成年後見制度のあれこれ 第10回 成年後見の実務の流れ

2025/05/07

【執筆】
君和田 豊(きみわだ ゆたか)
 君和田成年後見事務所代表、社会福祉士・精神保健福祉士・社会保険労務士・旧:訪問介護員(ホームヘルパー)1級
 2007(平成19)年に社会福祉士登録。2012(平成24)年に現:公益社団法人日本社会福祉士会の成年後見人養成研修修了後、一般社団法人千葉県社会福祉士会権利擁護センター「ぱあとなあ千葉」の登録員として活動中(後見人等の候補者として千葉家庭裁判所に名簿登録)。


 本連載も残すところ、今回含めあと3回となりました。残り2回ではケーススタディと総括を扱う予定のため、制度全般にわたる内容は今回が最後となります。
 これまでの説明を踏まえた上で、それではいよいよ申立てとその後の事務を見てゆきましょう。費用面や時間的な流れなどもできる限り詳しく説明していきたいと思いますので、申立てを考えておられる方の参考となれば幸いです。


申し立てに必要な書類と提出先

 成年後見制度の申し立てについては、公的機関も含めて、参考になるホームページや書籍等があります。1つ挙げるとすれば、やはり 法務省のHP でしょうか。
 ここのQ&Aにある Q23「成年後見制度を利用したいのですが、申立てから開始までどれくらいの期間がかかるのでしょうか?」 を踏まえて説明します。

 

出典:法務省HP 

①申立て先と必要書類

 まず申立て先は、被後見人等となるご本人の住民票管轄の家庭裁判所となります。家庭裁判所については、 裁判所のHP から確認することができます。
 なお、申立書の様式については 全国共通の最高裁様式 が定められています。しかし実際の申立ての際には、管轄裁判所のHPを確認して、そちらに掲載されている書類を揃えるようにしてください。なぜなら、裁判所によっては追加で管轄先の独自様式があったり、また予納郵券については、裁判所ごとに取扱いが異なることがあるためです。
 各裁判所での手続きに求められる様式は、裁判所HPの各裁判所のページから取得できます。(例:千葉裁判所なら こちら

 

②申立てにかかる費用

 申立て先と書類が確認できたら、やはり気になるのは費用でしょうか。
 以下は千葉家庭裁判所の場合となりますが、予納郵券以外は全国共通です。

 

(1)申立手数料 1件あたり800円

 1件当たり800円のため、2件以上ある場合はそれぞれに手数料がかかります。
(例)
 ・後見開始、保佐開始=800円
 ・保佐(補助)開始+代理権付与=1600円
 ・保佐(補助)開始+同意権付与=1600円
 ・補助開始+代理権付与+同意権付与=2400円

(2)後見登記手数料 2600円

(3)郵便切手(後見4200円、保佐・開始5360円)

 

 この他に以下の費用もかかります。

 

(4)医師の診断書の作成費用

(5)住民票、戸籍謄本発行費用

(6)登記されていないことの証明書発行費用(300円)

 

 これらの申し立てにかかる書類やその費用のうち、金額的に最も高いのは医師の診断書だと思います。
 裁判所指定の様式でA4・2ページにわたって、本人の判断能力について医師による専門的な判断が記載されます。金額についてのデータはありませんが、筆者が関与した限りでは、5000円から1万円程度でした。

 

(7)鑑定費用

 医師の診断書とは別に、本人の判断能力がどの程度あるかを医学的に判定する手続である「鑑定」が行われる場合があります。鑑定は裁判所が医師に依頼する形で行われ、「鑑定料」がかかります。ただし、申立時に納める必要はなく、裁判所が審理を進め、鑑定が必要と判断した場合にかかるものです。
 最高裁判所が公表している「 成年後見関係事件の概況 」によると、令和6年に鑑定を実施したのは全体の3.8%のため、鑑定についてはあまり気にする必要はないと言ってよいでしょう。
 なお、鑑定料は5万円以下のものが全体の約44.5%、5万円超10万円以下のものが42.6%となっています。

 

(8)弁護士・司法書士への依頼費用

 制度の申立の総費用としては、上記(1)~(7)の合計金額となりますが、実はこの金額以外で最もかかるものとしては、書類の作成・提出を依頼した場合の弁護士・司法書士へ支払う費用です。
 自由価格なので一概には言えませんが、数万から10万円を超える見積を提示してくるものと思います。このため、余程のことがなければ、書類については関係者等のどなたかが作成することをお勧めします。

 裁判所が作成した手引きや記入例も整っていますので、各種証明書類の取得が可能なら、申立書等の作成はそれほど難しくはないでしょう。 


申立て後の流れ

 書類を揃えて申し立てた後、家庭裁判所で審理がなされ、最終的に審判となります。

 この審理期間ですが、令和6年では約7割が2か月以内に終局(審判)となっています。一般的にはこの期間内で決定が出ると考えてよいと思います。
 成年後見申立て後の基本的な流れとしては、次のようなものです。

 

①申立書類の受理

 家庭裁判所に申立書一式を提出すると、まず形式面(書類の不備や必要書類の漏れなど)がチェックされます。不備があれば補正の連絡が来ます。

 

②家庭裁判所による調査

 裁判所が申立て内容をもとに、次のような調査を行います。


・本人面接(本人照会)
 申立人と本人は、原則として家庭裁判所での面接に呼ばれます。本人が来られない場合は、家庭裁判所調査官が施設や自宅に出向くことも可能です。


・親族への照会
 本人の四親等内の親族に対し、意見照会文書が送付されます。特に後見人候補者がいる場合、同意の有無などが確認されます。

 

③鑑定(必要な場合のみ)

 本人の判断能力について専門的な診断が必要と判断された場合、医師による精神鑑定が命じられます。
 多くは提出された診断書(医師による「診断書(成年後見用)」)のみで済みますが、判断能力の程度が不明確な場合などには、家庭裁判所が選任した医師による鑑定が実施されます。

 

④審理・審判

 調査が完了すると、家庭裁判所が以下について判断します。
 ・後見等の類型(後見・保佐・補助)
 ・後見人の選任
 申立てが認められると、審判書が交付されます。

 

⑤審判の告知・確定

 審判が出ると、申立人と本人に「審判書謄本」が郵送されます。通常、審判確定まで2週間(不服申立て期間)がかかります。

 

⑥後見人の就任・登記

 審判が確定すると、家庭裁判所から法務局に通知が送られ、後見登記がされます。
 登記が完了すると後見登記事項証明書(登記簿謄本)が取得可能になり、この証明書を使って、金融機関や行政手続きができるようになります。

 

 なお、この登記事項証明書の発行がないと後見人の活動ができないのではなく、⑤の審判確定時から可能となります。
 このため後見人としては、特に裁判所への初回報告もあるので、就任直後の最初の1か月間は審判確定後から活動的に動きます。⑥の金融機関や行政手続きについても、審判確定証明書を家庭裁判所に発行してもらい、その証明書で活動を行うことが可能です。