現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第4回 支給量算定ロジック~自治体独自のルールの存在を意識する~

2026/04/28

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。

 

 窓口に来られた障害のある方から、「隣の市ではもっと支給量が多い」「この市区町村だと支給量が沢山出ると聞いて転入してきた」といった話を聞くことがあります。この場合、皆さんは返答に窮してしまうのではないでしょうか?

 

 市区町村によって支給量に差があるのは、支給量の算定にあたって、市区町村独自の「支給決定基準」が定められているからです。ではなぜ、支給決定基準は市区町村ごとに異なるのでしょうか?

 

本稿では、支給決定の主体である市区町村を中心に論じるため、以下では原則として「市区町村」という用語を用います。なお、文脈に応じて「自治体」や「地方公共団体」という表現を用いることがありますが、この場合は「市区町村」のみならず「都道府県」を含むものとして用いています。

 


国と自治体との役割・関係性

 この点を考えるにあたっては、まず自治体の役割そのものを定めている地方自治法第1条の2の趣旨を踏まえる必要があります。

 同条では、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの」とされています。
 つまり、自治体(=地方公共団体)は単に国の決めたことをそのまま実行する機関ではなく、地域の実情に応じて主体的に行政を担う存在だという位置づけなのです。

 

 さらに、自治体が担う事務には、大きく分けて「自治事務」「法定受託事務」の2種類があります。
 障害福祉サービスは前者の自治事務に位置づけられており、後者の代表例としては生活保護(「相談」「援助」等は自治事務に該当)が挙げられます。

 

 法定受託事務は、国が本来果たすべき役割を、法令に基づいて自治体が「受託」して実施するものです。
 生活保護は、国による統一的な措置によって地域間格差が生じないよう執行されることが求められます。これは、生活保護が憲法第25条を根拠としており、国民の最低生活を保障する義務を国に課しているためです。
 したがって、国は地域間の生活水準の差異も含めて、自らの責任において「最低生活費」の基準を定めるものとされています。

 

 一方で、自治事務である障害福祉サービスはそうではありません。
 障害福祉サービスも法令によって実施が義務付けられていますが、あくまで市区町村が地域の実情に即して、主体的に実施することが求められています。
 このため、実際の運用においては、国が定める事務処理要領等を遵守しつつも、具体的な支給量の判断にあたっては、市区町村が独自に定めた支給決定基準を用いて支給決定を行う、という流れになります。

 

 障害のある方の生活実態や障害の個別性等を踏まえて丁寧な対応をするために、住民に一番近い行政主体である市区町村が援護の実施主体となることが、最も適切であると考えられているのです。

 

 両者の違いを例えるならば、生活保護が「骨格」も「筋肉」も一体のものとして国が定めるのに対して、障害福祉サービスは「骨格(事務処理要領等)」を国が定め、「筋肉(支給決定基準等)」を市区町村が定めているといったイメージです。

 
生活保護 障害福祉サービス
事務の種類 法定受託事務(一部自治事務) 自治事務
国の役割 憲法第25条に基づき、地域間格差が生じないよう統一的な措置として「最低生活」の基準を定める。 「事務処理要領」等の枠組みを定める。
自治体の役割 国の定めた基準に基づき執行する。 地域の実情に即し、独自に「支給決定基準」を定め、主体的に運用する。
 

地域共生社会の実現との適合性

 障害福祉サービスにおける市区町村の役割は、地域共生社会の考え方とも適合します。

 

 地域共生社会とは、障害の有無や年齢、世代、属性を問わず、地域に暮らすすべての人が支え合いながら、ともに生活していく社会のあり方を指します。

 

 この考え方における重要なポイントは、必要とされる様々な支援の体制の構築にあたって、制度ごと・分野ごとに「縦割り」で実施するのみではなく、「横串」を刺すように分野横断的に地域内での暮らし全体を支える仕組みを目指す点にあります。

 

 福祉分野に限っても、障害福祉、高齢者介護、子育て、生活困窮者支援などは、制度もそれに対応する組織も別々に整備されていますが、実際の生活の場面では、これらに関わる課題が複雑に重なり合って表出しています。

 

 こうした複合的な課題に対応していくためには、地域の実情を最もよく把握している市区町村が、他の様々な支援機関との連携の要となることが求められます。


 市区町村が援護の実施主体となり、支援を必要とする方に対して地域の様々な活動主体と連携してサービスを提供していく障害福祉サービスの仕組みは、上記の地域共生社会の理念とも適合するものと考えられるのです。


支給決定基準の違いを見る

 それでは、実際の支給決定基準の違いによる支給量の差異を理解していただくために、二つの仮想の支給決定基準モデルを使って考えてみましょう。

 

<A市モデル>

区分1 区分2 区分3 区分4 区分5 区分6
標準支給量(時間数) 12 18 30 48 60 80
 

<B市モデル>

区分1 区分2 区分3 区分4 区分5 区分6
標準支給量(時間数) 12 22 32 44 55
単身で介護者がいない場合などは、上記時間に1.6倍を乗じて算定
 

 現実の支給決定基準はこのような単純なものではありませんが、あくまでイメージを掴むことを目的に、上記の二つを比べてみましょう。

 

 一見すると、A市の方が算定時間数としては多く見えますが、単身で介護者不在という一定の要件が当てはまる場合は、B市の方が標準支給量としては多くなります。
 実際には、さらに多くの算定要件が定められるため、標準支給量を一律に算出することが容易ではないこともあります。
 A市とB市でどちらの標準支給量が多くなるのか、支給決定基準の単純な比較では判断できないということをご理解いただけたでしょうか?

 


支給決定された時間数だけでは見えてこないもの

 如何に多くの支給量が決定されたとしても、それだけで当該市区町村が「障害のある方にとって暮らしやすい自治体である」と即断することはできません。
 実際には、通所系のサービス等他の給付や地域生活支援事業の内容、相談支援体制、介護事業所の数やスタッフのスキル、医療等の他職種との連携など、複数の要素が相互に関係しています。

 

 時間数が必ずしも多いとはいえなくても、相談支援が十分に機能し、介護事業所のスタッフの専門性が高く、関係機関同士の連携が円滑に図られていれば、安心して地域生活を送ることは十分に可能です。

 

 このように、基準から想定される支給量の単純な比較ではなく、地域の支援体制全体が実態としてどれだけ整っているのかという視点が重要になります。

 

 それは、障害の有無にかかわらず誰もが地域で安心して暮らせる「地域共生社会」の実現に向けて、地域全体で支援を積み重ねていく上でのポイントとなるのではないでしょうか?