言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第18回
2026/10/16
ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。
Q. 何度「ダメ」と言っても、同じことをくり返してしまうのはなぜ?
A. 否定のことばだけでは、「代わりに何をすればいいか」が伝わりにくいことが多いです。行動の理由を探りながら、「してほしいこと」を肯定形で具体的に伝えましょう。
一般的には、ある程度ことばが理解できる年齢になると、大人からきつく注意をされたことは、その後、同じような行動をくり返しにくくなるものです。しかし、発達凸凹キッズのなかには、何度も「ダメだよ」「やらないよ」とことばをかけても、なかなか行動が変わっていかない子どもがいます。また、「ダメ」ということばをかけても行動が変わらないだけでなく、場合によっては、「ダメ」な行動が増えてしまうことさえあります。今回は、一般的な禁止・否定の表現ではなかなか伝わらない背景と、どうすれば伝わるのかについて、考えていきます。
「ダメ」ということばでは、「どうすればいいか」がわからない
発達上、「〜しない」という否定の文を理解するのには、「〜する」という肯定の文を理解するよりも時間がかかるといわれています。発達凸凹キッズの多くは、ことばの発達に遅れが出やすいため、一般的な発達に比べても、否定の文を理解できるまでに人一倍時間がかかることがあります。
また、「ダメだよ」「走らないで」などの否定語には、「じゃあ、どうすればいいの?」という具体的な行動が示されていません。「走っちゃダメ!」と言われて、走らずに歩いて移動するためには、「走らないでと言われたということは、歩けばいいんだな」などと類推する必要がありますが、発達凸凹キッズはことばの類推が苦手なことが多く、結局何をすればよいかわからないので、行動を変えることができないのです。
さらに、「○○だからダメだよ」「○○はダメだよ」と丁寧に理由や内容を伝えても、部分的に理解する傾向のある発達凸凹キッズは、全体の意味の理解には至らず、「ダメ」ということばだけに強く反応することもあります。そうすると、何がダメなのかは具体的に伝わっていないのに、“否定された”という感覚だけが強く残り、突然怒り出したり、激しく混乱したりといった行動につながることもあります。本人が混乱している状況では、新しいことやしてほしくないことを言っても伝わらないので、結局、同じ行動がくり返されることになります。

その行動には「理由」がある
発達凸凹キッズの場合、「そもそも理由があって、行動が止められない」ということもあります。たとえば、子どもが大人にかまってほしい状況で、物を投げたときに、大人が「ダメだよ!」といいながら近寄ってくると、子どもとしては「かまってもらう」という希望がかなってしまいます。そして、「物を投げれば、またかまってもらえる」と誤解し、何度も同じ行動をくり返してしまいます。また、発達凸凹キッズのなかでも、相手の反応を誤解してしまうタイプの子どもは、怒られていることが相手の様子から判断できないので、より行動が続きやすくなります。
また、見逃されがちなのが、「やってはいけない」と理解することと、その場で自分の行動にブレーキをかけることとは、別の力だということです。発達凸凹キッズのなかには、その場で自分の行動にブレーキをかける力に弱さがある子どももいます。「わかっているのに止められない」のは、決してふざけているわけではないのです。

「してほしいこと」を肯定形で具体的に伝える
では、どのように伝えればよいのでしょうか。まずは、「〜しない」ではなく「〜しよう」と、肯定形で具体的に伝えてみましょう。「走らないで」ではなく「歩こうね」、「離れないで」ではなく「先生のとなりを歩こう」、「さわらないで」ではなく「手はお膝の上ね」というように、してほしい行動をことばにします。そして、望ましい行動ができた瞬間を見逃さないことが大切です。「上手に歩けているね」「手がお膝の上に乗っているね」と、できたことをことばにして認めます。叱ることよりも、できたときに声をかけることのほうが、子どもには「何をすればいいのか」がずっと伝わりやすくなります。
経験させないようにする環境設定も考える
発達凸凹キッズは、ことばを聞いたり、まわりの様子を見て学んだりするというよりも、「自分の経験から、次にどうすればよいのかを学ぶ」という特徴があります。そのため、ことばで禁止されたことよりも自分が一度経験したことのほうが頭に残りやすく、(本人にとってその行動にメリットがあった場合には)経験をなぞるように同じ行動をくり返すことがあります。そう考えると、「経験させない(同じ経験をくり返す前に止める)」という方法も重要です。たとえば、触ってほしくないものを何度も触るのであれば、高い所に置く、棚にしまうなど、物理的に触ることができない環境にします。そうすると、触る経験が減り、しばらく触らない期間ができると、それを触りたいという衝動が薄れていくという具合です。
何度伝えても行動が変わらない場合には、「禁止することばでは伝わりにくいのかな」と考えて、「してほしいこと」を肯定形で具体的に伝えてみてください。
著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)
言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。
▶ ホームページ: miwamomoko.com
▶ インスタグラム:@hattatsu.hoiku.gakkou
