言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第15回

2026/07/17

ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。


Q. 切り替えが苦手な子どもへのことばかけは、どうしたらいい?

 

A. ことばで説得しようとするより、「見てわかる」情報を添えることが近道です。

 

 「お風呂に入ろう」と声をかけても遊びをやめられない、園で、ほかの子どもたちが次の活動を始めているのに、なかなか動こうとしないなど、発達凸凹キッズのなかには、いまやっていることをやめて次の行動に移るまでに、大人が思う以上に時間がかかる子がいます。
 まわりからは「わがまま」「マイペース」などと評価されがちですが、切り替えが苦手な背景には、本人なりの理由があることが多いです。今回は、その背景を理解しながら、どのようなことばかけやかかわりが効果的なのかを考えていきます。


切り替えのむずかしさの背景にある「ことばとイメージの間の壁」

 切り替えが苦手な子の背景として、まず考えたいのが「ことばかけの内容を十分に理解できていない」可能性です。たとえば、園で「いまからホールに行ってボール遊びをするよ。ホールでのお約束ごとはね……」と少し長い説明をされた場面を考えてみます。発達凸凹キッズはことばの理解力が年齢に比べてゆっくりであることが多く、長い説明を最後まで聞き続けることがむずかしい子も少なくありません。話の一部にしか注意が向かない特性を持つ子は「ボール」というキーワードだけは拾えても、どこで何をするのかまではつかめないことがあります。
 また、これまで経験したことのない活動を指示された場合、ことばによる説明を聞いてもその場面が具体的にイメージできないということもあります。発達凸凹キッズのなかには、「具体的にイメージできないことはやりたがらない」という特徴を持つ子も多く、これが行動の切り替えをむずかしくする一因になっていることもあります。動かないというのは、わがままではなく、ことばとイメージの間の壁にぶつかっているサインかもしれません。

 


「見てわかる」ことが行動を切り替えるきっかけに

 ことばで伝えても子どもがなかなか動かない場合、「見てわかるようにすること」が効果的です。活動に誘っても、どうしても参加しようとせず、いまの遊びを続けている子がいる場合、あえて本人に見えるところでその活動を始めてみましょう。臨床の場では、何をするのかを見て確認できると、それまでまったく切り替えられなかった子どもが「やるー!」とコロッと態度を変えることはよくあります。
 次の場所で使う「実物」を見せながら誘導するのも有効です。特に、公園から家に帰る、園の教室からホールに行くといった離れた場所への移動を伴う場面では、目に見えていない場所に移動しなければならないため、切り替えや移動をいやがる傾向があります。「行くよ」と漠然と声をかけるのではなく、「このボールをお友だちに渡しに行こう」などのように、目の前に具体的なものを見せて提案することで行動につながる場合もあります。
 一方で、ことばで説得しようとしたり、「なぜ動かないの?」と問い詰めたりすることは、逆効果になることがあります。子どもによっては、話しかければ話しかけるほど混乱し、かえってその場から動こうとしなくなることがあります。「伝わっていないのに、ことばを重ねる」ことは、お互い消耗するだけという結果になりやすいので、「見てわかる」情報を提示することがおすすめです。

 


切り替えが苦手な子の対応で見過ごされがちなこと

 切り替えのむずかしさの背景として、意外と見過ごされやすいのが「没入している(過集中している)状態のときは切り替えがむずかしい」ということです。発達凸凹キッズのなかには、遊んでいるうちに目の前のことに集中し過ぎてしまい、ことばかけやまわりの状況などの情報が入ってこなくなる子がいます。そのような状態のときに、急に「終わりだよ」と声をかけられても、本人は「自分だけの世界」にいたので、すぐに切り替えることができません。没入傾向のある子には、大人が子どもに動いてほしいタイミングよりも前から、「あと10分くらいで終わりだよ」「あと5分だよ」などと何度か予告をしておくことが効果的です。
 さらに、肩にそっと触れたり、「あそこにあるボールを取ってきてくれる?」などと遊びに関連した小さな移動をお願いしてみましょう。体を動かすことで没入状態から抜け出しやすくなり、切り替えのきっかけになることもあります。

 

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 切り替えが苦手な子どもは、まわりに合わせて行動を切り替えたことによる「成功体験(まわりに合わせて切り替えたらいいことがあったという体験)」が少ないことも多いです。時間がかかっても、タイミングよく動けたときには、「ありがとう、切り替えられたね」とポジティブに伝えることを大切にしてください。小さな成功体験が積み重なることで、少しずつ「切り替える力」が育っていくことが多いと思います。


著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)

言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。

 

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