレビや雑誌を見ても、「この風景は、前に行ったあそこに似ているな」とか、「あそこも良かったけれど、今度はここに行ってみようか」などと、絶えず記憶を再生しているのです。何度も再生され、増強された記憶は思い出しやすくなっています。すなわち、「出力」もスムースに行くようになるのです。
次回は7月7日(火)、更新予定です。
次回は7月7日(火)、更新予定です。
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佐藤眞一先生が会長を務める老年行動科学会のホームページは、こちらからご覧になれます。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsbse/
日本老年行動科学会は、高齢者心理の研究者、医療・看護等の専門家、高齢者ケアの実践者等、様々な人々が集い、高齢者の徘徊や行動障害など心の問題に根ざした課題の解明に努め、高齢者の行動・生活改善とケアの向上に取り組んでいます。
現在、月例の高齢者ケースワーク研究会(ACS)、ACSのノウハウを基にした老年行動科学講座を開設しています。