誌上ケース検討会 第82回 麻痺が進行し、今後の生活に不安をもつクライアントへのかかわり方 (2007年3月号掲載)

2025/07/08

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


スーパーバイザー

奥川 幸子
(プロフィールは下記)

 

事例提出者

Yさん(居宅介護支援事業所・看護師)

 

提出理由

 Aさんは、平成13年の退院後、身体が動かなくなったことで、不安が大きく閉じこもりがちだったが、時間をかけて身体状況を受け入れ、かなりの自己負担をしながらサービス利用をしてきた。
 しかし、下半身の麻痺が進み、便失禁が見られるようになってきて、これからだんだん悪くなっていく自分を受け入れる段階で、苦しんでおられる。
 便失禁の具体的な対応方法と、受容の段階のAさんにどのような接し方をすればいいのか、アドバイスをいただきたく、事例を提出した。

 

事例の概要

・平成13年4月よりかかわっているケース。
・平成13年2月に肺炎で入院するまでは、立位はできないが、屋内を這って移動し、日常生活は自立されていた。
・入院して下半身の麻痺が進行し、尿留置カテーテルが挿入され、移乗、移動全介助になり退院した。
・それまで比較的自由に暮らしていたご主人を主介護者としての介護生活が始まる。
・その後数年間は状態が安定していたが、数カ月前から便失禁がみられるようになり、臭いを気にしてデイを休みがちになる。
・夫の介護負担も増し、疲労がかなり溜まってきている。

 

クライアント

Aさん 70歳・女性・元税務署勤務

 

家族構成

ご主人・73歳・元高校教諭
長女・43歳・隣市在住・夫、夫の父と子ども2人(小学生と幼稚園)
長男・39歳・他県在住・妻と二人暮らし

 

既往歴

昭和42年 脊椎症性脊髄症と診断され、手術を勧められるも拒否
昭和57年、59年 右、左大腿骨頸部骨折
平成13年 心房細動、肺炎で入院。排尿障害があり、尿留置カテーテル挿入となる

 

身体状況

下半身麻痺、両上肢拳上制限、両手握力低下
移動:車いす介助
移乗、入浴、更衣:全介助
食事:セッティングすれば自力で食べられるが、最近、箸、食器の取り落としがみられる
排泄:尿留置カテーテル、排便はポータブルトイレ使用


ここから先は、誌面の PDFファイル にてご覧ください。


プロフィール

奥川 幸子(おくがわ さちこ)

対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。