道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第4回 障害とは何か? その本質を考える (その2)

2025/04/10

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。


 第3回につづき、「障害とは何か」について、一緒に考えていきます。
 今回は、「支援のゴール」について自分なりの考え方をお伝えできればと思います。
 では、早速一緒に考えていきましょう。

 

現場の悲鳴が聞こえてきそう…

 障害とは、いわゆる“普通の人”との違いであり、何かを基準にして優劣を示すものではありません。「その違いをあるがままに受け入れ、社会全体で優しく包み込むこと」が理想なのです! 強度行動障害に関する研修や支援についてかかわっていると、つい無責任にそんなふうに伝えたくなります。

 

 しかし、現場はそんなに甘くありません。

 

 私も現場にいたからこそ、その厳しさがわかります。そんな理想を投げかけられたら、「うるせー!」と言い返したくなる気持ちも理解できます。今にも現場からの悲鳴が聞こえてきそうです。

 

支援のゴールは、「強度行動障害をなくす」ことではない

 もちろん、違いを受け入れることが大切なのは言うまでもありません。理想論が好きか嫌いかに関係なく、それを否定するのは難しいでしょう。しかし、現場では、今この瞬間にも、自傷や他害などの激しい行動にどう対応するかを判断しなければならない支援者がいます。

 

 「誤った対応だったらどうしよう・・・」と緊張しながら、支援者は日々の業務に追われています。放置すれば命を脅かす大きな事故につながることだってあります。そんな日々のなかで、支援の限界を感じている人も少なくないでしょう。

 

 「違いを受け入れることが大切だ」――そんなことは現場の支援者も十分に理解しています。でも、「わかっているけれど、できないから困っている」というのが現実の声です。

 

 「きれいごとで語らないでほしい」という意見もよく耳にします。僕自身も、きれいごとだけでは語れないと感じています。

 

 ただ、あえて言うならば、きれいごとを語ることも大切だと思っています。なぜなら、きれいごとは、時に目指すべき方向を指し示してくれるからです。困難な課題に直面したとき、正しい方向へ進んでいるという安心感があれば、襲いかかる困難に立ち向かう勇気がもてます。振り返ったときに、「あの頃は大変だった」と笑えるようになるための私なりのコツです。

 

 だからこそ、堂々ときれいごとを掲げてみましょう。
 最も重要なのは、「生まれたときから強度行動障害の状態の人はいない」ということです。

 

 自閉スペクトラム症や知的障害のある人すべてが強度行動障害の状態になるわけではありません。強度行動障害は、環境とのミスマッチによって生じることが指摘されています。

 

 もしも強度行動障害が支援を含む環境の影響によって生じるのであれば、支援によってその状態に陥ることを防ぐことはできないでしょうか? そもそも強度行動障害の状態に至らなければ、いわゆる問題行動は、ただの行動になるはずです。

 

 つまり、支援のゴールは「強度行動障害の状態を改善すること」ではなく、「強度行動障害の状態に陥ることなく、豊かな生活を送れるようにすること」なのです。だからこそ、「強度行動障害を予防する」という視点を、目指すべき“きれいごと”として堂々と掲げたいと思います。

 

「違い」=「障害特性」

 では、どうすれば強度行動障害の状態を予防できるのでしょうか?

 

 ここで鍵となるのが、私たちとのさまざまな「違い」です。そこには、無意識のうちに、普通の人基準でバイアスがかかった「優劣」が発動しています。

 

 世の中の多くのものは、“普通の人”仕様でつくられています。その中で強度行動障害のある人は、きっと多くの困難に直面しています。なぜなら、私たちの「普通」は、彼らの標準仕様ではないからです。

 

 

 だからこそ、世界をほんの少しだけ操作して、強度行動障害の人にとって過ごしやすい環境をつくってみましょう。きっと、世界は少しだけ優しくなります。これもきれいごとでしょうか?

 

 世界を変える鍵は、私たちと彼らの違いにあります。ちなみに、強度行動障害支援者養成研修では、その違いをある言葉を使って表現しています。

 

 それが、「障害特性」という言葉です。

 

「障害特性」は、すでに一般的な言葉になった

 みなさんは「障害特性」という言葉を耳にしたことがありますか? 障害福祉に携わる人であれば、日常的に使っている言葉かもしれません。

 

 しかし、私がこの仕事を始めた20年数年前は、決して一般的な言葉ではありませんでした。

 

 自閉スペクトラム症の人が、言葉の理解が苦手であることや独特の対人関係をもつことは、専門家の間では共有されていたかもしれませんが、現場ではあまり知られていなかったのです。

 

 しかし、今の時代はどうでしょうか?

 

 強度行動障害という言葉は、ニュースなどでも頻繁に取り上げられるようになりました。強度行動障害支援者養成研修には全国で10万人以上が参加し、「障害特性」という言葉も瞬く間に福祉従事者の間に広がりました。かつては専門用語だったこの言葉も、今では障害福祉の業界では一般的な言葉になっています。

 

 実際に「障害特性」を調べようとすれば、障害特性の一覧表や関連書籍が簡単に見つかります。つまり、私たちと彼らの違いを知ろうと思えば、すぐに情報を得られる時代になったのです。

 

 「障害特性を知り、その違いに配慮した世界を作ること」は、本当にきれいごとでしょうか?
 私は、それこそが「正しい世界をつくるための第一歩」だと考えています。

 

 その先に広がる世界を想像してみてください。

 

 言葉が苦手な人が、言葉以外でコミュニケーションをとれる世界。言葉がなくても、意思を明確に伝えられる世界。そのような理解と配慮に満ちた世界では、強度行動障害の人たちは、果たしてずっと強度行動障害のままでいるでしょうか?

 

 その未来を想像しながら、一緒に考えていきましょう。

 

 あっ・・・! そういえば、今回、熱くなりすぎて障害特性の詳細にはふれませんでしたね。
 次回、じっくり取り上げていきますので、今回はご容赦ください。