離職防止・次世代育成・メンタルヘルス向上に役立つ!「心理的安全性」の高い医療現場のつくりかた

2024/11/13

「心理的安全性」の高い医療現場のつくりかた

この記事を監修した人

大村美樹子(株式会社アイビー・リレーションズ代表取締役)

公認心理師・キャリアコンサルタント・産業カウンセラー

目次

心理的安全性とは

 仕事の生産性が向上し、チーム皆の働きやすさが高まると注目されている「心理的安全性」について知っていますか?
 Google社が2012年から4年間行った生産性向上プロジェクトにおいて、「チームの生産性が高まる要素として最も重要なのが心理的安全性である」と発表したことをきっかけに、心理的安全性は社会的に広く知られるようになりました。
 アメリカの研究者、エイミー・エドモンドソン氏(ハーバード・ビジネススクール)の著書によると、心理的安全性が高い組織では「仕事の中で助けを求めたり、自分のミスを認めても安全であること」が実現できます。さらに、心理的安全性の高いチームは、「職場で自分の意見を主張したり提案をしたり、わからないことを質問しやすい」と述べています。


医療現場で役立つ心理的安全性

 心理的安全性の高さを構成する7つの要素は下記のとおりです。

 

心理的安全性の高さを構成する7つの要素
  • 1.チームの中で失敗しても非難されない
  • 2.お互いに課題や難しい問題を指摘し合える
  • 3.一人ひとりの個性や違いを受け入れる
  • 4.チームに対してリスクのある行動をしても安全である
  • 5.他のメンバーに助けを求めることができる
  • 6.誰も自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
  • 7.仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる


 このような職場環境では、スタッフそれぞれが自由に意見を交わしながら、お互いを認め合い、傷つけ合うことなく安心して仕事に取り組むことができるでしょう。
 医療現場においては、例えば、よりよいケアのための自由な提案や、これまで行ってきた看護技術では対応できないケースについての新たな取り組みなども、心理的安全性によって培われた職場での信頼関係があればこそ成り立ちます。
 同僚が提案した業務改善へのアイデアの中に、医療リスクにつながる要素が含まれていることに気づいたとき、心理的安全性の高い職場なら、ためらわず指摘することができるでしょう。
 看護師が適切なケアを行い、患者さんに安心と満足を与え得ることは、心理的安全性が担保されている職場環境だからこそ成立するものです。
 また、スタッフの離職防止や教育、メンタルヘルス向上にも役立つといわれており、多様なキャリアや価値観をもつスタッフが協働する医療現場においては、今すぐにでも取り入れたい考え方です。


事例:職場の心理的安全性を高めるポイント


 職場の心理的安全性を高めるために、役立つポイントを事例に沿って解説します。 

【事例:真面目で責任感が強く、問題を抱え込みがちなスタッフ】

 中堅看護師Aさんは、真面目で責任感が強い看護師です。
 ただ、患者さんのご家族のやりとりからトラブルに発展してしまったときなど、上司やチームへの報告をせず、自分で問題を解決しようと抱え込む傾向があります。


【心理的安全性が高まる!対応のポイント】

チーム全体に対して、ミスを共有する場を設けるアプローチから始めよう
 ここ数年、問題解決時の姿勢として、当事者が責任を負って対応すべきという価値観ともつ人が増えています。チームに迷惑を掛けたくないという思いや、周囲に自分が無能だと思われる不安につながるのでしょう。
 しかし、はじめは単なる個人の抱え込みであっても、エスカレートすれば組織的な隠蔽ともみられかねません。
 こんなときこそ、心理的安全性の高いチームとして、失敗を非難しない風土を明確にしていくことが求められます。


【具体的な声かけ】

●ミスを開示し、検討・共有して皆に役立つ場づくり
「私が起こしてしまったインシデントを共有します。再発防止への効果的な対策が知りたいので、ぜひ皆さんの意見を聞かせてください。」

●具体的な課題の検討
「今週、面会時間が規定通りでないご家族が2件あり、他の患者さんか ら苦言がありました。今後の対策について、皆で話し合いましょう。」

●抱え込みがちなスタッフへの指導
「私たちが目指している心理的安全性の高い職場では、チームの中での 失敗は非難せず、お互いに助け合うというルールがあります。Aさんも何か困ったことがあれば、遠慮なくすぐに声をかけてください。」


もっと詳しく知りたい方におすすめの書籍

 スタッフ同士の力を引き出し合うことで、多くの問題は解決に向かうはずです。心理的安全性の向上が、よりよい看護ケアの実現につながるのはもちろん、「働きやすさ」や「やりがい」「仕事への満足度」を高めることにもつながるでしょう。
 本記事の内容は、大村美樹子著『現場ですぐに役立つ 看護職のための心理的安全性入門』をもとに編集・作成しました。より詳しい内容は、本書をご覧ください。