精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第31回:精神疾患の親をもつ子ども・若者と孤独・孤立

2026/05/25

 みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。

 

 「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。

 

 第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。今回は、孤独・孤立をテーマに書いていけたらと思います。

 

著者

平井登威(ひらい・とおい)

2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。

 

NPO法人CoCoTELI

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 先日、内閣府孤独・孤立対策月間内イベント、認定NPO法人もやいの大西連さんがパーソナリティを務める「参与の部屋」という企画に、認定NPO法人ASKや一般社団法人Voidで若者支援や依存症啓発・支援等の文脈で大活躍されている風間暁さんとともに出演させていただきました。

 

 3人でざっくばらんに語り合うその場で、普段はなかなか言語化しないことをたくさん話せた気がしています。せっかくなので、そこで話したこと、考えたことをまとめてみます。


「自分だけが抱えている」という孤独

 テーマが「孤独・孤立」ということで、その視点から精神疾患やメンタルヘルスの不調を有する親のもとで育つ子ども・若者たちの孤独・孤立について考えてみます。

 

 この領域、実はとても広く、海外の調査では、子ども全体の15〜23%、つまり4〜7人に1人が、メンタルヘルス不調を有する親のいる環境で育ったことがあるとされています。

 

 それだけたくさんいるはずなのに、僕たちが出会う子ども・若者たちのほとんどが、口を揃えてこう言います。

 

 「ずっと、自分だけだと思っていた」と。


状況に名前がつかないから、自分の状況がわからない

 この問題の1つの難しさは、「今経験している状況に名前がつかない」ことが多い点だと思っています。

 

 精神疾患の親をもつ子どもは、自分の置かれた環境を言葉で説明しようとしても、なかなか表現する言葉が見当たらない状況であることが多くあります。

 

 虐待まではいかないし、家にお金がない訳でもない。でも、親のメンタルヘルスの調子によって家が安全・安心でなくなることがある、時には親の命にかかわることもある。親がしんどくならないように、自身にしんどい状況が起こることを予防するために、日々の選択において親の体調の安定を第一にしている(あくまでも一例です)。

 

 しかし、そんな状況を表す言葉はほとんどありません。

 

 最近よく聞くヤングケアラーといった言葉が当てはまる場面もありますが、ケアをしている子もいればしていない子もいます。そもそもヤングケアラーという言葉は本人が自認しづらいものだと思います。

 

 「精神疾患の親をもつ子ども」という以上の、これという名前がないということが多くあります。でも、自身の状況を認識・言語化できなければ、相談もできません。相談できなければ、支援にもつながれません。

 

 他者の家庭の状況を知る機会、自身の家庭の状況を相対化することがほとんどなかったり、そもそも親の病気について説明されたことのない子ども・若者が多かったり、精神疾患への偏見等から家の外に話していけない秘密になっていることが多かったりする社会。

 

 そんな社会の中で自身の状況を表す名前のなさは、似たような存在の連想しづらさにもつながり、孤独感を深めていきます。

 

 「言っても理解してもらえるかわからない」「そもそもなんて伝えたらよいかわからない」「言ったら親の病気について馬鹿にされるかもしれない」など、他者に話す際の怖さは計り知れません。

 

 そんな中でCoCoTELIとしては、相談等のハードルを下げる存在や役割の1つとして「ピア」の存在が大きいと考えています。

 

 精神疾患の親をもつ子ども・若者たちのような社会から見えづらい存在への支援を考える際に、「支援する」の前に「つながる」「つながり続ける」というステップを考える必要があります。

 

 でも、前述したような構造から生まれる「理解してもらえるかわからない不安」や親と同年代の大人への恐怖心等から、子ども・若者にとって支援者と「つながる」や「つながり続ける」といったハードルはとても高いです。

 

 そんな中で、似た経験をしている近い年代の人=言葉にするのが難しいしんどさや経験をわかってくれる可能性が高そうな「ピア」という存在が、相談の不安やハードルを下げ、つながることで「1人なんじゃないか」という孤独感を和らげたり、似たような経験をしている他者の状況を見て「自分の状況はしんどいと言ってよいんだ/こういうことだったんだ」と気づける瞬間があります。

 

 そんなふうに「つながる」「つながり続ける」というフェーズにおいて、ピアがもつハードルを下げる力は本当に大きいと思います。しかし、ピアには危険性も大きくあります。だからこそ、CoCoTELIはピアだけ、専門職だけ、ではなく、ピアと専門職が対等に融合する支援づくり、場づくりを大切にしています


当事者の多様な側面

 「精神疾患の親をもつ当事者であること」はその子の多くの側面のうちの1つに過ぎません。しかし、多くの場合、そのような困難の「ラベル」を聞くと、目の前の子ども・若者のことをそのラベル前提で見てしまうことが多いように感じます。

 

 親がメンタルヘルスの不調を有している、という経験は確かにある。でも、その子は同時に、サッカーが好きかもしれないし、アイドルが好きかもしれない。好きな食べ物があって、夢があって、悩みがあるかもしれない。

 

 「当事者」というラベルだけでその人を見てしまうと、目の前の子ども・若者が有する多様な側面を見失ってしまうように思います。

 

 そんな中で、CoCoTELIが運営するオンラインの居場所では、ピアスタッフ(有償スタッフ)・ピアサポーター(ボランティア)と専門職が一緒になって、月10〜15回のペースでいろんなイベントをやっています。

 

 ランチを一緒に食べる会、ただ雑談する会、うつ病の親をもつ人たちの会、統合失調症の親をもつ人たちの会、「実家と距離を置きたい人の会」など、当事者の子ども・若者の相談を受ける中で生まれたテーマでのイベント開催等も多くしています。

 

 ここで感じるのは、ピアにもいろんな形があり、どこで切り分けるかも人それぞれであるということです。だからこそ、場や支援の設計においてピアがもつハードルを下げる役割やリスク等を整理することは重要という前提のもと、いろんな角度のピアがあればいいと思うし、子ども・若者とのかかわりの中では必要以上にラベルを気にしなくてもよいのではないかなと思っています。

 

 当日の話をもっと詳しく聞いてみたい方はぜひ、 こちらの動画 をご覧ください(4:02:50あたりからスタートです)。大西さん、風間さんのお話、とても面白く勉強になると思います!


関連書籍

 中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。