ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス 第4回

2025/02/28

Active Listening

 第3回では、理想と現実の折り合いをつけるために、聴き、共感し、寄り添い、重荷を一緒に持ち上げ、共に歩くことが大切だと述べた。今回は特に「聴き、共感すること」に焦点をあてた「Active Listening」を取り上げる。


【著者】

川村 隆彦(かわむら たかひこ)

エスティーム教育研究所代表

「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
人生の困難さに対処する方法を YouTubeインスタグラム で発信中。


心を開く鍵—共感と質問

 「クライエント中心アプローチ」を提唱したカール・ロジャーズは、「あなたの経験していることを、完全に理解できるのは、あなたしかいない」と教えた。私はこれに同意する。「完全に」どころか、ほとんど理解できないと言ってもいい。本来、人は他者のことなど理解できない—そこが正しい出発地点だと思っている。しかし、そうした不完全な人からであっても、「理解してほしい」と望むのもまた人なのだ。
 そこで必要なのは、固く閉じた心を温めることだ。

 

最初は、相手の発する小さな感情に焦点をあてて共感してみよう。すると心が開き、感情が流れてくるのが見える。

次は、その感情をさらに外へ引き出すために、質問を投げかけよう。もちろん、質問したことへの答えが返ってこなくても構わない。

相手が話したいことであれば、それを聴いて共感を示し、そして質問する。

 

 

 こうして「共感と質問」という鍵を回すことで、相手は、語りながら否定感情を外へと流しはじめる

 

強さを見出し、伝える

 否定感情が外へ流れると、心にスペースができるので、そこに肯定感情を戻していく。それは相手の強さを見出すことで可能となる。話を聴いていくにつれて、あなたの目に、隠れていた「強さ」が見えてくることだろう。その「強さ」を、確実に伝えることで、肯定感情を取り戻すことができる。
 「問題で苦しむ人々に強さなどあるのか?」と聞かれることがよくある。それに対しては、「彼らは誰よりも、問題に耐える力をもっているかもしれない」と答えてきた。弱さではなく「強さ」を見つけようとして聴くなら、それはいつでも見つけられるものなのだ。

 

Active Listeningの実際

 今回の連載のなかだけで、Active Listeningの実際を表現することは難しいが、私自身が研修で取り上げている例を解説してみたい。

 

陸上の大会で決勝に行けなかった航

 航は、高校最後の陸上大会で、決勝に行けず、落胆した。わずか1秒を縮めるため、日々、過酷な練習に挑んだが、夢は叶わなかった。
 熱意と努力が報われず、落胆した航に共感を示すと、彼は「たった1秒タイムを縮めることさえできないなら、今後、それ以上のことを願っても無理、それが正直な気持ちだ!」と感情を吐き出しはじめた。
 私は、正直な気持ちに感謝を示し、努力したのに、願いが叶わなかったことを、「今、どう受け止めているのか?」と質問した。すると航は、「熱意や努力と実力は違う。自分には、能力がなかっただけだ!」とさらに否定感情を吐き出した。そして「その現実を受け入れるのはつらい」と打ち明けた。
 「それほどつらい現実を経験しているのに、そのうえ、自分に能力がなかったと認めるのは、さらに厳しいはず……そんなことが、どうしてできるんだろう? もっと他人や環境のせいだって言ってもいいし、実際、そういう人もいる。でもあなたは、自分の力不足だって受け入れている。どうして、そんな気持ちになれるんだろう?」と私自身の率直な気持ちを伝えた。
 航は少しずつだが「自分がしてきたことは、間違っていないと信じたい」と話しはじめた。ただ何度も「自分に力がなかったことを受け止めるのはつらい」と、理想と現実の葛藤を吐き出した。
 その葛藤に共感を示し「願いが叶わないときに、自分を信じることは、誰にでもできることではない」と航のもっている強さを伝えると、彼は「自分への信頼があるかはわからないが、叶わない願いや起こらない奇跡がある、ただそれを受け止めるのは難しい」と口にした。
 私は、現実を受け入れることの難しさに共感しつつ、それでも現実を受け止めようとしている航を称賛し、それは「最善を尽くしてきた人にしか言えない言葉だ」と伝えた。

 

 聴き、共感を示し、強さを伝える—Active Listeningから、あなたは何を学んだだろう?
第5回と第6回では、すべての対人支援の理論やアプローチに共通する「エンパワメント8つの力」について解説したい。