今回は生活(いき)ること支援の第2ステップです。第1ステップで必察したナツさんの思いを尊重しながら、ナツさんらしく生活(いき)ることを続けていくための課題を整理していきます。
第11回 事例から学ぶ…生活(いき)ること支援の第2ステップ
〜ナツさんの現状(事実)を確認しよう!
前回のナツさんの事例をもう一度確認してみてください。夫を病気で早くに亡くしたナツさんは、子どもはなく現在一人暮らし。夫方の甥の誘いで公正証書遺言書を作成し、近くに家を建て移住したものの、甥との折り合いがうまくいかなくなって遺言書も取り下げ、行き来はなくなってしまいました。さらに、ナツさんには軽度の認知症ではと疑われる言動もみられるようになってきます。
認知症で一人暮らしとなると、どのような支援が考えられるでしょうか。このような場合、援助者の頭にまず思い浮かぶのは、「このまま一人で暮らしていくことは難しい。けれども、他に良い方法はあるのだろうか」などということかもしれません。援助者は自身の頭に浮かんだ思いと常に向き合い(内省し)ながら、生活(いき)ること支援の方向性を見出していくことが大切です。
生活支援の方向性を見出していくためには、第1ステップで必察したそれぞれの生活(いき)る思いを尊重しながら、ケースの現状(事実)を確かめ、生活(いき)ることを続けるために必要な対応を考えていくことになります。そして、この現状(事実)を確認するときのポイントを、ナツさんの事例をもとに考えていきます。玄関先に自らが生けた花のように、夫を見送った後も一人凜として生活(いき)てきたナツさん。「できる限り自宅で暮らしたい」という思いを尊重した支援は、ナツさんの現状(事実)を確認することから始まります。
認知症で一人暮らしとなると、どのような支援が考えられるでしょうか。このような場合、援助者の頭にまず思い浮かぶのは、「このまま一人で暮らしていくことは難しい。けれども、他に良い方法はあるのだろうか」などということかもしれません。援助者は自身の頭に浮かんだ思いと常に向き合い(内省し)ながら、生活(いき)ること支援の方向性を見出していくことが大切です。
生活支援の方向性を見出していくためには、第1ステップで必察したそれぞれの生活(いき)る思いを尊重しながら、ケースの現状(事実)を確かめ、生活(いき)ることを続けるために必要な対応を考えていくことになります。そして、この現状(事実)を確認するときのポイントを、ナツさんの事例をもとに考えていきます。玄関先に自らが生けた花のように、夫を見送った後も一人凜として生活(いき)てきたナツさん。「できる限り自宅で暮らしたい」という思いを尊重した支援は、ナツさんの現状(事実)を確認することから始まります。
現状(事実)を確認するための必察ポイント(1)
…生活状況をみる
支援を開始するにあたり、ナツさんの生活状況を確認するということが重要となります。当然のことと思われるかもしれませんが、わかったつもりになってしまっていることもあるので要注意です。
例えばナツさんの事例で、連携をしている保健師から、「最近ナツさんの曜日の感覚があやしくなってきており、訪問日などの約束も忘れてしまっている」という情報を予め得たとします。それにより、失見当や記憶力の低下が進んでいて、日常生活にかなり支障をきたしているのではということは想像できます。けれども、それだけではナツさんの生活(いき)ることを続けていく上での課題はみえてきません。「どのようなことが生活のしづらさとなっているのか」「本人はそのことをどのように感じているのか」ということを明確にしていくことが必要です。援助者は時に、他者から聞いた話や、情報提供用紙に記された内容から相手の生活状況をわかったつもりになってしまうことがありますが、必ず生活の場に足を運んで事実を確認すること(動察)が必要です。実際にどのようなことが起きているのか、ナツさんがその状況をどのように感じているのかを確認(真察)し、そしてナツさんの生活にかかわる周囲の人たちとの間でどのような問題が生じてきているのかを確認すること(間察)が大切です。
