ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス 第7回
2025/04/09

自己イメージと効果の法則
第6回「エンパワメントの力」では、「肯定的なコトバとイメージ」について取り上げた。今回、それをさらに掘り下げ、「コトバ」「経験」、そして行動理論の「効果の法則」から詳しく探ってみたい。
【著者】
川村 隆彦(かわむら たかひこ)
エスティーム教育研究所代表
「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
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自己イメージ
「あなたはどんな人ですか?」と聞かれたら、何を思い浮かべるだろう? 自分自身が認識している「性格」「得意なこと」「苦手なこと」、あるいは、ほかの人からよく聞かされてきた、「自分の長所や短所」だろうか? こうした質問を掘り下げていくとき、あなたが自分に対して抱いている評価や認識—つまり「自己イメージ」に結びつく。
第2回で取り上げた「心の3層構造」を思い出してほしい。2層目は「否定的な自己イメージ」、そして3層目の「真実の私」が「肯定的な自己イメージ」だった。こうした自己イメージが、どのように出来上がるのか、コトバや経験との関係から考えてみよう。
コトバと自己イメージの関係
言語、非言語の両方で伝えるメッセージを「コトバ」と解するならば、肯定的なコトバは、肯定的な自己イメージ(3層目)をつくり、否定的なコトバは、否定的な自己イメージ(2層目)をつくる。
私の友人は、昔、成人式で、親から「着物は似合わないね」と言われて以来、着物を着たことがないそうだ。あなたにも同じような経験はないだろうか? 学校で先生から「いい声だね」と言われたことが自信となり、人前で話すのが好きになった人もいる。このように、他者のコトバが、私たちの自己イメージに及ぼす影響は計り知れない。
コトバは、肯定や否定のイメージを人の脳に刻みつける。そのイメージは、いつしかフレームワークとして固定され、私たちの考えや行動を制御することになる。このことは行動理論の「効果の法則」とも合致している。
行動理論—効果の法則
「うまくいったと思う経験」は繰り返され、「失敗したと思う経験」はやらなくなる。これを「効果の法則」と呼ぶ。以前、「昔懐かしいナポリタン」というレシピに惹かれて、家族にパスタをふるまったことがある。「美味しい!」と何度も言われたことで、いつしか「うまくいった経験」に分類され、リクエストがあるたびにつくるようになった。たとえそれがお世辞だったとしても、私のなかで「ナポリタン」は成功経験なのだ。
逆の経験もある。若い頃、自転車のパンク修理に失敗し、結局、自転車屋に持ち込んだ。気難しそうな親父から、しかめっ面で「だから素人は手を出すもんじゃない」と言われ、傷ついた思い出がある。あれから何年も過ぎて、今では修理は得意なのだが、それでもパンクだけは「失敗経験」に分類されている。
これらを整理すると、次のようなチャートになる。
鍵となる「コトバ」の力
本当のところ「ナポリタン」は、そんなに美味しくなかったかもしれない。ただその経験が「美味しい!」というコトバで強められたことで、成功経験(肯定的イメージ)に分類され、繰り返される行動につながった。
「パンク修理」は難しい箇所だったかもしれない。しかし「素人は手を出すな!」というコトバで弱められ、失敗経験(否定的イメージ)に分類され、「やりたくない」という行動抑制につながった。
「経験自体、肯定も否定もなく中立」であるなら、コトバは、その経験を肯定か否定、どちらかのイメージに分類していく鍵となる。もちろん最終的には、そのコトバを、どのように受け止めるかの認知にかかっているが、だとしても、コトバの力を軽視することはできない。
自己イメージはフレームワークとして行動をコントロール
私たちは、コトバを介して、常にコミュニケーションをとりながら、互いの脳に、肯定、否定の自己イメージをつくっている。それはいつしか「脳のフレームワーク」となり、認知、価値観、信念として定着し、やがて私たちの行動をコントロールすることになる。だから行動を変えたい場合、脳につくられた自己イメージやフレームワークにまで戻って修正していく必要がある。
大切なことは何か
たとえ小さな経験であっても、肯定的なコトバで強め、「効果の法則」に載せることが大切だ。それは、誰かが一生懸命にナポリタンをつくったときは、食べながら「美味しい!」と伝えること(翌日では効果は限定的となる)。また、パンク修理が上手にできなかったとしても「難しい箇所なのに、よくここまで頑張ったね!」とねぎらうことだ。
そうすれば、相手の経験とあなたのかけた肯定的なコトバがつながり、脳に、肯定的なイメージをつくることができる。それはやがて堅固なフレームワークとなり、長い人生において、幸せな記憶と自信を与え続けてくれる。
次回は、認知とフレーミングについて取り上げたい。