これまで9回にわたって「察する」ということをキーワードに、ソーシャルワーカーに必要な視点、力(想像力・内省力・伝達力)、ソーシャルワーカーに求められる価値、情報や知識の活かし方などをお伝えしてきました。いよいよ、今回からは本連載のまとめに入ります。実践事例を通して、私自身がどのような流れで生活(いき)ること支援を進めているのかを3つのステップに整理し、ポイントを具体的にお伝えしていきたいと思います。
第10回 事例から学ぶ…生活(いき)ること支援の第1ステップ
〜「思いを察する」ことから始めよう!
ナツさん(86歳、女性)の事例
ナツさんは、結婚後子どもは授からず、夫が経営する会社の経
理や家事をこなしながら夫を支えてきた。夫は50代半ばで病気
に倒れ、献身的に介護に当たるが、2年間の闘病生活の末亡く
なった。
その後70歳を過ぎるまで、昼間は結婚前に取得した資格を活か
して華道教室を開き、夜は料亭で働くなどして生活を成り立た
せてきた。一人っ子で身よりもないことから、夫方の甥の誘い
で、「公正証書遺言書」を作成して甥の家の近くに家を建て移
住。しかし、移住先での生活で本人の意向にそぐわない出来事
が続いたため、甥の世話にはならないことを決意し遺言書も取
り下げた。
何とか自力で生活を続けてきていたが、85歳を過ぎた頃、自ら
漠然とした身体不調の不安を行政の保健師に相談。鬱的な状態
や軽度の認知症も疑われ、今後生活面でのサポートの必要性を
感じた保健師から社会福祉士事務所のソーシャルワーカーに協
力支援が求められた。介護保険では「要介護1 」の認定である。
夫や妻を亡くした一人暮らしの方が認知症になり、何らかの支援
が必要となってくる本事例のようなケースは今後ますます増えてくる
と考えられます。最初に援助の方向性を考える際に、援助者はどう
しても、「一人暮らし」や「認知症」という部分にとらわれがちです
が、ここで大切なのが、まず相手の思いを「察する」ということです。
これまでその方がどんな思いで生活(いき)てきたのか、今どんな思
いで生活(いき)ているのか、そのことに真っ先に関心を寄せること
が必要です。それを忘れてしまうと、単に制度やサービスに当ては
めるだけのかかわりになってしまいかねません。
「思いを察する」ということは援助の過程で繰り返し行わなければ
ならないことですが、特に、初回面接ではつぎのようなポイントを押
さえて実践してみてください。
必察ポイント(1) 玄関先や室内の様子などからも必察してみよう!
私が初めて保健師と同行してナツさんのお宅を訪問したとき、すぐに目に入ってきたのが、きれいに片付けられた玄関に飾られている花でした。豪華ではないけれど、凜と生けられた野の花にナツさんの生きる姿勢が感じられました。奥の部屋から出てきたナツさんは、かなり緊張した面持ちで私たちを迎えてくれました。私が「きれいな花ですね」と言うと、ナツさんは「ありがとうございます。庭に咲いている花なんですよ」と笑顔を見せてくださいました。
この後、私は月に1回のペースで、2年間訪問面接を続けることになりましたが、花はその時その時のナツさんの状態そのものでした。毎回、凜と生けられていた花に、徐々に力が感じられなくなり、やがて自慢の花器だけが置かれている状態が多くなっていきました。そのような生活の様子の変化からも必察を続けていくことで、相手の思いに添って、必要な支援を行うことが可能になっていきます。
この後、私は月に1回のペースで、2年間訪問面接を続けることになりましたが、花はその時その時のナツさんの状態そのものでした。毎回、凜と生けられていた花に、徐々に力が感じられなくなり、やがて自慢の花器だけが置かれている状態が多くなっていきました。そのような生活の様子の変化からも必察を続けていくことで、相手の思いに添って、必要な支援を行うことが可能になっていきます。
必察ポイント(2) 相手の思いを聞くことに意識を集中しよう!
