「つなみ ―被災地のこども80人の作文集―」文藝春秋8月臨時増刊号
ご近所のお医者さんが、「東北の震災以降、お年寄りを中心にうつ症状になる方が増えているんですよ」とおっしゃっていました。たしかに私自身も新聞で、テレビで、連日見続けたあの光景に、心が塞ぎ、何度となく絶望的な気持ちになりました。被災地から何百キロと離れ、直接には何も被害を受けていないこの場所でさえそうなのです。
これは、そんな光景を実際に体験した被災地の子どもたちの作文集です。
写真に写る子どもたちは、みな無邪気な笑顔です。しかし、笑顔とは裏腹に、そのなかには、大切な家族や友達を亡くし、深い悲しみのなかにある子どもたちもいます。たとえ家族が無事だったとしても、津波からの避難の途中、多くの子どもたちが、目の前で人が流され、亡くなっていく姿を目撃していたという事実には言葉を失いました。
いうまでもありませんが、書くことは、苦しみを追体験することです。それでも、声をかけられた子どもたちは、書くことに挑みました。味わった恐怖や怒り、その喪失感を淡々と綴る文章に、幾度となく涙が出ます。しかしほとんどの子どもたちが「負けない」「強くなりたい」「人の役に立ちたい」と文章を結んでいることに驚き、勇気づけられます。
深部熱が少しずつ外気に放熱されていくように、奥底にある悲しみを子どもたちが安心して解き放てる社会でなければいけません。そのためには、私たち大人が「絶望」に逃げこんでいる場合ではないようです。この先長丁場になるでしょうが、模索しながらも常に前を向いて立っている姿を、すべての子どもたちに示す責任があると強く感じました。
(by まめたま)