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梶川義人の「虐待相談の現場から」

「ちょっと凄い研修会」のご報告2

 今回は、養護者による高齢者虐待について、研修会のご報告をしようと思っていたのですが、書ききれなくなってしまったので、2回に分けることにしました。

 さて、養護者による高齢者虐待は、平成24年度の相談・通報は23,843件で、虐待判断事例数は15,202件でした。注目したいのは、「平成23年度より少し減った」ことより、データの基礎単位が市町村から事例に変わり、事例の実態と対応の実情が、より科学的に把握できるようになったことです。

 しかし、結論づけてしまうには不明な点も多いので、ここでは、私なりの見方をお示しするに止めたいと思います。

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 第一に、発見とトリアージについて。相談・通報者は、従事者と非従事者に大別されます。前者は、介護支援専門員や介護保険事業所や医療機関の従事者を合わせて約7割になり、後者は、本人、家族・親族、近隣住民などを合わせて約3割程度です。

 これを踏まえると、早期発見・見守りネットワークを、非従事者をおもな成員として組織することには、一考を要するのではないかと思います。とくにトリアージは、それなりの経験がないと判断が難しいのに、真っ先にせねばならないので、非従事者にとっては荷が重いからです。

 因みに、死亡事例は26件27人であり、殺人が10件、ネグレクトによる致死が9件などでした。ですから、ネグレクトはかなり危険なのですが、案外、私たちは、暴力の方が危ないという先入観を抱いてはいないでしょうか。この点、危険なストーカーの見分け方など、他の分野の知見にも敏感でありたいと思います。

 第二に、情報収集・事実確認について。立入調査を行ったケースでは虐待と判断する割合が高いのですが、事実確認調査を行っても判断に至らないケースが約2割あります。とくに、家族・親族、近隣住民、民生委員からの通報です。

 これは、情報収集・事実確認の「し易さ」が立場によって異なることの証だと思います。事実、事実確認から介入に時間を要することは少なくありません。是非、警察の初動捜査などのノウハウを活かして、より実効性のある体制を整備したいところです。

 第三に、事前評価について。虐待発生の仕組みを解明するのに役立つ知見が得られるようになったと思います。

 一つ目は、続柄や世帯構成からみえてくることです。

 虐待者(養護者)は、息子41.6%、夫18.3%、娘16.1%と、傾向は変わらないのですが、息子夫婦など虐待者が複数の場合も7.9%あることが分かりました。三者関係や小集団のダイナミクスも考える必要がありそうです。また、配偶者の場合は、ほとんどが被虐待者と同居していて、7割以上は夫婦のみの世帯でした。DVの分野での知見はどう適用できるのか考えねばなりません。

 息子と娘の場合は、8割以上が被虐待者と同居で、半数以上は被虐待者のみとの同居でした。また、息子の約4割、娘の約3割は未婚で被虐待者と同居しており、それぞれ1割は配偶者と離死別していました。なお、孫の4分の1、兄弟姉妹の約4割も被虐待者とのみの同居です。

 高齢者虐待は、虐待者と被虐待者だけなど、狭い人間関係のなかで発生しているようです。世帯規模の縮小が進んでいるので、当たり前なのかもしれませんが、そこに至るまでに、未婚や離死別といった事情どう関係するのか、気になるところです。

 今回はここまでにして、2つ目以降は、次回ご報告します。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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