障害支援関係者が知っておきたいひきこもり支援の原則

2025/04/01

ひきこもりについて、障害との関連を含め、その理解と支援に必要な視点を解説します。

監修 山根俊恵 (やまね としえ)

山口大学名誉教授、(株)ふらっとCOMM.代表取締役、NPO法人ふらっとコミュニティ代表理事、(株)いちから取締役。看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)、精神科認定看護師、認知症ケア専門士の資格を持つ。「心のケア」を専門としており、2005年にNPO法人ふらっとコミュニティを立ち上げ、地域において民家を借り、精神障がい者やひきこもり者の支援を行っている。2018年に「保健文化賞」を受賞。著書に『ケアマネ・福祉職のための精神疾患ガイド 疾患・症状の理解と支援のポイント』『チームで取り組む ケアマネ・医療・福祉職のための精神疾患ガイド』(ともに中央法規)。


 

 近年、「ひきこもり」はますます社会的な課題として注目されています。内閣府の調査によると、40代以上のひきこもりの方が若年層よりも多いという結果も報告されており、その長期化や複合的な要因が課題となっています。
 「ひきこもり」は、決して一部の限られた人に起こるものではありません。障害のある方の中にも、さまざまな理由から社会とのつながりを持ちづらくなり、ひきこもり状態になる方がいらっしゃいます。
 本稿では、ひきこもりについて、障害との関連を含め、その理解と支援に必要な視点を解説していきます。


1. ひきこもりとは?~孤立してしまう状態~

 厚生労働省はひきこもりを、「さまざまな要因の結果として社会的な参加を回避し、6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」と定義しています。私は、自身の研究から「さまざまな要因により社会や人と一時的に距離を取った結果、徐々に社会とのつながりがなくなり、家族以外の他人、または家族とのコミュニケーションの機会が減ってしまった状態」と定義しています。さらに、この状態が長引くことで、自信を失ったり、人との関わりが難しくなったりすると指摘しています。

 

 大切なのは、ひきこもりは単なる怠けや甘えではなく、本人にとってさまざまな苦悩を抱えた状態であるということです。長期化すると、精神的な不調や家庭内での問題につながることもあります。

 

2. なぜ?~多様な要因が複雑に絡み合って~

 ひきこもりには、一つの明確な原因があるわけではありません。さまざまな要因が複雑に絡み合って生じます

 

例えば、

 

•いじめや友人関係の悩み
•就職活動の失敗や職場での困難
•学校生活への不適応(不登校など)
•病気や怪我
•家族関係の悩み

 

 など、誰にでも起こりうるような出来事がきっかけとなることがあります。

 

また、精神的な疾患(不安症、適応障害、パーソナリティ障害、統合失調症など)が背景にある場合や、発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など)の特性が社会生活を送る上での困難につながっている場合もあります。
特に発達障害のある方の場合は、

 

コミュニケーションの難しさから、周囲との誤解が生じやすい。
感覚過敏などの特性が、社会参加へのハードルとなることがあります。
•特性に対する周囲の理解不足や、過去の否定的な経験の積み重ねが、自信を失わせ、孤立を深めてしまうこともあります。

 

 さらに、現代社会の厳しい競争や孤立しやすい環境も、ひきこもりを生む要因の一つとして考えられます。

 

3. 支援の原則~大切なことは「寄り添う」姿勢~

 ひきこもりの支援で、最も大切なことは「本人の気持ちに寄り添う」姿勢です。

 
  • 焦らず、本人のペースを尊重する:ひきこもりからの回復には時間がかかることを理解し、すぐに結果を求めず、じっくりと見守ることが大切です。
  • 孤立させない、継続的な関わりを持つ:たとえすぐに変化が見られなくても、諦めずに、繋がりを持ち続けることが重要です。
  • 対話と傾聴を大切にする:一方的なアドバイスや説得ではなく、本人の言葉に耳を傾け、気持ちを受け止めることが、信頼関係を築く第一歩です。フィンランドの精神療法であるオープンダイアローグ(開かれた対話)の考え方を参考に、対等な関係での対話を試みましょう。
  • 問題行動の背景にある苦しさを理解する:暴力などの問題行動も、本人なりのSOSである可能性があります。なぜそのような行動をとってしまうのか、その背景にある感情や困難さを理解しようと努めましょう。機能分析という視点を取り入れ、行動のきっかけや、その行動によって何を得ようとしているのかを考えることも有効です。
  • 「できないこと」ではなく、「できること」に目を向ける:本人が持っている力(ストレングス)を見つけ、それを活かす支援を考えましょう。小さなことでも、できたことを認め、褒めることで、自信につながります。
  • 安心できる居場所を提供する:自宅だけでなく、地域の中に安心して過ごせる場所があることは、社会との繋がりを取り戻す上で重要です。
 

具体的な支援のアプローチ~一歩ずつ、共に歩む~

 具体的な支援の方法は、一人ひとりの状況に合わせて異なりますが、以下のようなアプローチが考えられます。

 
  • アウトリーチ:必要に応じて、家庭訪問などを通して、本人との関係性を築くことから始めます。
  • 傾聴と共感:まずは、本人の話にじっくりと耳を傾け、気持ちを受け止め、共感することで、信頼関係を築きます。
  • 情報提供と相談:ひきこもりに関する正しい情報を提供したり、利用できる社会資源を紹介したりします。
  • コミュニケーション支援]:障害特性によるコミュニケーションの困難さがある場合は、特性に合わせた伝え方や、ソーシャルスキルトレーニング(SST)などを活用します。
  • 家族支援:家族の方も、孤立や不安を抱えていることがあります。家族心理教育家族会などを紹介し、家族間の理解を深め、共に支え合う関係を築けるように支援します。親御さん自身が変わることで、お子さんの状況も変化していく可能性があります。
  • 社会参加へのステップ:いきなり就労を目指すのではなく、まずは趣味活動への参加や、地域との緩やかな繋がりを持つなど、段階的な目標設定が大切です。
  • 関係機関との連携:医療機関、相談支援事業所、就労支援機関など、さまざまな関係機関と連携し、包括的な支援体制を構築します。
 

支援者としての心構え~共に悩み、共に成長する~

 障害のある方のひきこもり支援は、決して簡単な道のりではありません。支援者自身も、悩み、迷うことがあるかもしれません。

 

しかし、

 

決めつけや先入観を持たず、
謙虚な姿勢で学び続ける、
諦めずに根気強く関わる、
•そして、変化を焦らず、本人の力を信じる

 

ことが大切です。

 

 私たちは、誰一人として孤立させない社会を目指し、それぞれの人が自分らしく生きられるように、共に悩み、共に成長していく存在でありたいと願っています。