受験勉強も大事ですが、資格はなりたい自分に近づくための手段。合格後の「仕事のイメージ」を抱くことも大事です。このコーナーでは、資格の世界を知るのに役立った本や映画などを合格者が紹介します。
娯楽だけではないフィクション
向日葵の咲かない夏
おすすめの理由
本格ミステリ大賞の候補になった作品ですが、ミステリーとしては一味変わった本です。直接に社会福祉士と関わる内容ではありませんが、ポンと考えることを置いていかれた気がします。冒頭で、小学生の主人公ミチオは同級生のS君の死体を発見し、物語は動き出します。
ミチオはとあるきっかけから、S君の亡くなった理由を突き止めようと、妹ともに飛び回るのです。
物語には、とても生きづらそうな、現実で出会ったなら、福祉、保健へと繋ぐ必要性の高い人物達が登場します。虐待、小児性愛、そして――しかし、これらはフィクションです。
物語は、虚構の人物たちのもとで、だんだんと収束していきます。
辿り着くのは、純粋なミステリーのラストを飾るような“事件解決”の文字とは違いますが、読み手がずっと抱き続ける違和感は、最後、物語の土台と共に溶けてなくなるのです。
このフィクションのなかで、ここだけは疑いようもなく真実と思える言葉がありました。
『誰だって、自分の物語の中にいるじゃないか』
主人公ミチオの悲痛な叫びです。確かに、人間はみな、自分を救うための物語を持っているのかもしれません。
対人援助の中で、自分はクライエントの物語を支えるものとなれるのか。 そこに、支えるべきでない物語が、あるのか、ないのか。
向日葵は簡単には咲きそうにありません。
(MRさん・相談員)