知ってるつもりの認知症ケア 第2回 認知症をひもとくと、ホントの問題がみえてくる?
2025/03/07

川畑智
認知症の人に接するときには「認知症の人の見ている世界」を正しく理解することが大切です。それによって適切で質の高いケアを提供でき、利用者は認知症になっても安心して生活することができます。
……とはいっても、さまざまな仕事をこなす日々の業務のなかでは、理想どおりのケアを行うことは一苦労です。
この連載では、認知症ケアの第一人者である理学療法士の川畑智さんのもとに、悩み多き介護職の方々が訪れ、ともに「現場のリアルな困りごとを理想に近づけるためのヒント」を模索していきます。
理想論ではなく、認知症ケアのリアルなつまずきにスポットを当ててみたいと思います。
川畑:さて、今回は「認知症」という言葉について「認」「知」「症」に分けて考えてみましょうか。
Aさん:言葉に注目するんですね。
川畑:そうです! まずは「認」からです。どんな意味があると思いますか?
Aさん:んー……「認める」と読みますよね。
川畑:そう。認識や誤認という言葉がありますね。つまりは「わかる」ということです。たとえばトイレの訴えは「膀胱や肛門に何かが蓄積してきたぞ」という情報から「トイレに行きたい」となるわけです。この感覚が内臓感覚です。
Aさん:たしかに赤ちゃんだったら、むずむずしてもうまく伝えられなくて、泣くしかないですもんね。
川畑:私たちは五感がありますから、感覚として外部からの情報をすぐに処理して、何事もなく生活ができます。認知症の人は今起きていることに対する情報処理にエラーが起こりやすい状態です。
Aさん:「わからない」ってことですね。
川畑:では「知」は何でしょうか?
Aさん: これは「知っている」ということですか。読んで字のごとくですけど。
川畑:正解です! 高齢者は知識をたくさん蓄えながら人生を送ってきた人生の先輩です。「おばあちゃんの知恵袋」なんて言葉や、老練という多く経験を積んだことを示す言葉もあります。ただ、「知っている」がたくさんあっても、認知症になると、頭の中にある正しい知識をうまく引き出すことができなくなるわけですね。
Aさん:なるほど。引き出すことができない状態なんですね。
川畑:そうです。認知症の場合、この「わかる」「知っている」という認知に波があるのも特徴です。わかるときもあれば、わからないときもある。日内変動や週内変動があることから「症」という文字が使われているんです。
Aさん:波があるんですね。少しイメージしやすくなったかもしれません。
川畑:ありがとうございます。では、トイレに何度も行きたがる認知症の人についても、言葉から考えると見ている世界が垣間見えるかもしれません。
Aさん:ムズムズした感覚があって、トイレに行きたいと訴えているので、「認」はあるということでしょうか。
川畑:いい調子です。「知」はどうですか?
Aさん:行ったばかりということを思い出せていない状態です。
川畑:そうですね。トイレがどこにあるのかがわからなくなっている場合であれば、調子がよいときには自分でトイレに行けるかもしれません。
Aさん:「症」は、その苦手に波があることでしたね。クリアに整理できた気がします。
川畑:ありがとうございます。それでは、実際の業務のお話に移りましょうか。トイレに何度も行きたいと訴えることで起こる問題は何ですか?
Aさん:トイレに行きたいと訴える人は、誰かの介助が必要なわけですね。その背景にはトイレに関して失敗した経験があって、迷惑かけたくないと思っている、とかはよく聞きます。僕たちの悩みは、実際には連れていく余裕がない、ということですかね。
川畑:ですね。利用者のことを考えるなら、訴えがあるたびにトイレに連れていくことが理想ではあります。現実はどうですか。
Aさん:実際に何度も行くと業務が回らなくなるので、回数を減らしてもらっています。
川畑:そこのギャップに悩んでいるわけですね。トイレの回数がたくさんあることで「本来であればこなせたはずの業務が遂行できなくなる不安」です。
Aさん:これはリアルな悩みです。もちろんトイレ誘導だけが仕事じゃないですし。
川畑:認知症の症状で「私の業務が困っている」という状態ですが、訴えで業務が遂行できなくなれば、別の人にも迷惑がかかる。すると「『お風呂に誘導して』と言ったでしょ!」「『この書類、書いておいて』と頼んだよね?」「なぜ時間通りにしてくれないの?」と言われるかもしれません。
Aさん:そりゃそうです。
川畑:悩みをひもとくと、行きつくのはサポートするなかでの人間関係。「認知症の人と私」ではなく、「ほかのスタッフと私」という人間関係に悩んでいるということですね。そう考えると、大切なのは「この人はトイレの回数が多いけど、どうしようか」をみんなで話し合うことになります。
Aさん:なるほど。話し合いっていうと、それはそれで時間がかかりそうですけど。
川畑:そんなに大げさなものでなくてもいいんです。次回は、チームケアを実践するための私なりのヒントをお伝えしたいと思います。
Aさん:わかりました! よろしくお願いします。
※次回は、チームケアに取り組むために必要な考え方を考えていきます。
川畑智さんのプロフィール
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表
1979年宮崎県生。病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立。熊本県を拠点に病院・施設・地域における認知症予防や認知症ケア・地域づくりの実践に取り組み、県内9つの市町村で「脳いきいき事業」を展開。ほかに脳活性化ツールとして、一般社団法人日本パズル協会の特別顧問に就任し、川畑式頭リハビリパズルとして木製パズルやペンシルパズルも販売。年間200回を超える講演活動のほか、メディアにも多数出演。著作に『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』シリーズなど。