13万人を超える受験者の中から晴れて介護福祉士になった皆さんに、仕事をしながら勉強を続けるコツや効果的な勉強法、受験を仕事に活かす展望についてうかがいました。
第34回 前川和子さん
特養介護職員
前川さんが使った受験参考書等
通信講座・以下は本講座のセット
(介護福祉士国家試験過去問題集・でたでた試験直前チェック)
ユーキャン
(介護福祉士国家試験過去問題集・でたでた試験直前チェック)
ユーキャン
前川さんの合格までの道のり
「介護ってこれでいいの?」との驚きが契機に
「10年ほど前のこと、友人が働くためにヘルパー2級の講習を受けるというので、それに付き合って受講しました。講習に伴う実習で、訪問介護とデイサービスとを回ったんですが、そこで行われている介護職の対応を眼にして、これは自分にはできないと感じたんです」。
そう語るのは、いまは特養の介護職としてフロアリーダーを務めている前川和子さん。前川さんが初めて介護の現実を目の当たりにして、自分にはできないと感じさせたのは、後になって思うと、実は未熟な介護しか提供されていなかったことにも原因があったのですが、当時は、お年寄りの要介護状態というものは悲惨なものだと感じてショックを受けたのでした。
前川さんが見たお年寄りには、要介護の状態にあっても自分なりの生活している人間といった趣きはなく、介護する側にも仕事としてサービスを提供するだけのイメージしかもてていなかったこともありました。友人は働かなくてはならないので、講習を修了してヘルパーとなったのでしたが、前川さんは介護の世界からは遠ざかっていったのでした。
しかし、前川さんが高齢者介護の職場を意識するようになったのには、この研修が大きな契機になりました。その後、ときとして出会う訪問介護の人の高齢者への対応などを見ていると、次第に、「こんな人がヘルパーをやっているなんて」と感じることが多くなり、前川さんの中で、自分なりに理想とする介護像が形成されるようになっていったのでした。
そんな前川さんを介護の仕事に就かせたのは、家の近所に有料老人ホームが開設となり、新聞の折込みチラシに職員募集の案内が載っていたことからでした。新設のホームですから立ち上げからの関わりになるわけで、自分の考えているような介護が実現できるのでは、との期待感も伴っての仕事に就くことにしました。介護の世界に入って、それなりに介護を知ってみると、かつて自分が疑問に感じたヘルパーさんたちの行動の理由がわかるような気もしました。しかし、他の介護の施設や病棟などでの認知症の人へのケアを眼にする機会も多く、そこではまだまだ本人を中心においたケアといったこととはほど遠く、ともすると虐待まがいの扱いになっていると感じることもあったのでした。
そうした思いが積み重なってのこと、老人ホームに勤めるにあたっては、実務経験年限をクリアしたならば、是非とも国家資格をとって、この仕事に励みたいとまで思うようになっていったのでした。
そう語るのは、いまは特養の介護職としてフロアリーダーを務めている前川和子さん。前川さんが初めて介護の現実を目の当たりにして、自分にはできないと感じさせたのは、後になって思うと、実は未熟な介護しか提供されていなかったことにも原因があったのですが、当時は、お年寄りの要介護状態というものは悲惨なものだと感じてショックを受けたのでした。
前川さんが見たお年寄りには、要介護の状態にあっても自分なりの生活している人間といった趣きはなく、介護する側にも仕事としてサービスを提供するだけのイメージしかもてていなかったこともありました。友人は働かなくてはならないので、講習を修了してヘルパーとなったのでしたが、前川さんは介護の世界からは遠ざかっていったのでした。
しかし、前川さんが高齢者介護の職場を意識するようになったのには、この研修が大きな契機になりました。その後、ときとして出会う訪問介護の人の高齢者への対応などを見ていると、次第に、「こんな人がヘルパーをやっているなんて」と感じることが多くなり、前川さんの中で、自分なりに理想とする介護像が形成されるようになっていったのでした。