ナツさんの例では、そのように現状(事実)確認を行った結果、失見当や記憶力の低下から、ゴミ出しの日を間違えて近所の人から注意を受けたり、テレビの調子がおかしいと言っては何度も電気屋に電話をかけ呼んでしまったり、というような生活のしづらさにつながっていることがわかりました。そして、近所の人や昔から付き合いのあった電気屋との関係もこじれてしまっていることもわかってきました。
また、ナツさん本人はそのような状況を、「ゴミステーションにゴミを出すと、近所の人に叱られる」「電気屋に来てもらってもちっともよくならない」というように感じており、何とかしなくてはと困っていたのでした。そして、そんなナツさんの思いは、怒られないようにこっそり草むらや側溝にゴミを捨てるという行動につながっていました。ナツさんの思いを「真察」していくことで、失見当や記憶力の低下が進んできているというナツさんの現状(事実)の他に、ナツさんがなんとかしようと必死で生活(いき)ている事実も確かめることができました。このようなナツさんの現状(事実)を踏まえて働きかけていくことが重要です。もしも、ナツさんの現状(事実)の確認が不十分なまま、さまざまなサービスの利用をすすめても、本人がそれを受け入れなかったり、余計に混乱させてしまうことも少なくないのです。
例えばナツさんの事例で、連携をしている保健師から、「最近ナツさんの曜日の感覚があやしくなってきており、訪問日などの約束も忘れてしまっている」という情報を予め得たとします。それにより、失見当や記憶力の低下が進んでいて、日常生活にかなり支障をきたしているのではということは想像できます。けれども、それだけではナツさんの生活(いき)ることを続けていく上での課題はみえてきません。「どのようなことが生活のしづらさとなっているのか」「本人はそのことをどのように感じているのか」ということを明確にしていくことが必要です。援助者は時に、他者から聞いた話や、情報提供用紙に記された内容から相手の生活状況をわかったつもりになってしまうことがありますが、必ず生活の場に足を運んで事実を確認すること(動察)が必要です。実際にどのようなことが起きているのか、ナツさんがその状況をどのように感じているのかを確認(真察)し、そしてナツさんの生活にかかわる周囲の人たちとの間でどのような問題が生じてきているのかを確認すること(間察)が大切です。
ナツさんの例では、そのように現状(事実)確認を行った結果、失見当や記憶力の低下から、ゴミ出しの日を間違えて近所の人から注意を受けたり、テレビの調子がおかしいと言っては何度も電気屋に電話をかけ呼んでしまったり、というような生活のしづらさにつながっていることがわかりました。そして、近所の人や昔から付き合いのあった電気屋との関係もこじれてしまっていることもわかってきました。
また、ナツさん本人はそのような状況を、「ゴミステーションにゴミを出すと、近所の人に叱られる」「電気屋に来てもらってもちっともよくならない」というように感じており、何とかしなくてはと困っていたのでした。そして、そんなナツさんの思いは、怒られないようにこっそり草むらや側溝にゴミを捨てるという行動につながっていました。ナツさんの思いを「真察」していくことで、失見当や記憶力の低下が進んできているというナツさんの現状(事実)の他に、ナツさんがなんとかしようと必死で生活(いき)ている事実も確かめることができました。このようなナツさんの現状(事実)を踏まえて働きかけていくことが重要です。もしも、ナツさんの現状(事実)の確認が不十分なまま、さまざまなサービスの利用をすすめても、本人がそれを受け入れなかったり、余計に混乱させてしまうことも少なくないのです。
現状(事実)を確認するための必察ポイント(2)
…身体状況をみる
身体状況についても事実を確認していくことが重要です。認知症の場合、周囲の人が「何かおかしい」と変化を感じていても、「もう歳だから仕方がない…」というようなとらえ方で、受診につながるのが遅くなってしまう傾向があります。
ナツさんの場合も初めて訪問したときにも、明らかに認知症の症状によるものと思われる言動が日常生活でみられていました。しかし、果たして本当に認知症なのかどうかは確かめられておらず、本人も自分の中で起こっている変化は感じながらも、身体不調の不安を訴える程度にとどまっていました。そこで私は、「身体の調子が思わしくなく不安」と話すナツさんの言葉を使わせてもらいながら、「念のために身体の状態を診てもらっておくと安心かもしれませんね」と提案すると、「それもそうね。診てもらいましょうか」という同意が得られ、専門医の受診につながりました。その結果、アルツハイマー型認知症の中程度から重度に移行してきている状態であることもわかりました。
