成年後見制度のあれこれ 第6回 身上保護の原則と実践
2025/04/07

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4月に入り、今月から様々な制度変更が行われます。厚生労働省関係では、厚生労働省のHP上に主な変更事項が
まとめられています
。
注目すべき点として、
帯状疱疹に対する予防接種が予防接種法に基づく定期接種の対象になります
。今すぐというわけではないのですが、被後見人で今後定期接種の対象に該当する方には、自治体から案内が届くことが予想されます。
後見人として今から考えておくべきは、やはり同意の問題です。成年後見人には医療行為に関する同意権はありませんが、予防接種については予防接種法に特別の定めがありますので(予防接種法第2条第7項)、この場合は法に基づき同意が可能です。このため、例えばコロナワクチンの接種については、行政から
留意事項が周知されています
。なお、保佐人・補助人には同意権がありませんので、通常の医療行為に対する同意の問題と同じく、ご本人の同意を得なければなりません。
これも大事な後見人の身上保護業務の一つと言えるでしょう。今回はその身上保護の原則と実践を見てゆきます。
身上保護の原則
身上保護の原則とは、成年後見制度において、後見人等が本人の意思や生活状況を尊重しながら、本人の福祉の向上を図ることを目的とする考え方です。
制度発足当初は「身上監護」と言われてきましたが、2016(平成28)年4月15日に公布され同年5月13日に施行された「成年後見制度の利用の促進に関する法律」の第3条第1項で「身上監護」ではなく、「身上の保護」という言葉が使われてから、身上保護という言葉の方が一般的になっているようです。
従来の用語である「身上監護」ではなく「身上の保護」を採用したのは、「監護」という用語が与えるパターナリスティックな(押しつけるような)印象を払拭するためでしょう。
身上保護の原則は、本人の生活の質を確保し、尊厳ある暮らしを支援するために重要な役割を果たします。
身上保護における具体的な行為
身上保護には、本人の生活、医療、介護、住居、社会的関係などに関する支援が含まれます。具体的には、以下のような行為です。
①生活の支援
・本人が快適で安定した生活を送れるよう、生活環境の調整を行う。
・日常生活に必要な支援を受けられるよう、福祉サービスの利用を調整する。
②医療・介護の支援
・本人の健康状態を把握し、適切な医療機関の受診を促す。
・介護が必要な場合、介護サービスの利用手続きを支援する。
・医療機関や介護サービス事業者等と連携し、本人に適したサービスを選択する。
③住居の確保
・本人の状況に応じた住環境の整備(自宅での生活継続、施設入所など)を行う。
・必要に応じて住宅改修や福祉用具の導入を検討する。
④社会的関係の維持
・家族や地域社会とのつながりを維持・強化するための支援を行う。
・孤立を防ぐために、本人の希望に沿った社会参加の機会を確保する。
このような行為を行うことから、前回解説した財産管理と身上保護は密接に関連しています。
例えば、適切な医療や介護を受けるためには、そのための費用を確保しなければなりません。また、住環境を整えるには家賃や施設利用料の支払いが必要です。そのため成年後見人等は、財産管理を通じて身上保護を適切に行う必要があります。
ただし、後見人は法律上、身上保護に関する「法律行為」を代理する権限をもっていません(例:入院や介護サービスの契約は代理できるが、医療行為の同意はできない)。
では、どうしても本人が同意できない状態にあるとき、成年後見人はどうすればよいのでしょうか?
身上保護の法的根拠
身上保護の原則は、成年後見制度を定めた民法に基づいているという解釈があります。
まず財産管理については、民法第859条に「成年後見人は、本人のためにその財産を管理し、及びその財産に関する法律行為について本人を代表する」と、明確に規定されています。この規定を根拠に、目的としての財産管理を達するために、成年後見人は本人の生活や健康など身上保護を目的とした支援を行うことが出来るという解釈です(民法第858条は身上保護そのものの根拠規定ではありません)。
これは成年後見制度当初からの問題が、現在でも解決されていないことに対する実務上の縮図を明確に表している解釈かと思います。ここでは詳しくは取り上げませんが、立法担当者は、現行の成年後見人制度の本質を「判断能力不十分な者のための財産管理制度」として捉えています。特に制度当初は(今でもそうですが)近親者による家族後見が主流で、被後見人等の身上保護面における一般的な家族の役割と、成年後見人としての役割の違いが明確に認識されていませんでした。
成年後見制度の立法担当者は,身上配慮義務の法的性質につき.善管注意義務の内容を延べ広げ、かつ明確にしたものと説明しています。成年後見人の役割は財産管理と身上保護(身上監護)と言われていますが、成年後見人による身上保護について直接関連する規定は、民法全体でわずか2条、身上保護に関する一般規定である第858条と、居住用不動産の処分に関する第859条の3のみです。
専門職の真の専門性
長くなりましたが、今のところ身上保護に関する明確な根拠規定はなく、特に医療同意などに代表される成年後見人の無権代理の問題は、結局のところ善管注意義務の延べ広げたものによる個々の対応……というのが結論です。
要は「現場で何とかしろ」ということですので、ここからは完全に個人の見解になりますが、このような法の限界を超えた判断に対応するのが専門職の真の専門たる行為ということで、日々悩みながらも被後見人等本人の意思を尊重しながら、最良と考える対応を行っています。時に権限外の行為であっても、本人がより良い生活を送れるためなら、と行っているのが実情です。