そんな前川さんを介護の仕事に就かせたのは、家の近所に有料老人ホームが開設となり、新聞の折込みチラシに職員募集の案内が載っていたことからでした。新設のホームですから立ち上げからの関わりになるわけで、自分の考えているような介護が実現できるのでは、との期待感も伴っての仕事に就くことにしました。介護の世界に入って、それなりに介護を知ってみると、かつて自分が疑問に感じたヘルパーさんたちの行動の理由がわかるような気もしました。しかし、他の介護の施設や病棟などでの認知症の人へのケアを眼にする機会も多く、そこではまだまだ本人を中心においたケアといったこととはほど遠く、ともすると虐待まがいの扱いになっていると感じることもあったのでした。
そうした思いが積み重なってのこと、老人ホームに勤めるにあたっては、実務経験年限をクリアしたならば、是非とも国家資格をとって、この仕事に励みたいとまで思うようになっていったのでした。
受験勉強にはノウハウが必要
さて、実務経験3年の目処が立った段階で受験勉強の体制を整えていこうと、試験前年の3月の段階で、前川さんは通信教育による受験講座を申し込みました。講座からは膨大な量のテキストと添削に使う資料など一式が送られてきました。介護福祉士の国家資格には13科目の勉強が必要になることは知っていましたが、テキストを見て、その量の多さに圧倒されました。「これだけの内容を身につけるのは大変」と身の引く思いもあったのですが、通信教育ですから、その指導に合わせて順に勉強していけば確実に合格を手にできるとも思え、前川さんは意気込んでテキストの読み込みを始めました。
もちろん、勉強に当てる時間といったなら、帰宅後の就寝前か休日や夜勤明け。1時間程度を取るのが精一杯です。この講座の進行は、国が示している教育課程の科目の順に、制度や福祉の学問的な領域から勉強していくことになっていました。最初は「社会福祉概論」です。テキストを開いて勉強をし出してみると、福祉の学問で問われているような事柄は、形をかえれば仕事とも関係してはくるものの、純粋に学問的な知識を求められるようなことも沢山覚えないとなりません。こうした知識は、多くの人がそうであるように、前川さんも全く素地がありませんでした。ですから一つひとつ、根気良く覚えていかなくてはなりません。しかし、テキストの初めに書かれていた事柄も、その後に登場する新しい知識の習得に追われるうちに、いつの間にか忘れてしまっている、といった状態でした。
仕事をしながらの勉強は、想像以上に厳しいものがありました。同僚などは、夜勤の合間などに勉強している人もいます。しかし前川さんは、仕事と個人の問題とを一緒にしたくはない、といった思いがあったので、どこまでも、帰宅後や夜勤明けなどの私的な時間帯を当てていました。
帰宅後の勉強は疲れも出てきます。思っていた以上に時間を捻出できるものではありません。そうこうしているうちに、通信添削スケジュールと自分の勉強のペースが噛み合わなくなっていき、次第に気持ちが向いたときだけテキストを開くというようになっていました。受験勉強を進めていくには、「自分に合った勉強法なりを工夫しないとなかなか進まない」(前川さん)ものなのです。
もちろん、勉強に当てる時間といったなら、帰宅後の就寝前か休日や夜勤明け。1時間程度を取るのが精一杯です。この講座の進行は、国が示している教育課程の科目の順に、制度や福祉の学問的な領域から勉強していくことになっていました。最初は「社会福祉概論」です。テキストを開いて勉強をし出してみると、福祉の学問で問われているような事柄は、形をかえれば仕事とも関係してはくるものの、純粋に学問的な知識を求められるようなことも沢山覚えないとなりません。こうした知識は、多くの人がそうであるように、前川さんも全く素地がありませんでした。ですから一つひとつ、根気良く覚えていかなくてはなりません。しかし、テキストの初めに書かれていた事柄も、その後に登場する新しい知識の習得に追われるうちに、いつの間にか忘れてしまっている、といった状態でした。
仕事をしながらの勉強は、想像以上に厳しいものがありました。同僚などは、夜勤の合間などに勉強している人もいます。しかし前川さんは、仕事と個人の問題とを一緒にしたくはない、といった思いがあったので、どこまでも、帰宅後や夜勤明けなどの私的な時間帯を当てていました。
帰宅後の勉強は疲れも出てきます。思っていた以上に時間を捻出できるものではありません。そうこうしているうちに、通信添削スケジュールと自分の勉強のペースが噛み合わなくなっていき、次第に気持ちが向いたときだけテキストを開くというようになっていました。受験勉強を進めていくには、「自分に合った勉強法なりを工夫しないとなかなか進まない」(前川さん)ものなのです。