実際に初回面接をどのように進めていったらよいのか迷われることも少なくないでしょう。相手の話を聞きながらも、頭の中には制度やサービスを思い浮かべ、それらに関する情報を提供したり、利用に結びつけたりすることを面接の目的と考える援助職も少なくないのではないでしょうか。
私が援助実践で留意していることは、まず相手の話を聴くことに意識を集中することです。それは、相手が今どんな思いでいるのかについて最も関心を寄せるということでもあります。「傾聴」が援助職にとって重要な基本姿勢であるということは、みなさん承知されていることと思いますが、実際は、聞いているようで、聴けていないことが少なくないように思えるのです。何をどう聞いたらよいかわからないまま、相手の話をただ聞き流してしまっていたり、援助者の主観というフィルターを通して、話を聞いたつもりになってしまっていることもあります。「思いを聴く」ということは、単に相手の発する言葉を聞くということではなく、時に言葉にならない思いも引き出していくということです。そのために、私は、相手が安心できる話題から話をはじめるようにしています。
ナツさんとの初回面接では、花の話題から始めました。保健師さんからの、ナツさんは花が好きで生け花を教えてきたという情報から、それを何より誇りにされていることを想像できていたからです。緊張の面持ちのナツさんに通された居間から見えたのは、庭に咲く花々でした。「花がいきいきとした素敵な庭ですね」と私が感じたままに話しかけると、ナツさんは「家を建てたら、庭を好きな花で一杯にするのが夢だったんです」と応えてくれました。その後も、夫への思いやこの家で暮らしてきた思いなどを話してくれました。
その話をしてくれているナツさんの表情や息づかい、そして全身から発せられる一つひとつメッセージから、これまで精一杯生活(いき)てきたナツさんの姿を察することができました。そして、最後にナツさんがくり返し話してくれた「できる限りはこの家で」「一人になっちゃったけど安らかな最後を迎えたい」という言葉をそのまま私も遣わせてもらいながら、今どんな思いでいるのか、そしてこれからどうしていきたいのかをナツさん自身に確認させてもらいました。その思いを尊重しながら、この後ナツさんへの生活(いき)ること支援が始まることになりました。
次回は、生活(いき)ること支援の第2ステップ、そして第3ステップについてお伝えします。
私が援助実践で留意していることは、まず相手の話を聴くことに意識を集中することです。それは、相手が今どんな思いでいるのかについて最も関心を寄せるということでもあります。「傾聴」が援助職にとって重要な基本姿勢であるということは、みなさん承知されていることと思いますが、実際は、聞いているようで、聴けていないことが少なくないように思えるのです。何をどう聞いたらよいかわからないまま、相手の話をただ聞き流してしまっていたり、援助者の主観というフィルターを通して、話を聞いたつもりになってしまっていることもあります。「思いを聴く」ということは、単に相手の発する言葉を聞くということではなく、時に言葉にならない思いも引き出していくということです。そのために、私は、相手が安心できる話題から話をはじめるようにしています。
ナツさんとの初回面接では、花の話題から始めました。保健師さんからの、ナツさんは花が好きで生け花を教えてきたという情報から、それを何より誇りにされていることを想像できていたからです。緊張の面持ちのナツさんに通された居間から見えたのは、庭に咲く花々でした。「花がいきいきとした素敵な庭ですね」と私が感じたままに話しかけると、ナツさんは「家を建てたら、庭を好きな花で一杯にするのが夢だったんです」と応えてくれました。その後も、夫への思いやこの家で暮らしてきた思いなどを話してくれました。
その話をしてくれているナツさんの表情や息づかい、そして全身から発せられる一つひとつメッセージから、これまで精一杯生活(いき)てきたナツさんの姿を察することができました。そして、最後にナツさんがくり返し話してくれた「できる限りはこの家で」「一人になっちゃったけど安らかな最後を迎えたい」という言葉をそのまま私も遣わせてもらいながら、今どんな思いでいるのか、そしてこれからどうしていきたいのかをナツさん自身に確認させてもらいました。その思いを尊重しながら、この後ナツさんへの生活(いき)ること支援が始まることになりました。
次回は、生活(いき)ること支援の第2ステップ、そして第3ステップについてお伝えします。