心の健康を保つための五行歌

　私は心の健康が健やかに生きる基本かなと考えています。気持ちや考えを意のままに表わすのは、今はともかく、老いて身体を意志どおりに動かすことや、思うように人に伝えることが出来なくなる時も来るでしょう。


　それまで離れて暮らしていた家族や介護をしてもらう人に、これまでの自然体の私らしさを理解してもらう手がかりの一つになればと、五行歌をはじめました。


　短歌、俳句、詩歌等のように文芸のジャンルに入る本来の五行歌からは、少し外れるかもしれませんが、練り上げたりいじったりにはあまり気を遣わず、素肌の感覚を書き留めておくのです。思いや呟きを五行程度にまとめる気軽さ、字数も季語も無用、出会って感じたこと、考えたことを自分のふだんの言葉で書きます。


　多くの人に読んでもらうのも自由ですが、自分の生活の記録として持つのなら、ノートに書きとめ、年月日を入れておくだけで十分です。時系列に並べた短い言葉の中から、生活の有り様や心の動き等が、かえってくっきりと見えてきます。


　はじめてみて気がついたのですが、この作業は自分らしさや生きがいの確認にもなり、ささやかですが心と身体のエネルギーを引き出してくれるというおまけがつきます。電車に乗ると、いつも空席探しに集中していた私ですが，このごろは歌の素材を拾えないかと、やたら周りを好奇心を持って眺めるようになっています。

　如何でしょう。これが五行歌です。まだ会ったことのない幸子さんを、どうイメージされますか。赤のペタンコの靴にシルバーのコートで、ヴェネツィアの運河沿いの道をいつか歩きたいといわれるナイスシニア、生き生きとそして誰よりも自分に厳しく周りにやさしく、磨き上げられた人生をお持ちの、私のひそかな五行歌の師と仰ぐ人です。


　たかが五行、されど五行で、その人らしさがなんとなく伝わって来ませんか。


　高齢者施設では、入所者についてケアカンファレンス等で情報の共有をはかりますが、一人ひとりのメンタルまでを把握するのはどうしても後手になるそうです。介護をする時、それまでの心の生活情報の有無は、本人、スタッフ双方の大きな支えになるといわれます。

　私が月に１〜２回行く施設で、95歳の方に五行歌のお誘いをしたところ、30分位で七つの歌ができたと見せて下さり、驚いたことがあります。「集団で暮らすと、つぶやきも思うままに出せないこともあるけど、人に見せるためじゃなくても書き留めるとすっきりするね」とさわやかなお顔をされていました。


　また、別な方ですが、90〜93歳で約300首詠まれた方もいます。


　五行歌は五歳の子どもでも誰でも作れますが、含蓄ある人生をしのいで来られた方々の歌には、その人ならではの味が生まれます。まずは書くことをおすすめします。元気なうちは、自分を客観視することにもなります。自分史、遺言書どころか日記、家計簿より気楽、それになにより楽しめるところもみそです。