秋から真剣に取り組む
介護福祉士の受験は、筆記試験だけではありません。実技試験も受けなくてはなりませんが、これは各地の介護福祉士養成校などで行われている「介護技術講習」を受けることで免除になります。前川さんは実技試験を受けるのは大変だと周囲から聞いていたので、介護技術講習を申し込むことにしていました。しかし、自宅の周辺の会場はどこも既に定員が充足していて取れません。なんとか近県に空いているところを見つけて、遠路の通いを覚悟して受講しました。6月のことでした。通学は時間もかかって大変でしたが、集まった受講生が皆勉強熱心な人たちであったこと、講師の先生が大変に熱意のある方で、ここまでしっかりと教えてもらったことがなかっただけに、皆、休み時間の間も、実技の展開をどうするのか、お互いに確かめ合うなど取り組んでいたそうです。この講師の先生には、後に合格したことを手紙で伝えたのだそうですが、「人に教える気持ちの大切さを感じた」(前川さん)ところでした。介護技術講習は、大変に勉強になったとのことです。
介護技術講習の受講は、筆記試験の介護系の出題にも多かれ少なかれ影響しました。先生は直接出題に触れることはしなかったのですが、この講習で得た知識というか専門職としての志といったことが、日々の仕事を通じて勉強していく姿勢につながっていったと前川さんは振り返っています。
さて、受験の申し込みを済ませると、直に秋なってしまいました。このままのペースで通信教育のテキストを開いていては、とても受験に臨むことはできないと感じて、前川さんは10月になって、周囲が勧めていた介護福祉士国家試験の過去問題集を使って勉強をすることにしました。さすがに間に合わないのではないかとの焦りもあって、家族にも協力してもらい、勉強時間を確保できるようにしました。毎日必ず1時間は問題集を開き、「社会福祉概論」から順に問題を解いていきます。不明なところ、気になったところなどがあると、その都度、通信講座のテキストを開いて補足したことで、覚えないとならない事柄が頭に入ってくるようになりました。
誰しもそうでしょうけれど、制度や福祉の歴史的背景や人物、援助技術論の手法などといった知識は、学校教育のなかで習わない限り知らない事柄がほとんどです。これらは何度やってもなかなか覚えられない人が多いのですが、それでも問題を繰り返して解いていくうちに、それなりに頭に入るようになり、そのうちに同様の問題に当たると解けるようになっていきます。前川さんも何度も繰り返すうちに、コツを掴んでいきました。
「医学一般」では高齢者に多く見られる疾病についての知識などが問われますが、人体各部の名称などと合わせて覚えないとなりません。こうした疾病については日々の介護で出会うことが多いので、知識があると思い込んでしまう人もいますが、実は中途半端な知識であることが多く、症状やその原因、他の疾病との関連など、しっかりと勉強し直さないと、得点に結びつかない事柄も多いのです。前川さんも過去問題を解いているうちにこうしたテクニックを飲み込んでいきました。
通信講座には、模擬試験がついていました。模擬試験をやってみると、自分の得意と不得意が明確に分かって、その後の勉強方針を立てるのに役立ちました。
さて、年が変わって1月になってからは、通勤の折などに、直前対策で暗記に役立つハンディな参考書を使い、それを覚えることにしました。どこまで効果があったのかはあまり認識できてはいませんが、直前にはそれなりの勉強法があってよいとの思いで取り組んだのでした。そこには、なんとしても「1回の受験で合格したい」との、強い思いがあったのですが、それなりに成果はあったと感じているそうです。
ところで、勤務のうえでは冬に入って大変な日々が続きました。12月には、入居者の多くに感染症などの症状が出たりし、また亡くなる人も多かったのです。入居が一斉だったことから、一定の時間が経過し、当初の入所者たちが重度化していったことも背景にあったようです。さらに追い討ちをかけるように、試験の前日、前川さんが担当していた99歳になる方の容態が急変して即入院となり、それに付き添って夜10時まで病院にはりつく事態になってしまいました。「明日が試験なのに、万一このまま容態が悪化したなら、明日の試験は無理か」とまで思ったそうです。しかしどうにか症状が安定して帰宅することができ、睡眠時間はなんとか確保できたのでした。
