道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第27回 なぜ、現場が変わらないのか
2026/04/14
この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)
一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。
この連載ではこれまで、現場の支援についてさまざまな角度から考えてきました。ここからは、全体を振り返りながら整理していく「締め」の段階に入ります。
数回にわたり、これまでの内容をあらためてつなぎ直しながら、現場をどう捉えていくのかを整理していきたいと思います。
問題は「支援」なのか、「構造」なのか
この連載でもたびたびお話してきましたが、今の障害者福祉の問題について、私はこんなふうに思うのです。それは、「支援」ではなく、「構造」の問題であること。
現場の支援者の方々と話をしていると、よくこんな言葉を耳にします。
「うちの職員はよくやっている」
「本当によく頑張っている」
「でも、なかなか現場が変わらなくて……」
私は、これらの言葉には、ある種のボトルネックのようなニュアンスが隠れているのではないかと感じています。努力はしている。工夫もしている。研修にも参加している。それでも、なぜか現場は大きく変わらない。
この連載を通して、私はさまざまな現場にかかわってきた経験をもとに、「支援とは何か」「なぜうまくいかないのか」を整理してきたつもりです。そして、ここで一度、あらためて立ち止まって考えてみたいと思います。
本当に問題なのは、「支援」なのでしょうか?
個人の努力では変えるのは、無理ゲーなんだって!
現場では、何か課題が起きると「支援の問題」という文脈で語られることが多いのではないでしょうか?
対応の仕方が悪かったのではないか……
かかわり方に問題があったのではないか……
職員のスキルが足りないのではないか……
もちろん、それらを否定しているわけではありません。むしろ、自らの力不足をきちんと認識し、その上でできることを増やしていこうとする姿勢は、現場を支えるうえで欠かせない前向きな力だと思います。
しかし、さまざまな現場を見ていくと、すべてに当てはまるわけではないものの、共通して見えてくる点があります。それは、どれだけ優秀な支援者がいても、その人だけでは現場全体は変わらないという事実です。
一人の職員が非常に丁寧にかかわり、利用者の状態が安定することはあります。しかし、その職員が休めば元に戻ってしまう。あるいは、そのかかわりが他の職員に共有されず、結局は“できる人だけができる支援”になってしまう—―いわゆる「属人化」問題です。
そして、この属人化は決して珍しいものではなく、むしろ多くの現場で“当たり前”のように起きています。経験のある職員に頼る。感覚的にうまくいっている方法をなんとなく続ける。うまくいった理由は言語化されないまま、その人の中にとどまる。
このような状態では、いくら個々の支援を改善したしても、現場全体としての変化にはつながらないのではないかと思います。
課題のある状況を構造として捉える
さらに言えば、この「支援の問題として捉える視点」そのものが、現場を変えにくくしている可能性があります。なぜなら、支援の問題として捉えると、解決策はどうしても「個人」に向かってしまうからです。
もっと勉強しよう
もっと観察しよう
もっと丁寧にかかわろう
もちろん、自分を高め、支援力を磨いていくことは大切です。ただ、それだけで現場全体を変えていくには、限界があるのも事実です。
むしろ、この方向に進みすぎると、現場は徐々に疲弊していきます。「自分のかかわり方が悪いのかもしれない」と悩む職員が増え、支援の責任が個人に押し付けられる構造になってしまう。
本来は起こってほしくないことですが、その結果として、バーンアウトや離職につながってしまうケースも現実には少なくありません。決して特別なことではなく、多くの現場で見られる出来事です。
では、課題はどこにあるのでしょうか。
この連載でも繰り返しふれてきましたが、ここで必要なのは、視点を一段引き上げて捉えることです。個々の支援の良し悪しだけではなく、「その支援がどのような構造の中で行われているのか」に目を向ける必要があります。
・例えば、支援の方針はどのように決まっているのか
・会議では何が話し合われ、何が決まっているのか
・その内容は現場にどのように共有されているのか
・記録はどの程度機能しているのか
・役割分担や意思決定の流れは明確になっているのか
・そして、自分の意見がどのように扱われているのか
もしくは……、
・そもそも意見を安心して言える環境になっているのか
・不本意な業務を一方的に引き受けるような状況になっていないか
こうした点も含めて、支援が行われる「構造」を見ていく必要があります。
一見すると、これらは支援とは直接関係がないように思えるかもしれません。しかし実際には、こうした要素が整っていなければ、支援は安定しません。つまり、支援の質は、構造に強く依存しているのです。
これまでの連載の中でも繰り返しお伝えしてきましたが、現場を考える上では、三つの層で捉えることが大切です。
一つ目の層は「支援」、利用者への具体的なかかわりです。
二つ目の層は「支援のマネジメント」、現場の運営や調整などチームの設計です。
そして三つ目が「組織マネジメント」、意思決定や組織の仕組みの設計です。
ただ、現場によって差はあるものの、この三つがうまくつながっていないケースも少なくありません。支援は支援、管理は管理、経営は経営といった具合に、それぞれが別のものとして扱われているケースです。本来、これらは切り離せるものではないと思います。
どれだけ良い支援のアイデアがあっても、それを共有する仕組みがなければ広がりません。
どれだけ会議を開いても、意思決定のルールが曖昧であれば、現場は動きません。
どれだけ理念を掲げても、日々の業務に落とし込まれていなければ意味がありません。
支援を変えようとするとき、この三つの層にかかわってくることは、むしろ前提として捉える必要があります。だからこそ、コンサルテーションにおいては、その事業所の課題がどの層に存在しているのかを見極めることが、出発点になると思っています。
人材不足時代における「投資の転換」
現在、障害福祉分野に限らず、福祉業界は深刻な人材不足に直面しています。業務負担の大きさや支援の難しさから離職が続き、その補填のために採用コストが増え続けています。
しかし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。
そのコストの使い方は本当に適切なのか。人が辞めた後に新しい人材を採用するための費用と、今いる職員を育成し、働き続けられる環境を整えるための費用。この二つを比較したとき、どちらがより持続可能な投資なのか。
支援の質が高まり、職員が自信をもって働けるようになれば、少なくとも今よりは離職は減少します。職員が育ち、組織としての対応力が上がれば、結果としてサービスの質も向上します。
コンサルテーションは、そのための有効な手段の一つです。
外部の専門性を活用することで、育成のスピードと質を高めることができます。つまり、コンサルにお金をかけるということは、「余裕がある法人の選択」ではなく、「将来のコストを抑えるための戦略的投資」ととらえることができるのではないでしょうか。
オルタナティブという選択肢
ここまで読んでいただくと、少し厳しい印象を持たれたかもしれません。
「結局、現場の問題ではなく、組織の問題」
「では、自分たちにはどうにも出来ないのでは?」
そう感じる方もいるかもしれません。
しかし、私が伝えたいのは、そのようなことではありません。
そして、決して悲観的な話をしているつもりもありません。
むしろ、現場が変わらない理由を「個人の力不足ではない」とリフレーミングしていくことは、現場が変わっていく過程において、とても大きな意味を持つのだと思います。
努力が足りないのではない。
やり方が間違っているわけでもない。
ただ、現状の構造がそれを支えきれていないだけなのだと思うのです。
そんなふうに捉え直すことで、これまでとは違った形で、現場の課題と向き合うことができるのではないでしょうか。そしてもしかすると、問題や課題は、これまで私たちが見てきた場所とは、まったく別のところに存在しているのかもしれません。
そうした“別の見方”をもつこと自体が、現場を変えていくための一つのオルタナティブなのだと思います。

