道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第2回 強度行動障害をとりまく実情

2025/03/13

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。


 さて、前回ひととおり自己紹介をさせていただいたので、第2回では、本題である強度行動障害の支援について、少しふれておきたいと思います。

 

強度行動障害とは?

 まず、強度行動障害とは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど、周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態のことをいいます。

 

 ポイントは、「強度行動障害」という言葉は状態を示している概念であり、対象となる人が生来もっている障害ではないという点です。現在の制度において、強度行動障害とは、「障害支援区分(必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示すものとして厚生労働省令で定める区分)の認定調査項目のうち12項目ある行動関連項目の合計点数が10点以上である者」とされています。つまり、10点でも20点でも強度行動障害ということになるのです。しかし、10点以上の状態像と20点以上の状態像を比較すれば、行動の強度においては、かなりの差異があり、10点以上の人のなかには、その状態像にはかなりの濃淡が存在するであろうことは、付け加えておきます。

  

 令和3年度障害者総合福祉推進事業における「強度行動障害児者の実態把握等に関する調査研究事業報告書(令和4年3月)」(PwC コンサルティング合同会社)によると、行動関連項目10点以上の人は療育手帳保持者の15%、20点以上の人は1.2%という報告がなされました。人数にすると10点以上では全国に17万人以上、20点以上では、1万3,000人程度いることが推定されます。全数調査等を実施しているわけではないので、あくまで目安として考えられる数値ということになりますが、かなりの数の方が強度行動障害の状態にあることがわかります。

 

これまでのあゆみと「支援のスタンダード」

 わが国における強度行動障害支援の歴史は、古くは1960年代に遡ります。当時は、強度行動障害の状態にある人の対応は、濃厚な精神医療がなければ保護は不可能と考えられていました。しかし、1980年代になると、強度行動障害と自閉症の関連が指摘され、自閉症に関する新たな理解の広がりと同時にさまざまな療育技法が試みられるようになってきました。強度行動障害の支援についても、徐々に医療分野から教育や福祉の役割が重視されるようになりました。ただし、これといった効果的な療育技法は確立していない時代でした。

  

 1990年代に入ると、国において、強度行動障害の状態の人に関連するいくつかの施策が実施されるようになります。また、強度行動障害に関する研究では、継続的かつ頻繁な事例検討を通して、強度行動障害支援にとって特に有効であった支援の洗い出しが行われました。

 

 結果として、明らかになった有効な支援方法は、①構造化された環境の中で、②医療と連携をしながら、③リラックスできる強い刺激を避けた環境で、④一貫した対応のできるチームを作り、⑤自尊心を持ち一人でできる活動を増やし、⑥地域で継続的に生活できる体制づくりを進める、というものです。科学的な証明が決して十分とはいえないまでも、現在でも、強度行動障害の支援に精通した多くの施設等で納得できる「支援のスタンダード」となっています。

 

「支援のスタンダード」と養成研修のひろがり

 この「支援のスタンダード」をもとに2013(平成25)年度より強度行動障害支援者養成研修が創設されました。この研修は、過去20年の研究の集大成であるこれらの支援のスタンダード(知識や手法)を共有し、普及させる仕組みの一つとして全国で開催され、これまでに10万人以上が受講しています。

 

 強度行動障害支援者養成研修は、基礎研修と実践研修に分かれており、基礎研修は、「計画された支援の根拠を理解し、決められた手順どおりに支援をすることができる」ことを到達点としています。一方で実践研修は、「チームの動きをイメージし、支援の手順を考え文章化する。また、支援結果に合わせ、支援及び手順の修正をすることができる」ことを到達点としています。これらの研修の受講が、重度障害者支援加算の要件となっているため、全国津々浦々の事業所で研修の受講が進みました。

そして、現在地点は?

支援者養成研修の広がりによって「障害特性」「目で見てわかる支援」「支援手順書」「統一した支援」などの言葉は、瞬く間に全国の強度行動障害支援の現場に拡散したと思います。一方で、キーワードの拡散とともに支援のスタンダードの理解が深まったのか?と問われると、いささかの疑問が生じます。研修で扱っている氷山モデルを使った特性の分析や、支援手順書の運用等のいわゆる「標準的な支援」の実装率については、非常に低いという研究結果も存在しています。

  

 強度行動障害における制度の変遷や現場の人手不足等、標準的な支援の実装を阻むバリアは、いくつか思い当たります。しかし、クリティカルな要因としてとらえるには、どれもパンチが弱く、ただ、せっかくの研修が「絵に描いた餅」になっているなという無力感だけは、最近、何となく常に感じているというのが私の実感です。

  

 支援のスタンダードをつくって、研修を通じて全国に知識や技術を拡散する。知識や技術がとても重要なのは言うまでもありません。研修などにおいて、それらは一定の広がりを見せました。しかし、本当に強度行動障害の状態にある人の助けになっているのでしょうか? また同時に、強度行動障害支援を頑張っている現場の光明になっているのでしょうか?

 

 私は、支援の知識や技術だけではなく、研修を実装できない現場のリアルな部分に、まだ私たちが捕捉できていない解決すべき課題があるような気がしているのです。
 強度行動障害の現場に本当に必要なものって何なのでしょう?

 次回はそのあたりについて、まとめたいと思います。