介護技術講習の受講は、筆記試験の介護系の出題にも多かれ少なかれ影響しました。先生は直接出題に触れることはしなかったのですが、この講習で得た知識というか専門職としての志といったことが、日々の仕事を通じて勉強していく姿勢につながっていったと前川さんは振り返っています。
さて、受験の申し込みを済ませると、直に秋なってしまいました。このままのペースで通信教育のテキストを開いていては、とても受験に臨むことはできないと感じて、前川さんは10月になって、周囲が勧めていた介護福祉士国家試験の過去問題集を使って勉強をすることにしました。さすがに間に合わないのではないかとの焦りもあって、家族にも協力してもらい、勉強時間を確保できるようにしました。毎日必ず1時間は問題集を開き、「社会福祉概論」から順に問題を解いていきます。不明なところ、気になったところなどがあると、その都度、通信講座のテキストを開いて補足したことで、覚えないとならない事柄が頭に入ってくるようになりました。
誰しもそうでしょうけれど、制度や福祉の歴史的背景や人物、援助技術論の手法などといった知識は、学校教育のなかで習わない限り知らない事柄がほとんどです。これらは何度やってもなかなか覚えられない人が多いのですが、それでも問題を繰り返して解いていくうちに、それなりに頭に入るようになり、そのうちに同様の問題に当たると解けるようになっていきます。前川さんも何度も繰り返すうちに、コツを掴んでいきました。
「医学一般」では高齢者に多く見られる疾病についての知識などが問われますが、人体各部の名称などと合わせて覚えないとなりません。こうした疾病については日々の介護で出会うことが多いので、知識があると思い込んでしまう人もいますが、実は中途半端な知識であることが多く、症状やその原因、他の疾病との関連など、しっかりと勉強し直さないと、得点に結びつかない事柄も多いのです。前川さんも過去問題を解いているうちにこうしたテクニックを飲み込んでいきました。
通信講座には、模擬試験がついていました。模擬試験をやってみると、自分の得意と不得意が明確に分かって、その後の勉強方針を立てるのに役立ちました。
さて、年が変わって1月になってからは、通勤の折などに、直前対策で暗記に役立つハンディな参考書を使い、それを覚えることにしました。どこまで効果があったのかはあまり認識できてはいませんが、直前にはそれなりの勉強法があってよいとの思いで取り組んだのでした。そこには、なんとしても「1回の受験で合格したい」との、強い思いがあったのですが、それなりに成果はあったと感じているそうです。
ところで、勤務のうえでは冬に入って大変な日々が続きました。12月には、入居者の多くに感染症などの症状が出たりし、また亡くなる人も多かったのです。入居が一斉だったことから、一定の時間が経過し、当初の入所者たちが重度化していったことも背景にあったようです。さらに追い討ちをかけるように、試験の前日、前川さんが担当していた99歳になる方の容態が急変して即入院となり、それに付き添って夜10時まで病院にはりつく事態になってしまいました。「明日が試験なのに、万一このまま容態が悪化したなら、明日の試験は無理か」とまで思ったそうです。しかしどうにか症状が安定して帰宅することができ、睡眠時間はなんとか確保できたのでした。
試験当日
前川さんの受験会場は、やはり隣県でした。会場までのJRの所要時間や駅からの道順などは事前に確かめておいたので、当日に慌てないでも済みました。もし、下見していなかったなら、「前夜の騒ぎで動転して、会場での焦りにつながったのでは」と前川さん。余談ですが、その方は10日ほどの入院で亡くなられました。認知症もあって、点滴のチューブを引き抜いてしまうため、泣きながらもベッドに抑制されての最期だったと聞きました。高齢者の終末期において、どこまでの医療が必要なのか、考えさせられる事件でした。いま、特養では看取りが行われるようになってきましたが、この方の場合も、ご家族の意向もありますが、施設での最期であっても良かったのではと、いまは感じているとのことです。
