住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何? 第6回 災害と住まい

2025/07/01

著者

岡部 真智子(おかべ・まちこ)
名古屋市立大学 大学院人間文化研究科・人文社会学部現代社会学科に所属。社会福祉士。

地域で安定的な居住継続を支える研究を続けている一方で、社会福祉専門職養成に関する研究にも力を入れている。

 

連載にあたって

 人が生活を営む場となる住まいは、安全・快適で安心できる環境であることが求められます。

 住まいは、食べる、寝る、くつろぐ、身をまもるための拠点となることはもちろん、住所があることは、福祉サービスや行政サービスを利用する際の絶対条件となります。
 住まいの支援(居住支援)について、身近なところから、一緒に考えていきましょう。


災害が他人ごとではない日本の現状

 日本は自然災害のリスクが高く、命や生活を脅かす大災害がいつどこで発生してもおかしくありません。
 国が指定する「激甚災害」(国民経済に大きな影響を与え、被災者への支援や被災自治体への財政援助が特に必要と政府が判断した災害)としては、「台風」「豪雨」「地震」「大火」が挙げられます。
 災害の状況を過去5年さかのぼってみると、近年、豪雨災害は毎年のように全国各地で発生し、その被害も甚大なものとなっています。

 


災害が住まい・生活にもたらす影響

 地震や津波、土砂崩れなどによって住まいを失う人は少なくありません。

 

住まいを失う

 2024(令和6)年1月に発生した能登半島地震では、新潟・富山・石川の3県を合わせて、全壊:6,520棟、半壊:2万3,600棟、床上浸水:6棟、床下浸水:19棟、一部破損:13万4,520棟の住家被害があったことが明らかになっています。
 地震で建物が倒れただけでなく、火災により家を失った方もいました。また、地震発生後には、断裂した水道管の復旧に多くの時間を要しました。道路が分断され、今でも通行止めが続いている箇所も少なくありません。

 

 

住まいの移動が続く

 被災し、自宅に住めなくなった方のなかには「避難所」に移る人が少なくありません。

 

自宅から避難所へ

 日本では、学校の体育館などが避難所として使われることが多くあります。
 近年は、プライバシー確保のための布を張ったり、段ボールベッドを導入したりする等、避難所の環境を良くしようと、様々な工夫がされるようになりました。
 しかし、暑さ・寒さを防ぐ構造とはなっていないため、長期間の生活を送るには適しているとはいえません。

 

避難所から「仮すまい」へ

 被災者は「仮すまい」を得られるようになると、避難所から「仮すまい」へ移ります。
 壊れた元の自宅、友人や親せきの家、ホテル、行政が用意した仮設住宅など「仮すまい」の場所もさまざまです。
 阪神・淡路大震災や東日本大震災では、約5万戸の応急仮設住宅が建設されました。
 仮設住宅の解消(仮設住宅での入居が終了する)までに、阪神・淡路大震災では5年を要しましたが、東日本大震災では宮城県・岩手県は10年もの長い時間がかかりました(福島県では、震災と原発事故避難者の仮設住宅を2026年3月に終了することを予定しています)。

 

 東日本大震災では、地方公共団体が民間住宅を借り上げて被災者に供与する「みなし仮設住宅」が約6万8,000戸用意され、仮設住宅のおおよそ半分を占めました。
 みなし仮設住宅は、一般の民間賃貸住宅を転用したものであるため、プレハブ造りの応急仮設住宅よりも居住性は高いといわれますが、そこに被災した人が住んでいることがわかりにくいため、被災者支援の情報が届きにくいなどの課題が生じます。

 

「仮すまい」から「仮すまい」へ

 また、「仮すまい」の場を何度も変えざるを得ない人もいます。
 能登半島地震の被災者のなかには、親戚や知人宅、ホテルなどを10回以上移動した人もいました。
 「定住の地」を得られるまで、「仮すまい」生活が続きます。

 

見通しが持てない-生活再建―

 「定住の地」を得るためには、まず、住まいをどこに構えるかということを考えなければなりません。
 状況によっては「元の場所で住まいを再建する」こと自体が難しい場合もあります。また、自分で住まいを再建できるかどうかという問題もあります。
 自然災害により被害を受けた人に対し被災者生活再建支援金を支給する制度(「被災者生活再建支援制度」)がありますが、この制度は、住宅が「全壊」「半壊」等一定の条件を満たさないと利用できません。また、対象となったとしても、支給額は多くても300万円程度と、元通りの生活をするための住まいを得るには、金額が限られています。
 被災したことで、住まいだけでなく仕事を失う場合もあり、「どこに住むのか」に関する「見通し」がより不安定になるといえます。

 


災害の被害は高齢者や障害者ほど大きい

 高齢者や障害者は、災害時の被害の状態が、それ以外の人に比べて高いことも明らかになっています。
 早川和男は、その著作『居住福祉』(岩波書店,1997年)の中で、阪神・淡路大震災の「犠牲は高齢者、障害者、被差別部落住民、若者、在日外国人などを中心に、低所得者層や、日常から日常から居住差別をうけている人たちに多かった」と述べています。
 また、災害をきっかけに、それまで家庭内のこととして表に現れなかったDVが露呈し、周りの人の勧めで相談センターを利用する女性が出てきました。慣れない環境での介護が難しくなり、入所施設に入る高齢者も出てきました。
 平時にはぎりぎりのところでやり過ごしていたことが、被災をきっかけに問題として表面化することも少なくありません。

 


おわりに

 大規模災害時には、多くの人が同じ時期に住まいを失うという問題が生じます。しかしながら、被災後の生活復旧のスピードはまちまちです。特に、資力に乏しい場合や複数の問題を抱えている場合には時間がかかります。
 また、自然災害ではありませんが、火事により焼け出された場合も、同様の問題が生じます。
 こうした時に、どのような支援があるとよいでしょうか。
 次回は、住むことへの制度上の支援が歴史的にどのように変わってきたかを見ていきます。