面接のはじまりの段階で必要な「伝達力」とは、相談者や当事者が発する言葉の背景にある「思い」を察しながら、相手が本来もっている課題解決力を発揮できるように働きかけていくことです。今回は、援助者の働きかけによる相手の具体的変化について考えていきます。
第9回 「伝達力」で相手の力を引き出す(その2)
相談者に前向きに課題に取り組んでいこうとする思いが湧いてくると、身体言語も次第に変化してきます。
Kさんの場合も、その思いを察し、気持ちの整理をサポートすることで、母親の様子について落ち着いて現実を受け止めて考えられるようになるでしょう。そのような心境になったところで、専門職が適切な情報や技術を提供していくと、Kさんの訴えの背後にある思い(心の声)も変容してきます(表)。Kさんなりにできることを考えるようにもなり、「母のためにいかせる介護サービスはどのようなものがありますか?」などといった言葉がでてくるかもしれません。
相談時の訴え | Kさんの思い(心の声) | → | 面接後のKさんの思い(心の声) |
---|---|---|---|
「片付けもしなくなって家でごろごろしている」 | お母さんは怠け者でないはずなのに、どうして? | → | これまでしてきたことができにくくなっているのね。できる限り見守っていこう。 |
「最近では汚れた服を何日も平気で着ているし」 | あのきれい好きなお母さんが、だらしなく汚い服を着ているなんて信じられない! | → | 別にしたくてそうしているのではない。今度はさりげなく好きな色の服でも用意してみようかなぁ。 |
「億劫がってお風呂にもしばらく入っていない」 | どうしてさっぱりしたいと思わないの? しっかりしてよ! | → | お風呂に入るタイミングが合わないのかなぁ。今度は雰囲気を変えてスパ(銭湯)でも誘ってみようかなぁ。 |
「大便がついた下着がタンスの中に入っている」 | どうしちゃったのお母さん! いい加減にしてよ!! | → | あまり騒がなくてもすむように、服を着替える時にさりげなく下着も交換できるように準備しておこう。 |
このようになると、Kさんの叔母さんに対する思いも変化し、叔母さんに言われたから(仕方なく)相談に来たという思いから、「叔母さんも心配してくれるのだから、協力をお願いしてみようか」というふうに、これまでの困惑、混乱という負のベクトルが正のベクトルに変容し始めます。
生活(いき)ること支援の専門職に必要な伝達力とは、速やかに専門的な知識や情報を伝える力ではなく、まずは相手の訴えに含まれる「思い」を察し、相手の課題解決力を発揮できるように働きかけていく力なのです。私たち専門職の役割は、すぐに知識や技術を提供する前に、相手の思いを聴き、「相手の発する言葉」や「なじみの言い回し」をいかしながら課題の整理をサポートしていくことです。それぞれの人が本来、課題解決していける力をもっているということを、忘れてはなりません。
次回はいよいよ、「7つの察する視点」を活かした生活支援の実践を紹介していきたいと思います。
生活(いき)ること支援の専門職に必要な伝達力とは、速やかに専門的な知識や情報を伝える力ではなく、まずは相手の訴えに含まれる「思い」を察し、相手の課題解決力を発揮できるように働きかけていく力なのです。私たち専門職の役割は、すぐに知識や技術を提供する前に、相手の思いを聴き、「相手の発する言葉」や「なじみの言い回し」をいかしながら課題の整理をサポートしていくことです。それぞれの人が本来、課題解決していける力をもっているということを、忘れてはなりません。
次回はいよいよ、「7つの察する視点」を活かした生活支援の実践を紹介していきたいと思います。