現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第6回 医ケア児(親の休息)~感情論と制度論の板挟みをどう捉えるか~

2026/06/03

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。

 

 

 今回と次回の2回にわたり、医療的ケア児に対する居宅介護の支給決定について考えていきます。

 

 医療的ケア児に対する支給決定において、特に大きな論点となるのが夜間支給の問題です。
 具体的な取扱いについては、成人の場合と同様に、市区町村ごとに定められる支給決定基準等に基づいて判断されることになります。

 

 私自身、行政の実務を担当していた当時は、制度の枠組みの中で夜間支給に十分対応することは難しいのではないかと感じており、どのように整理すべきか模索していました。

 

 しかし現在では、事務処理要領においても、より踏み込んだ表現で、医療的ケア児の保護者に対するレスパイト(休息)の視点を含めて支給決定することが可能である旨について示唆されています。


「感情論」と「制度論」の板挟みになる支給決定事務担当者

 支給決定部門の窓口では、医療的ケア児の在宅介護を担う保護者から、

 

「どうにか親の睡眠時間を確保したいので、夜間の支給を認めてほしい」

 

 という切実な声を聞くことがあります。

 

 対応する職員としても、この訴えに耳を傾ければ傾けるほど、日常的に医療的ケアを担う保護者の負担、特に夜間介護の大変さを実感し、何とかできないものかと考えさせられます。


 しかし、障害福祉サービスの自立支援給付の中では、介護者のレスパイトを直接の目的として位置付けられているサービスは、基本的には「短期入所」に限られています(地域生活支援事業では、日中一時支援や在宅レスパイトといった事業も挙げられます)。

 

 居宅介護もまた、本来は利用者本人の日常生活を支えるためのサービスとして制度化されているものです。
 そのため、何とかしてあげたいという思い(言うなれば「感情論」)と、日常的なケアを担う親の休息を想定していない制度の枠組み(言うなれば「制度論」)との間で、多くの支給決定担当者が板挟みになり、苦悩してきたのではないでしょうか。


医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律

 令和3年に「 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律 」が制定されました。
 この法律は、医療的ケア児とその家族が、医療・福祉・教育等の分野において切れ目なく適切な支援を受けながら、地域で生活できるようにすることを目的として、国・地方公共団体・関係機関の責務と支援体制の整備を明確にしたものです。

 

 同法第1条後段では、その目的を次のように掲げています。

 

医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資し、もって安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与すること

 

 ここで注目すべきは、「家族の離職の防止」という文言が明確に位置付けられている点です。
 すなわち、この法律は医療的ケア児本人への支援にとどまらず、その生活を支える家族の状況にも視点を広げているものといえます。

 

 このことを踏まえれば、障害福祉サービスの適用にあたっても、単に本人の生活支援という枠組みにとどまらず、家族支援の観点をどのようにサービス内容に反映するかが問われていると考えるべきではないでしょうか。


事務処理要領の位置づけ

 こうした家族支援の視点は、制度運用の手引である 事務処理要領 のレベルにおいても一定程度反映されており、そこには次のような記載があります。

 

障害児に係る居宅介護においては、従来より、重度の障害のため日常生活を営むのに著しく支障がある障害児本人に着目するだけでなく、障害児の属する家庭を対象として、便宜を供与してきたところである。乳幼児期の医療的ケア児の属する家庭においては、一般的に在宅移行時における介護者の負担の増加や、医療的ケアのために24時間の対応を行っている状況等が想定されることに配慮すること

 

 この記載は、居宅介護が単に障害児本人への直接的な介助行為にとどまらず、その属する家庭の状況も含めて支援を考えるべきであることを示しています
 特に、医療的ケア児を養育する家庭においては、日常的に長時間の対応が求められる実態があることを前提に、支給決定にあたって一定の配慮が求められていると読み取ることができます。

 

 このように整理すると、夜間帯におけるまとまった時間のサービス導入についても、一律に排除するものではなく、家庭全体の生活状況を踏まえて検討すべき余地が十分にあると考えられます。


居宅介護で夜間帯の支給が可能か

 成人の場合には、一定の障害支援区分が認定されていれば、「重度訪問介護」の利用が可能です。
 重度訪問介護では、見守りを含めた長時間の支援が想定されており、夜間帯における継続的なサービス提供も、制度および報酬体系の双方において予定されています。

 

 しかし、児童の場合には事情が異なります。
 原則として重度訪問介護の支給決定を行うことはできず、例外的に認められるのは、15歳以上の障害児について児童相談所長の許可がある場合に限られます。

 

 そうすると、医療的ケア児に対する夜間の支援は、基本的に居宅介護の枠組みの中で対応せざるを得ないことになります。
 ところが、居宅介護は本来、買い物、掃除、洗濯、入浴介助、食事介助といった個々の具体的な行為に対する支援として構成されています。

 

 このため、具体的な介助行為として評価し難い「見守り」の時間については、原則として算定の対象とならず、結果として夜間帯を通じた連続的なサービス提供は制度上困難である、という結論に行き着いてしまいます。

 

 また、事務処理用要領に明記されている1回当たりの標準利用可能時間数として身体介護が3時間までとされている点も考慮する必要があります。

 

 ここまで見てきたように、法の趣旨や事務処理要領においては家族への配慮の必要性が明確に示されている一方で、実際のサービス体系、とりわけ居宅介護の枠組みに当てはめてみると、その趣旨を十分に実現しきれていない構造が見えてきます。

 

 この点をどのように捉え、支給決定においてどのように論理構成していくべきか。
 次回、さらに掘り下げていきたいと思います。