さて試験当日、「実は知り合いには会いたくなかった」と前川さん。空いている時間があったなら、先の直前対策の本で知識を補充しておきたかったのだそうです。付け焼刃かもしれませんが、ちょっとしたチャンスを活かしたい、そんな思いがあってのことでした。しかし、知り合いの一人と顔を合わせてしまい、その人と昼食を一緒にしました。そのとき、午前の問題のできについて話題に上ったのだそうですが、あまり深くは語り合わなかったそうです。「もしいろいろと話をすると、かえって自分の解答が気になって、午後の試験に差し障るのでは」と思えたからでした。
前川さんは、筆記試験の解答にはゆとりがもてたそうです。午後の試験は大丈夫だと感じたのでしたが、それでも午前の問題は苦手意識もあって、見直す時間がとれてはいて多少の自信はあったものの、帰宅してから自己採点してみようという気持ちにはとてもなれなかったそうです。どこかに「もし駄目だったなら」、との思いがあったのかもしれません。兎に角、3月末の合格発表まで、試験のことは考えずにいました。
さて、思い返してみると、受験勉強ではありましたが、そのとき学んだことも忘れてしまっていることも多いなか、基本的な介護の考え方や思いにつながる事柄は、しっかりと身についたように感じています。いま前川さんは、資格をとって本当に良かったと思っているそうです。
試験に合格して間もなくのこと、自宅の近くに特養が新たに開設されることを知り、そちらに移ることにしました。それがいまの職場です。開設者の熱い思いを知り、自分が望む介護の姿をさらに追求したいとの思いに駆られたことがきっかけでした。いま前川さんはリーダーとして、ユニットケアなどへの取り組みを学んでいますが、自分がこの仕事に就いたときに感じた悲惨な高齢者の姿でなく、傍から見ても、こんな最期だったら要介護になっても幸せに過ごせるといった、そんな介護を作っていきたいと思っています。
「来年は、この施設が開設されて3年になるので、多くの同僚たちが受験に臨みます。この人たちに良いアドバイスができれば」とも思っているそうです。そしてこれからは、ケアマネジャーの資格をとって、さらに介護を深めていきたいと抱負を語っていただきました。
さて試験当日、「実は知り合いには会いたくなかった」と前川さん。空いている時間があったなら、先の直前対策の本で知識を補充しておきたかったのだそうです。付け焼刃かもしれませんが、ちょっとしたチャンスを活かしたい、そんな思いがあってのことでした。しかし、知り合いの一人と顔を合わせてしまい、その人と昼食を一緒にしました。そのとき、午前の問題のできについて話題に上ったのだそうですが、あまり深くは語り合わなかったそうです。「もしいろいろと話をすると、かえって自分の解答が気になって、午後の試験に差し障るのでは」と思えたからでした。
前川さんは、筆記試験の解答にはゆとりがもてたそうです。午後の試験は大丈夫だと感じたのでしたが、それでも午前の問題は苦手意識もあって、見直す時間がとれてはいて多少の自信はあったものの、帰宅してから自己採点してみようという気持ちにはとてもなれなかったそうです。どこかに「もし駄目だったなら」、との思いがあったのかもしれません。兎に角、3月末の合格発表まで、試験のことは考えずにいました。
さて、思い返してみると、受験勉強ではありましたが、そのとき学んだことも忘れてしまっていることも多いなか、基本的な介護の考え方や思いにつながる事柄は、しっかりと身についたように感じています。いま前川さんは、資格をとって本当に良かったと思っているそうです。
試験に合格して間もなくのこと、自宅の近くに特養が新たに開設されることを知り、そちらに移ることにしました。それがいまの職場です。開設者の熱い思いを知り、自分が望む介護の姿をさらに追求したいとの思いに駆られたことがきっかけでした。いま前川さんはリーダーとして、ユニットケアなどへの取り組みを学んでいますが、自分がこの仕事に就いたときに感じた悲惨な高齢者の姿でなく、傍から見ても、こんな最期だったら要介護になっても幸せに過ごせるといった、そんな介護を作っていきたいと思っています。
「来年は、この施設が開設されて3年になるので、多くの同僚たちが受験に臨みます。この人たちに良いアドバイスができれば」とも思っているそうです。そしてこれからは、ケアマネジャーの資格をとって、さらに介護を深めていきたいと抱負を語っていただきました。