住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何? 第7回 住むことへの支援の変遷

2025/07/08

著者

岡部 真智子(おかべ・まちこ)
名古屋市立大学 大学院人間文化研究科・人文社会学部現代社会学科に所属。社会福祉士。

地域で安定的な居住継続を支える研究を続けている一方で、社会福祉専門職養成に関する研究にも力を入れている。

 

連載にあたって

 人が生活を営む場となる住まいは、安全・快適で安心できる環境であることが求められます。

 住まいは、食べる、寝る、くつろぐ、身をまもるための拠点となることはもちろん、住所があることは、福祉サービスや行政サービスを利用する際の絶対条件となります。
 住まいの支援(居住支援)について、身近なところから、一緒に考えていきましょう。


 今回は、住むことへの支援が歴史的にどのように変わってきたかを見ていきます。
 住宅施策は福祉施策とつながりがあるのか、ぜひその点に注目していただければと思います。


住むことへの支援は福祉的な支援の対象外?

 日本において社会福祉の対象は、高齢者や障害者、児童、低所得の人など“人”ごとに切り分けられ、介護や医療、療育、生活支援など、その人が抱える困り事に対する支援が行われてきました。
 そのため、住むことに困っている人は、上記で述べた対象に当てはまればその中で支援が行われるものの、そうではない場合には福祉専門職が関与することはありませんでした。また、住まいを持たない人には、福祉施設に入所してもらうという対応が行われてきました。
 しかし、歴史をさかのぼってみると、福祉的な支援が行われていたこともありました。

 

 

戦前戦中の住宅政策は福祉の対象だった

 わが国の住宅政策は、戦前の内務省(※)による公益住宅建設の勧奨(1919(大正8)年)が最初だと考えられています。
 戦時期に内務省の衛生・社会部門を分離する形で厚生省(現、厚生労働省)が設立され、1939(昭和14)年には厚生省に住宅課が設置されました。
 関東大震災の被災者向けの公的住宅の供給(1923(大正12)年)も含め、戦前戦中には厚生省で住宅政策が取り組まれてきた経緯があります。


公営住宅法にも福祉的視点を

 第二次世界大戦(1939-1945年)により国土が焦土と化し、終戦当時、全国で420万戸の住宅が不足しました。
 このため、国の責任として大量の住宅供給に取り組むことになりました。結果的に、1951(昭和26)年に建設省(現、国土交通省)がその主務官庁となり、公営住宅法が成立しました。

 

 

 実は当時、厚生省においても、住宅に困窮する低所得層向けに公的住宅を供給する「厚生住宅法案」の検討が進められていました。
 厚生住宅法案には、社会福祉主事や民生委員が事務の補助や協力をすること(第9条、第10条)や、設置者は入居者に対し生活指導を行うこと(第29条)等の規定が盛り込まれ、単に低家賃住宅を提供するだけではなく、入居者に対する福祉的支援を行うことも検討されていました。
 結果的には「両省の縄張り争い」(平成21年4月28日国土交通委員会会議録,第13号)により、厚生住宅法案は国会に提出されることはなく、厚生住宅法は成立しませんでした。
 厚生住宅法案は通過しませんでしたが、その代わりに、公営住宅法が成立する過程において、参議院で厚生省から意見付託があり、「二種公営住宅の入居者の資格及び選考等については、厚生大臣と協議して決定しなければならない」(第30条)という条文が追加されました。
 公営住宅入居者の選考等に対し厚生大臣の意向を伝えられるということは、福祉的観点でものをいえる貴重な機会だと考えます(なお、その後の公営住宅法改正によりこの条文は削除されました)。

 

協働の取組み-シルバーハウジング制度

 公営住宅法の施行後は、建設省が住宅政策の主務官庁となり、住宅政策は建設省が進めることとなりました。
 しかし、1980年代に入ると建設省と厚生省が協働する取組みが始まります。それが1987(昭和62)年に始まった「シルバーハウジング・プロジェクト」です。
 具体的には、手すりや緊急通報装置などが設置されバリアフリー化された公営住宅に、生活援助員(ライフサポートアドバイザー)による安否確認や緊急時対応などの福祉サービスが付設するという取組みです。
 福祉施設以外に、見守りなどの福祉サービスがある住まいが誕生したのです。

 

 入居者は高齢者世帯(60歳以上の高齢者の単身世帯、60歳以上の高齢者のみからなる世帯、夫婦のいずれか一方が60歳以上の高齢者夫婦世帯)ですが、事業主体の長が必要を認める場合に限り、障害者世帯の入居も認められています。
 シルバーハウジングは、2018年10月時点で全国に890棟、2万3,848戸あります。なお、東京都にあるシルバーピアも同様の事業になります。

 

出典: 一般財団法人高齢者住宅財団HP

 

住宅と福祉の連携が進む―住宅セーフティネット制度

 これまで国土交通省が単独で所管していた住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)が2024(令和6)年に改正され、厚生労働省と共管することとなりました。
 改正住宅セーフティネット法は、住宅確保が困難な人(要配慮者)が安心して生活を送るための基盤となる住まいを確保できるよう、賃貸住宅に円滑に入居できるための環境整備を推進することを目的としています。
 改正の具体的な内容としては、住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制を整備するために、国土交通大臣と厚生労働大臣が共同で基本方針を策定することとされました。また、住まいに関する相談窓口から入居前・入居中・退去時までの支援を総合的・包括的に行う居住支援体制を地域で整備することが盛り込まれています。ほかにも、居住支援法人が要配慮者のニーズに応じて、安否確認・見守り・適切な福祉サービスへのつなぎを行う居住サポート住宅の供給を促進するといった内容が新たに設けられました。
 人の生活を支えるには、単に住まいを用意するだけではなく、その中で営む生活の支援と一体的に行う必要があるという考えが、浸透してきたことがわかります。

 

出典: 改正法 概要リーフレット『住まいや住まい方にお困りの方へ』


おわりに

 福祉と住宅は一見つながりがないようにみえるかもしれませんが、歴史を紐解いてみると、また今まさに行われようとしていることをみると、決してそうではないことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
 住まいが生活の基盤である以上、生活を支えるための支援を進める上で「住まい」に目を向けることは大切なことだといえます。
 次回は、さまざまな種類の住まいを取り上げます。

 

※内務省(ないむしょう)
1873(明治6)年から1947(昭和22)年まで存在した日本の中央官庁。主な所管業務は、警察・治安、地方行政・選挙、土木・河川・都市計画、公衆衛生、社寺・神道行政、消防・警防、戸籍・統計と幅広かった。近代国家としての行政・警察・地方制度の礎を築いた“巨大官庁”として知られます。