第1回 医療を取り巻く社会の仕組み
世界一の長寿大国なのに、医療には不満?
以前、3000名以上の一般を対象に、ある医療アンケートが行われました。
その中で、「患者本位の医療は実現しているか」の問いに対して、実に67.9%の人が「まだまだ不十分」あるいは「まったく不十分」と解答しました。アンケートは「日本人のほとんどが、医療に対する何らかの不信や不満を持っていると考えられる」と締めくくられていましたが、世界一の長寿国(日本)に寄与してきた医療に対して、どうして日本の国民は不満を抱くのでしょうか?
その中で、「患者本位の医療は実現しているか」の問いに対して、実に67.9%の人が「まだまだ不十分」あるいは「まったく不十分」と解答しました。アンケートは「日本人のほとんどが、医療に対する何らかの不信や不満を持っていると考えられる」と締めくくられていましたが、世界一の長寿国(日本)に寄与してきた医療に対して、どうして日本の国民は不満を抱くのでしょうか?
10人中8人が病院で死ぬ現実
その昔、医療は地域の中に根ざし、人々の生活に密着し溶け込んでいました。地域コミュニティの中で生命が誕生し、生活の中に、病も人の死も存在していました。そこには「癒しと慰め」の精神が、いつでも溢れていたのです。
20世紀に入り、日本の西洋医学はめざましく発達し、治す医療、延命のための高度な医療がスポットライトを浴び、病院が医療の中心を担うようになりました。日本人に根づいた病院信仰は、「死ぬ時ぐらいは病院で」という感覚を助長し、国民の80%以上が病院で亡くなるという、世界でも例を見ない状況が作られたのです。
一方、在宅に目を移すと、少子化、核家族化に伴う介護力の低下も要因となり、1950年代に80%を超えていた在宅死は、今や15 %程度にまで減少しています。
20世紀に入り、日本の西洋医学はめざましく発達し、治す医療、延命のための高度な医療がスポットライトを浴び、病院が医療の中心を担うようになりました。日本人に根づいた病院信仰は、「死ぬ時ぐらいは病院で」という感覚を助長し、国民の80%以上が病院で亡くなるという、世界でも例を見ない状況が作られたのです。
一方、在宅に目を移すと、少子化、核家族化に伴う介護力の低下も要因となり、1950年代に80%を超えていた在宅死は、今や15 %程度にまで減少しています。
医療技術、薬物、医療機器、コンピューター技術等の発達により達成された高度かつ重装備の医療が、健康で長生きしたいという人々の夢をかなえてきたことは事実です。しかしながら、医療の発達に反比例して、医療者と患者との間の距離は次第に遠くなった気がします。高度医療と同時に、国民は「優しい医療」を望んでいることを医療者は知る必要があるでしょう。
在宅医療が推進される理由
近年、医療分野のみならず、一般社会でも「在宅医療」という言葉を耳にすることが多くなりました。この背景として、大きく2つの理由があると考えられます。
1つは、医療の経済的問題です。お年寄りは多くの病気をもっているため、他の世代の人に比べて3、4倍の医療費がかかります。その上、日本は世界が経験したことのないスピードで高齢化が進んでいるため、国民医療費は今後ますます高騰します。そこで、入院でかかる医療費よりも一般的に安くつく在宅医療を推進することで医療費を削減したいという、国家としての希望があります。
もう1つは、老衰やがん、難病などで積極的な治療法がない場合に、病院ではなく、できるだけ住み慣れた家で過ごしたいという患者側の希望です。
老いれば老いるほど、私たちは身体に故障をきたしやすくなります。お年寄りが増えるということは、病む人、死んでゆく人が増えるということです。しかし、そうした状況にありながら、日本では病院のベッドが増やされることはなく、特別養護老人ホームには全国で42万人の待機者が存在します。ですから、病院や施設ではなく、在宅で療養せざるを得ない人々が今後ますます増えていくことになります。
どこでどのように生きて、どのように死にたいか、どの場面でどのような医療を受けたいか、私たち一人ひとりその希望は異なります。病院で行われる医療と在宅で行われる医療のもつ役割は、必ずしも同じではありません。ですから、それぞれの希望に応えるべく、提供者側は医療やケアの選択肢を場面ごとにきちんと示さなくてはなりません。
今後、在宅医療のニーズが高まる中、在宅医療が医療としての高い質を保ち、なおかつ患者の生活やいのちに寄り添い、慰めや癒しを与えるものであるとき、人々の求める患者本位の医療が、社会に蘇ってくることでしょう。
本連載では、自宅で死ぬという思いをもったとき、どのような心構えや備えが必要とされるのかを考えていきます。
次回は、2月3日(金)更新予定です。
1つは、医療の経済的問題です。お年寄りは多くの病気をもっているため、他の世代の人に比べて3、4倍の医療費がかかります。その上、日本は世界が経験したことのないスピードで高齢化が進んでいるため、国民医療費は今後ますます高騰します。そこで、入院でかかる医療費よりも一般的に安くつく在宅医療を推進することで医療費を削減したいという、国家としての希望があります。
もう1つは、老衰やがん、難病などで積極的な治療法がない場合に、病院ではなく、できるだけ住み慣れた家で過ごしたいという患者側の希望です。
老いれば老いるほど、私たちは身体に故障をきたしやすくなります。お年寄りが増えるということは、病む人、死んでゆく人が増えるということです。しかし、そうした状況にありながら、日本では病院のベッドが増やされることはなく、特別養護老人ホームには全国で42万人の待機者が存在します。ですから、病院や施設ではなく、在宅で療養せざるを得ない人々が今後ますます増えていくことになります。
どこでどのように生きて、どのように死にたいか、どの場面でどのような医療を受けたいか、私たち一人ひとりその希望は異なります。病院で行われる医療と在宅で行われる医療のもつ役割は、必ずしも同じではありません。ですから、それぞれの希望に応えるべく、提供者側は医療やケアの選択肢を場面ごとにきちんと示さなくてはなりません。
今後、在宅医療のニーズが高まる中、在宅医療が医療としての高い質を保ち、なおかつ患者の生活やいのちに寄り添い、慰めや癒しを与えるものであるとき、人々の求める患者本位の医療が、社会に蘇ってくることでしょう。
本連載では、自宅で死ぬという思いをもったとき、どのような心構えや備えが必要とされるのかを考えていきます。
次回は、2月3日(金)更新予定です。