住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何? 第5回 ライフサイクルと住まい
2025/06/24

著者岡部 真智子(おかべ・まちこ) 地域で安定的な居住継続を支える研究を続けている一方で、社会福祉専門職養成に関する研究にも力を入れている。 連載にあたって人が生活を営む場となる住まいは、安全・快適で安心できる環境であることが求められます。 住まいは、食べる、寝る、くつろぐ、身をまもるための拠点となることはもちろん、住所があることは、福祉サービスや行政サービスを利用する際の絶対条件となります。 |
高度経済成長期:住宅双六の上りは「庭つき郊外一戸建住宅」
高度経済成長期、住まいは成長するにつれてよりよいものになっていくと考えられていました。
当時のその考え方を表しているのが1973(昭和48)年に発表された「現代住宅双六」(図参照)です。
図 現代住宅双六(構成:上田篤、イラスト:久谷正樹(1973年)
出典:朝日新聞1973年1月3日朝刊
住宅双六は、「ふり出し」からはじまり、「1.ベビーベッド」⇒「2.川の字」⇒「3.子供べや」⇒「4.寮・寄宿舎」⇒「5.すみこみ」⇒「6.飯場・ドヤ」⇒「7.はなれ・同居」⇒「8.橋の下・仮小屋」⇒「9.下宿」⇒「10.木造アパート」⇒「11.公団単身者アパート」⇒「12.公営住宅」⇒「13.長屋町家」⇒「14.社宅」⇒「15.危険地公害地老朽住宅」⇒「16.公団・公社アパート」⇒「17.老人ホーム」⇒「18.賃貸マンション」⇒「19.宅地債権」⇒「20別荘地・トレーラーハウス」⇒「21.建売分譲住宅」⇒「22.分譲マンション」⇒「23.分譲宅地」⇒「上り-庭つき郊外一戸建住宅」と続きます。
双六ですので、途中1回休みになったり、ふり出しに戻ったりすることもありますが、上りは「庭つき郊外一戸建住宅」となっています。
住宅双六から考えるライフサイクルと住まい
高度経済成長期につくられた住宅双六は、現在からみると考えさせられるところがいくつかあります。今回は、現在の生活像、理想の住まい、理想の住まいに至る過程の3点に注目しながらみていきましょう。
現在の生活と住まい
住宅双六は、誕生から「庭つき郊外一戸建住宅」を確保するまで、人生の歩みにあわせてどこに暮らすか・住むかが示されています。成長に合わせて住まいが変わっていく様子がわかります。
現在でも、進学や就職に合わせて一人暮らしをする人、家族を持つことでより広い住まいを確保する人がいます。
また、最初は賃貸住宅に住んでいても、収入が安定すると持ち家を得て暮らすということは、現在でもイメージしやすいでしょう。
ただ、当時よりも現在のほうが、家族のあり方や生活の選択肢は広がっています。
生涯単身生活を続ける人もいれば、結婚し子どもを得た後に離婚し、家族の規模が早い時期に小さくなる人もいます。ほかにも、同性同士で暮らす人もいれば、結婚しても同居せずに別々の住まいで暮らす人もいます。
成長や生活の変化に合わせて住まいが変わっていくということは、当時も現在も共通していますが、途中で枝分かれする道が以前に比べて増えているのが現在の特徴といえるでしょう。
現在も上りは「庭つき郊外一戸建住宅」?
住宅双六の中で、「飯場ドヤ」や「橋の下・仮小屋」、「危険地公害地老朽住宅」が出てきても、上りは「庭つき郊外一戸建住宅」となっている点は、興味深いです。
もちろん当時も、すべての人が「庭つき郊外一戸建住宅」に住めたわけではありませんが、経済成長の波に乗れば、そうしたゴールを描ける可能性がありました。
では、現在はどうでしょうか。失われた30年ともいわれる日本経済の長期停滞により、「庭つき郊外一戸建住宅」に住むことをゴールとしない人が増えています。
単身世帯が増え、「庭つき郊外一戸建」では広すぎるという意見もあるでしょうし、高齢化が進んだことで、「庭付き郊外一戸建住宅」では交通アクセスが悪く、買い物に行きづらいという意見もあるでしょう。また、庭があっても手入れをする時間がない、その体力がないという人もいるでしょう。
現在、新たに住宅双六をつくることになったら、皆さんは何を上り(ゴール)と考えますか?
家族構成、価値観の多様化により、上りとして描く理想の住まいは複数用意する必要があるかもしれません。
現在の住宅双六ではどんなマスを設けるか
高度経済成長期の住宅双六では、ローンを組むことを含め、基本的に自身の力で住まいを確保することが前提とされています。
人口減少や少子高齢化が進む現在でも、自身の力で住まいを確保することが基本ですが、過去にはない住まい確保の取組みも始まっています。
子育て世帯の定住につながるよう、地方自治体が子育て世帯が家を取得する際の補助金を用意する、UIJターンの人たちが移住・定住しやすいよう空き家バンクの仕組みを整備するといった取組みです。雪が降る地域の中には、冬季だけ高齢者が住める生活支援ハウスを用意している自治体もあります。
住まいの確保は、まだまだ個人(自身の力)に委ねられていますが、社会情勢の変化や地域の状況の変化によって、住まいの確保がしやすい環境整備が進められてきました。
その一方で、住まいを失う人や住まいがない状態が続く人、より悪い条件の住まいを選ばざるを得ない人もいます。
双六でいえば、何度サイコロを振っても同じマスで止まり続ける、前に進んでも質の低い住環境のマスしかないといった状態です。
現在の世相を、現在の住宅双六に反映させるなら、皆さんならどのようなマスを設けますか?
おわりに
今回は、住宅双六をもとにライフサイクルと住まいについて考えてみました。
高度経済成長期と異なり、現在の理想的な生活像は一括りにすることが難しく、住まいに対する価値観も多様化しています。
一人ひとりが望む住生活が異なる中、自分ですべきことがらと、他者からの支援はどのように切り分けて考えればよいでしょうか。また最低限の住まいとは、どのようなレベル、水準を指すでしょうか。
次回は、「災害と住まい」をテーマに取り上げます。災害時や災害後の住まい、またそこでの生活の実際を知ることで、住まいのあり方や居住支援について考えを深めていきましょう。