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梶川義人の「虐待相談の現場から」

虐待梁山泊

 以前からずっと感じてきたことがあります。それは、虐待の事例検討会などで、この人は「優れた見立てをする」とか「的確なコメントを言う」と思っていると、決まって生活保護担当の経験をお持ちだということです。

 先日も、とある権利養護センターの所長さんとお話ししたのですが、その横断的知識の豊富さと、何が問題の根っこであるか見抜く眼力に感心していたら、やはり生活保護担当の経験がおありでした。

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 おそらく、生活保護は、子ども、障がい者、高齢者といった分野をまたぎ、生活費(衣類、飲食物、光熱水など)、教育、住宅、医療、介護、出産、生業、葬祭など、あらゆる生活問題に関わり、総合診療科医のような役割を担うため、こうした力が養われるのではないかと思います。

 総合診療科医は、症状から細かく専門分化された診療科を特定するため、横断的で幅広い知識と、感染症や救急医療など、臓器の特定が難しい領域への対応が求められるそうですが、生活保護担当も同じようなところがあるというわけです。

 さしずめ「診断のプロ」といったところでしょうか。私も、そのあり方に学び、虐待の発生の仕組みの解明に、積極的に活かしたいので、久しぶりに、ソーシャルワーカー必携の『生活保護手帳』を精読しようと思います。

 もっとも、虐待事例への対応はそれだけは済みません。実際に何とかしないといけないからです。それも、多専門職多機関間協働のチーム対応を前提に、です。

 これに関しても、以前からずっと感じてきたことがあります。それは、「チーム対応するための研修を行ってきたが、何かが足りない気がする」というものです。ところが、私は、最近「医龍」というテレビドラマを見ていて、それが何であるか気がつきました。

 このドラマは、「患者のために出来ること」をひたむきに追い求めていく医師チームの物語です。毎回、医師たちは、「経済の論理や組織の論理が立ちはだかり…」とか、「手術中に予想外の問題が発覚して…」とか、たびたび絶体絶命ともいえる危機に陥ります。そして、ときに自信さえも揺らぎますが、最後は、創意と工夫を凝らし、最高難度の手術を成功させて、次々と患者を救っていきます。

 私は、ドラマの中で、切羽詰まった医師たちが「背水の陣でことに臨む」姿を見て、研修ではこれが十分味わえないと思ったわけです。

 以前、ミュージシャンが集まって、特別な準備なしに即興演奏するジャムセッションは、チーム対応のよいお手本になると書きました(「多専門職・多機関間協働のココロ」)。ジャムセッションは、新しい方法を試したりアレンジを模索したりするときのような練習にも用いられますし、親睦を深めるためにも使われます。

 そこで、私は、虐待の問題に関心を持つ人々が集い、即興で事例検討を行ったり、政談にふけったり、親睦を深めたりできる場が設けられないかと考えはじめています。お金持ちなら、すぐにでも作りたいところですが、名前が「虐待梁山泊」では流行りそうにありませんね。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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