口の中に常に何かを入れています。これって、何か意味があるのでしょうか?
●88歳 女性(介護度4 C2 4)の場合:観察力は鋭く、目に入ってくる情報を口にするので、理解力はそんなに低下していないように見えます。たとえば、食堂で立って食事が出るのを待っていると「そこで立っている看護師さん、ご飯もってきて」、職員の人数や手を挙げて立っていれば「手挙げとる看護師さん」などと言われるのです。
また、むせが強く、自力で食事させるとかき込んで食べてしまい、誤嚥の危険もあるため、現在は介助にて食事をしていただいています。最近は上下の義歯が合わなくなったので、1日中はずした状態で過ごしています。以前より義歯には執着があり、口から出し入れするような仕草をよくみかけていました。また、義歯をはずすと不穏になったりします。
現在は以前のような不穏な状態にはなりませんが、口の中に常に何かを入れているのが目立ってきました。着ている服の裾や首にかけてあるタオルの端、布団の角などを、しゃぶっているというより噛んでいる状態です(子どもの指しゃぶりみたいな感覚に見えます)。
ときどき、タオルなどに血の跡が見られるため、歯茎から出血しているようです。また、唾液でベタベタのタオルなどが常にあごに当たっている状態のためか、あごに発赤がみられます。
義歯をはずしてからこれらの行為が見られるようになったので、何か関連性はあるのでしょうか? やめさせるべきか否か…。
本人にとって、意味がある行動だとしたら、むやみに止めることは拘束になるのでは? という意見も職員の間からは出ていました。
アセスメントをもう少し深めることが重要
ご質問の内容は1)着ている服やタオル、布団の角などをしゃぶる行為に意味があるのか、2)しゃぶる行為をやめてもらう代替ケアがあるのか、の2点が主かと思われます。
これに関連して、以下の点からのアプローチを検討してみられてはいかがでしょうか?
1.「上下歯の義歯が合わなくなり、日中はずした状態で過ごしてもらっている」ということですが、どうして義歯が合わなくなったのでしょうか? 以前から義歯に執着があり、義歯をはずすと不穏になるということが分かっているのに、義歯をはずしている理由は何でしょうか?
まずは、なぜ義歯が合わなくなったのかというアセスメントが必要かと思います。疾病に関連した体重の減少はないのか、認知症に伴う空間無視、摂取動作障害等の影響はないのか。出血があるようなので口腔内に口内炎や歯肉炎、あるいは腫瘍等の問題はないのか、また、常に口の中に何かを入れていることやよだれがみられることから、オーラルジスキネジアなども考えられるかと思います。だとすれば、内服薬の検討や心理的要因がないかなどのアセスメントも必要ではないでしょうか。
2.むせが強く、かき込んで食べ、誤嚥の危険があるため介助されているということですが、嚥下障害の状況の確認、嚥下体操や口腔ケアの実施のほか、利用者に適したテーブルや椅子の高さ等の検討が必要と思われます。
また、かき込んで食べるのは、認知症に伴う理解力・判断力の低下が原因と考えられますが、記憶障害により食べたことを忘れることや、満腹中枢の障害による空腹感のために、待つことができないことも要因として考えられると思います。
3.代替ケアについては、次のように考えてみてはいかがでしょうか。「そこに立っている看護師さん、ご飯を持ってきて」「手を挙げている看護師さん」などといわれることから、ご本人は職員と他の利用者を区別することができる程度の理解力はあるので、ゆっくり説明し、お碗やお皿を小さくし、小分けにすることも1つの方法かと思われます。
また、「コミュニケーションが困難で、こちらの指示が入らない認知症の人」ととらえるのではなく、「視る能力は保たれている」「言語で自分の意思を伝えることができる」「タオルや布団の角を握ることができる」等の多くの生活機能をもっていることに着目することが大切ではないでしょうか。
同様に、しゃぶる行為はおそらく手近にそれ以外に興味、関心を向けるものがないということが要因で起こっているとも考えられます。したがってタオルや布団などへ関心が向かないよう、興味、関心がある趣味や特技、レクリエーションなどを試みたり、職員とのかかわりの時間を意識的に多くもつように取り組んでみられたらいかがでしょうか。
いずれにせよ、このケースではアセスメントをもっと深めることが重要かと思われます。
(回答者:介護老人保健施設「孔子の里」副施設長 松永美根子)
これに関連して、以下の点からのアプローチを検討してみられてはいかがでしょうか?
1.「上下歯の義歯が合わなくなり、日中はずした状態で過ごしてもらっている」ということですが、どうして義歯が合わなくなったのでしょうか? 以前から義歯に執着があり、義歯をはずすと不穏になるということが分かっているのに、義歯をはずしている理由は何でしょうか?
まずは、なぜ義歯が合わなくなったのかというアセスメントが必要かと思います。疾病に関連した体重の減少はないのか、認知症に伴う空間無視、摂取動作障害等の影響はないのか。出血があるようなので口腔内に口内炎や歯肉炎、あるいは腫瘍等の問題はないのか、また、常に口の中に何かを入れていることやよだれがみられることから、オーラルジスキネジアなども考えられるかと思います。だとすれば、内服薬の検討や心理的要因がないかなどのアセスメントも必要ではないでしょうか。
2.むせが強く、かき込んで食べ、誤嚥の危険があるため介助されているということですが、嚥下障害の状況の確認、嚥下体操や口腔ケアの実施のほか、利用者に適したテーブルや椅子の高さ等の検討が必要と思われます。
また、かき込んで食べるのは、認知症に伴う理解力・判断力の低下が原因と考えられますが、記憶障害により食べたことを忘れることや、満腹中枢の障害による空腹感のために、待つことができないことも要因として考えられると思います。
3.代替ケアについては、次のように考えてみてはいかがでしょうか。「そこに立っている看護師さん、ご飯を持ってきて」「手を挙げている看護師さん」などといわれることから、ご本人は職員と他の利用者を区別することができる程度の理解力はあるので、ゆっくり説明し、お碗やお皿を小さくし、小分けにすることも1つの方法かと思われます。
また、「コミュニケーションが困難で、こちらの指示が入らない認知症の人」ととらえるのではなく、「視る能力は保たれている」「言語で自分の意思を伝えることができる」「タオルや布団の角を握ることができる」等の多くの生活機能をもっていることに着目することが大切ではないでしょうか。
同様に、しゃぶる行為はおそらく手近にそれ以外に興味、関心を向けるものがないということが要因で起こっているとも考えられます。したがってタオルや布団などへ関心が向かないよう、興味、関心がある趣味や特技、レクリエーションなどを試みたり、職員とのかかわりの時間を意識的に多くもつように取り組んでみられたらいかがでしょうか。
いずれにせよ、このケースではアセスメントをもっと深めることが重要かと思われます。
(回答者:介護老人保健施設「孔子の里」副施設長 松永美根子)