八甲田山死の彷徨
明治35年1月25日、日本の観測史上最低となる−41.0℃を旭川で記録する寒気が日本を覆っていた日に、青森・八甲田山において行われた、199名もの死者を出した雪中行軍の模様を描いた小説。
青森5連隊を率いる神田大尉は、士族の出身でないことからついつい自分を一段低いところに置いてしまう。当初、小規模の編成で地元の人間に案内人を頼んで行軍を行うつもりであったが、上役に覆されるとそれ以上言えない。行軍中も、全権は自分に任されているはずなのに、上役が勝手に指示を出してしまうのに黙って従ってしまい、結果、大惨事を招いてしまう。
私も、「そんなこと言ってもどうしようもない」って思ってしまうことはよくあるので、思わず神田大尉に感情移入してしまい、読みながら悩ましい気持ちになった。責任をもってものごとをなす。当たり前のように言われているが、改めて難しいことなのだと戒められる。
また、簡潔で冷静な文章が、急激に変わる山の天候と、危険が身に迫ってくる恐怖を十分に感じさせてくれる。読みながら、自分も厳寒の雪山を彷徨しているかのような寒さに襲われた。
(byうしお)