第24回【最終回】あなたがいるだけでこの世界は意味を持つ

　この原稿を書いていた2011年３月11日の午後、「東北地方太平洋沖地震」が発生したため、原稿を書き換えて掲載します。
　地震とその後の津波による被害を受けている方に、心から共感の気持ちをお伝えしたいと思います。一般の人々でさえ安心して避難するところがなく、食事や水、トイレの確保などに苦労する生活ですから、認知症の人と介護者、家族にとって避難生活は課題が多いものです。
　16年前の阪神淡路大震災の時、私が感じた認知症ケアの注意点を書き出したいと思います。

（１）寒い中での避難です。認知症の人が若年であれば体力が保てるかもしれませんが、高齢者の場合には、急激な外気温の変化による血管の収縮に注意してください。新たな微小脳梗塞、血管性認知症の悪化を防ぐため、寒暖の差が少なくなるように努めましょう。
（２）水分が不足しがちです。避難場所での水分の確保は、寒ければ寒いほど滞りがちになります。寒くても脱水になることに注意しましょう。舌の表面がざらざらしていないか見ながら、脱水に注意してください。
（３）避難場所での慣れない環境から昼夜逆転、軽い意識混濁の「せん妄」が起こりやすくなります。停電が終わった後、夜間も照明が点灯している場合には、光が直接に目に入らないようにしましょう。
（４）認知症の薬の中でも、アリセプトはある程度までなら、薬を飲まない日があっても大丈夫です。むしろ安定剤や睡眠導入剤などで行動心理症状をコントロールしている場合には、何日も薬が抜けることで認知症の人が混乱する場合があります。避難所の医療班の対応にも限界がありますが、薬がないことを伝えて指示を待ってください。薬が確保できなくても、昼夜リズムを保ち、その人の不安をできるだけ軽くすることで、症状は穏やかになります。
（５）避難所での食事は、どうしても乾いたものになりがちです。疲れと不安が重なって唾液の量が少なくなると、嚥下が悪くなります。できれば水分のある食事に心がけてください。

　介護しながらの避難は、大変なことの連続でしょう。できることよりもできないことのほうが多いかもしれません。今、避難しているからこそ、完璧なケアを目指してしまうかもしれません。
　でも、無理はしないでください。あなたに「今」できることだけで十分です。認知症の人のためにもケアするあなたががんばりすぎてはいけないのです。あなたやケアを受けている人が全面的に保護されている安心感を持つことができるよう、心から祈っています。

　最終回のテーマ、「あなたがいるだけでこの世界は意味を持つ」、このフランクルの言葉がみなさんと私たち日本全体の支えになりますように。