「ちょっと凄い研修会」のご報告1
「ちょっと凄い研修会」(2013年12月19日)でご紹介した研修が、21日東京会場で行われました。私も、講師として参加しましたので、2回に分けてご報告しようと思います。
厚生労働省は毎年、高齢者虐待防止法に基づいて対応状況等に関する調査結果を発表していますが、以前ご紹介した老人保健健康増進等事業による研究事業の成果を踏まえ、平成24年度分からこの調査方法が変わりました。
データの基礎単位が市町村から事例に変わり、新たな調査項目も追加され、事例の実態と対応の実情は、より科学的に把握できるようになりました。その分、対応の実効性も向上させなければなりませんが、実に考えがいがあります。
第一に、発見時のトリアージについて。「虐待の深刻度」の調査項目が新たに加わったことで、通報受理時に、被虐待者のダメージの深刻さと蔓延の程度により深刻度を判断し、相応しい対応の道筋をつけられそうです。たとえば、全体の3分の2は深刻度1で軽度で、深刻度4と5は合わせて1割弱なのですが、元職員からの通報では深刻度が高いので迅速な対応を要するなどです。
第二に、情報収集・事実確認について。現職員や元職員の相談・通報は4割以上、家族・親族からの2割程度ですが、事実確認調査を行っても、判断に至らない事例は3分の1に上ります。したがって、高い隠蔽性を越えて事実を把握し、把握した事実をつなぐ合理的説明のトレーニングが必要なのですが、法律家や警察や法医学の専門家など、その筋の専門家から大いに学ぶとよいと思います。
また、8割以上は入所系の事業所の事例なのですが、居宅系の事業所の事例が少なすぎる気がします。急増する独居や高齢だけの世帯の密室性は、入所施設よりも高いことが多いだけに、やはり精査の必要があると考えます。
第三に、事前評価について。発生要因として最も多かったのは、教育・知識・介護技術等に関する問題で、次いで職員のストレスや感情コントロールの問題、虐待を行った職員の性格や資質の問題であり、介護保険3施設では、「職員のストレス…の問題」の割合が高くその他入所系で低くなっています。
そして、「教育・知識…の問題」がある場合、心理的虐待や身体拘束が含まれる割合が高く、グループホーム・小規模多機能では、身体的虐待と心理的虐待が含まれる事例が他の種別よりも多い結果です。
これらの事実と、被虐待者は、認知症が重度の場合、身体的虐待が含まれる割合が高く、被虐待者が男性の場合、女性より身体拘束や身体的虐待が含まれる割合が高いこと考え合わせると、虐待発生の仕組みについて、あれこれ仮説は浮かびます。
しかし、「数字のひとり歩き」は避けねばなりません。数年後に事例がもっと蓄積されれば、必ずや有望な仮説が得られるでしょうから、それを待つ慎重さも必要だと思います。
第四に、対応計画の立案と実施及び終結・フォローアップについて。市町村が虐待の判断から対応開始での期間の中央値は0日(即日)で、対応開始から施設・事業所側の対応が確認されるまでの期間の中央値は29日となっています。つまり、組織外部の対応は即日、組織内部の対応は約1月を目処に計画するのが一般的だということでしょうか。
しかし、約4分の1では過去に何らかの行政指導を受けていますので、三次予防や一次予防が手薄になっているように思います。目先の問題である二次予防から手をつけるのは人情でしょうが、予防の実効性は、一次・二次・三次の3つが揃うと飛躍的に上がることを忘れないようにしたいものです。
第五に、従事者の教育について。虐待者は、介護従事者全般に比して、男性の割合が高く、30歳未満の割合が高い結果が出ました。虐待発生の仕組みの仮説と考え合わせれば、従事者のプリミティブな属性をも踏まえた、より実効性ある教育メソッドが確立できるのではないかと期待されます。
第六に、虐待は「何故発生しているのか」のみならず、「何故発生していないのか」も考えたいと思います。つまり、虐待が発生しやすい環境にあるのに155件にとどまっているのは、従事者に褒めるべきところが沢山あるからだという視点です。発生する仕組みの解明と同時に、発生しない仕組みの解明も進めれば、ご利益倍増だと考えます。
※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。