第２回　夫の定年が、地獄の始まりにならないために（１）

　「子育てが終わったら、今度は夫育てを」とはいうものの、現実はそんなに甘いものではありません。夫が定年退職して家に居るようになると、「俺が居るんだからお前も」と家に引き留められる。買い物から戻ると、「何を買ってきたんだ！？」と品物を一つ一つチェックされる…。


　「家に帰って夫が居ると思うと、足が動かなくなる」。こんな帰宅恐怖症候群が、今妻たちの間で広がりつつあります。食事は汚く食べ散らかす、外出する時以外はパジャマ、夏はパンツ一丁…。「私が作り上げてきた生活文化がガラガラと崩れちゃった」そう嘆く主婦は、少なくないのではないでしょうか。「早々に死んでいただければ、それが私の定年です」と、半ばマジメに妻が口にする、そんなご時世なのです。

　そのように嘆く妻が、実は夫を自立させないままに定年まで来ちゃったのではと、そちらの方を問題にする向きもあります。


　「あの人、私が居なきゃ、赤ちゃんみたいなのよ」などと自慢げに話す妻。夫育てどころか、逆に夫に育てられて、相手の言いなりになっている妻。


　夫を変えようとするなら、まず妻の方から変わらなくっちゃ！

　夫が定年を迎えた妻たちの集まりでこんな体験談が出てきました。「私は靴下をポンと夫が座る所に置いておく」と、方針を転換したＫ子さんは、「今まであまりにもやってあげすぎたわね」と反省の弁。


　また、「夫が風呂に入れば、下着も何も全部そろえておいてあげたけど、だんだん自分でやるように仕向けてきた」と夫育ての成果を語るＨ子さんは、「完璧主義にならないことが大事。夫によく思われようなんて考えない」と言います。


　そうは言っても、長い結婚生活の中で２人の力関係が決まってしまい、いまさら「夫を育てる」ことなんてとても無理…という方もいらっしゃることでしょう。夫育てに成功した妻たちは、一体どうやってこの壁を乗り越えたのでしょうか。

　誰にでも変える「きっかけ」はある、らしいのです。先程のＨ子さんは、「夫の妹夫婦が来たときこの話になり、『ウチはそこまではしてあげていないわよ』と言われて、そうか、夫の妹がしていないんだったら私もやらなくていいやって切り替えちゃった」。


　「そういえば」と別の男性。「家内が入院したときに、一人で食事作りからゴミ出し、洗濯までひと通り自分でやりました。いい経験でしたよ」。


　このような機会を時々夫に与えるのもいい、ということなのでしょうか。同窓会に出るとか、海外旅行をするとか、そのときに食事を作ってあげないこと、これが絶対条件なのだそうです。


　ある参加者のこんな一言が印象的でした。「今までは“いい奥さん”だったわけでしょ。その“いい奥さん”をやめちゃえばいいんですよ」。


　世の奥様たち、「グウタラ妻」を、あえて演じ切れるや？