受験勉強はもちろん大事。でも、机に向かって知識を詰め込むだけが取り組み方ではありません。合格者には、独自のアイデア、秘策もあるようです。本コーナーでは、先輩たちが推奨する「合格に役立ったもの」を自由なスタイルで紹介します。
疲れたら「チェンジ」
“一つ”に没頭する
丸めて切って貼って塗って。
新聞広告で作った手製のカゴです。
新聞広告で作った手製のカゴです。
おすすめの理由
勉強しようと机に向かっても、どうも身が入らない。気分がのらない、進みが悪い。毎日勉強していると、こういう日が出てきます。そんなときは、無理して続けずに勉強を休む。休んで友達と会ったり、買い物に出かけたりしてリフレッシュする。おそらく、多くの方がされているのではないかなと思います。私の場合、友達と話をするというのは、元気を回復するいちばんの方法だったと思います。大学では時間が合えばみんなといて、なんとなく集まる場所もできあがっていて、多いときは8人くらいでお昼を食べたりして。勉強の話でどうしようというのもありましたが、映画とか買い物とか勉強とは関係ない話、ここのケーキおいしいから今度食べに行こうよとか、そういう話をたくさんして、授業のない日はそのあといっしょに買い物に行ったり、そのまま夕ご飯を食べに行ったり。友達と話してから、またがんばろうと思えましたし、いっしょにがんばろうねというのもありました。友達との関係は、受験をするなかでとても大事でした。
ただ、この日は疲れていて話すのもつらいというときもあります。そういうときは、早く家に帰って、“何か一つのことに没頭する”ということをしました。細かい作業が好きなので、ビーズでアクセサリーを作ったり、刺繍で小物を作ったり、夕ご飯を少し凝ったものにしたり。キャベツの千切りとかを無心でずっとやっていると、気持ちがすっきりします。ピアノも疲れの発散になります。大きな音を出すとか速く弾くとか、演奏に没頭するんです。
冒頭の写真も、その一つです。こちらの材料は新聞の広告です。作り方は、広告を丸めて棒を作り、作るものに合わせて長さを調節して(切って)、骨組みをしたら糊でくっつけて、糊がかわいたらペンキを塗って完成です。棒は細くしたいので、広告用紙の丸め始めは竹串を使って途中で抜きます。棒の長さは正確に測ったりせず、目分量でだいたいです。くるくる巻くだけの作業ですから、時間はそんなにかかりません。骨を組むのに2時間程度、糊がかわくのを一晩待ってからペンキを塗っても1日です。作り方は母に教わりました。昔、こういうのを作るのがはやったそうです。
“没頭する”という休み方
「一つのことに没頭する」というこの方法は、将来の進路を決める際にも気持ちの整理に役立ちました。精神保健福祉士として本当に働くかどうか、悩んだ時期がありました。大学4年の実習後、7月から12月くらいにかけてです。大学3年のときのボランティアで、ある程度の仕事のイメージはもてていたつもりでしたが、実習でいろんな印象を受けとめて、本当に私にできるのかなと考えさせられたのです。精神障害者の権利侵害や社会の偏見をなくしたいと思って、精神保健福祉士を目指しているが、私の中にも障害者に対する偏見があったのではないかと思ったり、現場で働いているワーカーさんを見て、私ならどのようにかかわれるのだろうかと悩んだり。実習後に一度イヤになってしまい、受験勉強は続けていたものの、気持ち的にはよくわからない状態になっていました。そういう定まらない心持ちのなかで思い詰めるときというのは、だいたい一つのことではなく、いろんなことを考えて疲れてしまいます。そこで、いったんそこから離れて、それとはまったく別の「これだけに集中する」という状況をつくる。そうすると、ガチガチに縛っていたものから解き放たれて楽になります。結局、また考えるときはやってくるのですが、一回リフレッシュすると、自分を悩ませているテーマに再び向き合うことができます。
これ(写真のかご)を作ったのは、ちょうどそんな時期でした。答えが出なくなって疲れたときは、こういうことをして休んで、また考える。そうやって気持ちのコントロールを図っていました。
スーパーバイザーの言葉
この状況から前向きな気持ちを引き出してくれたのは、実習先のスーパーバイザー(実習指導担当者)でした。実習記録のコメント欄にこんなことを書いてくださっていたんです。「人はつながりのなかで病み、だからこそ、つながりのなかで回復する」。この一文が心に留まり、何度か読み返していくうちに、私もこういうことを働きながら実感してみたいと思うようになったのです。受験がそろそろ視界に入ってくる12月のことでした。その後も迷いは残りましたが、先に紹介した疲れの発散法やスーパーバイザーの言葉を支えに、試験本番に臨むことができました。
試験の翌日、ボランティアをしていたところの施設長から就職のお誘いをいただいたときにはうれしく、ほどなくお受けしました。
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今、私は地域活動支援センターで働いています。実習先のスーパーバイザーからいただいた言葉を、仕事のなかで実感したいと思っています。もしかしたら10年先か、20年先になるかもしれませんが、いつか自分の中に“なるほどな”と落としたいと思っています。だから、このノート(実習記録)も毎日カバンに入っています。プロフィール
平成23年度試験合格
東京国際大学人間社会学部福祉心理学科卒。心理学への興味から大学は同学科に進学し、そこで“福祉”の概念と出合った。将来の進路にきっかけを与えたのは、大学2年のときに履修した精神保健福祉論。そこで得た福祉教育の視点だった。「当たり前にご飯を食べたり、家で家族と生活していたが、その当たり前のことができていない人がいるのはなぜなんだろう、社会に受け入れてもらえないのはなぜなんだろう」と思い、2年の後半には精神保健福祉士の資格受験を胸に抱いた。大学3年の夏休みから約半年、精神障害者の福祉作業所のボランティアを経験し、現場のイメージにもふれた。受験勉強には早めに(3年生のときから)取り組み、見事に合格。在学時にボランティアに携わったNPO法人オリオリ地域活動支援センターゆめきた工房(埼玉県坂戸市)に就職し、経験を肥やしとする日々に勤しむ。趣味は手芸、料理。特技はピアノ。好きなものは、飼い犬のクーちゃん、桃。苦手なものは、生のリンゴ(アップルパイなど煮てあれば大丈夫)、大きなカエル。おっとりした雰囲気の中に几帳面さと目標(*本文参照)への静かな思いを覗かせる24歳。