これまで、ナツさんは気丈に生活を続けてきたはいたものの、中核症状(判断力・記憶力の低下、見当識障害)が進み、相当の混乱や不安の中で生活していることを察することができました。今後同じような状況が続けば、BPSD(認知症の周辺症状)につながっていくのでは、ということが考えられました。
その予測が現実になり、次第にナツさんの言動にさらなる変化が表れました。それまで、大事に育ててきた花を近所の人にわけてあげたりしていたのですが、ある時近所の人に対して「家の庭の花や植木を勝手に盗っていってしまう」と言ったり、その頃かかわり始めたケアマネジャーに対しても「私の生け花の本を貸してあげたのに返してくれない」などと被害的なことを言いはじめたのです。そのようなナツさんの変化は、認知症の進行によるものと考えられました。そこで、さらに身体状況について確認していくと、脱水による相当な便秘の状態であることがわかりました。
このような身体状態に適切に対処していくことで、ナツさんの被害的な言動は落ち着いていきました。もしも、「認知症だから仕方ない」という決めつけや、「認知症が進んでしまったのだろう」という思い込みでかかわってしまうと、ナツさんらしく生活(いき)ることを続けるために必要な対応を考えていくことができなくなってしまうのです。
以上、今回は生活(いき)ること支援の第2ステップとして、ケースの現状(事実)を確かめることの大切さをお伝えしました。次回はいよいよ最終回。第3ステップとして、生活(いき)ること支援に必要な社会資源とは、そしてそれらをどのように活かしていったらよいのかをお伝えしていきたいと思います。
ナツさんの場合も初めて訪問したときにも、明らかに認知症の症状によるものと思われる言動が日常生活でみられていました。しかし、果たして本当に認知症なのかどうかは確かめられておらず、本人も自分の中で起こっている変化は感じながらも、身体不調の不安を訴える程度にとどまっていました。そこで私は、「身体の調子が思わしくなく不安」と話すナツさんの言葉を使わせてもらいながら、「念のために身体の状態を診てもらっておくと安心かもしれませんね」と提案すると、「それもそうね。診てもらいましょうか」という同意が得られ、専門医の受診につながりました。その結果、アルツハイマー型認知症の中程度から重度に移行してきている状態であることもわかりました。
これまで、ナツさんは気丈に生活を続けてきたはいたものの、中核症状(判断力・記憶力の低下、見当識障害)が進み、相当の混乱や不安の中で生活していることを察することができました。今後同じような状況が続けば、BPSD(認知症の周辺症状)につながっていくのでは、ということが考えられました。
その予測が現実になり、次第にナツさんの言動にさらなる変化が表れました。それまで、大事に育ててきた花を近所の人にわけてあげたりしていたのですが、ある時近所の人に対して「家の庭の花や植木を勝手に盗っていってしまう」と言ったり、その頃かかわり始めたケアマネジャーに対しても「私の生け花の本を貸してあげたのに返してくれない」などと被害的なことを言いはじめたのです。そのようなナツさんの変化は、認知症の進行によるものと考えられました。そこで、さらに身体状況について確認していくと、脱水による相当な便秘の状態であることがわかりました。
このような身体状態に適切に対処していくことで、ナツさんの被害的な言動は落ち着いていきました。もしも、「認知症だから仕方ない」という決めつけや、「認知症が進んでしまったのだろう」という思い込みでかかわってしまうと、ナツさんらしく生活(いき)ることを続けるために必要な対応を考えていくことができなくなってしまうのです。
以上、今回は生活(いき)ること支援の第2ステップとして、ケースの現状(事実)を確かめることの大切さをお伝えしました。次回はいよいよ最終回。第3ステップとして、生活(いき)ること支援に必要な社会資源とは、そしてそれらをどのように活かしていったらよいのかをお伝えしていきたいと思います。