多専門職・多機関間協働のココロ
前回、多専門職・多機関間協働のチームで対応するには、それなりの術が必要だと書きました。今回はその術について考えてみます。
さて、高齢者虐待は、様々なリスク要因が複雑に絡んで発生します。ですから、対応には、リスク要因に応じた様々な専門性が求められます。しかし、対応する側は、制度にせよ組織にせよ縦割りです。そのため、それぞれが別の組織に所属する専門職が、臨時に集まってチームを組み、対応することになります。分野や組織を横断的にまたぐ連携が必要不可欠なわけですが、何人かが集まって即興演奏をする、ジャズのジャムセッション(a jam session)がよいお手本になります。
ジャムセッションでは、イントロ→テーマ(作曲されている部分)→アドリブ(ボーカルや楽器ごと)→テーマ→エンディングといった大まかな流れが決まっています。また、大まかなルールもあります。しかし、その範囲内ならメンバーは自由に演奏できます。そして、メンバーそれぞれが力を十分に発揮しつつ、バンド全体のパフォーマンスを最大限に発揮させるように競演するわけです。
虐待対応の場合、おすすめの標準的な流れは、むこう3ヶ月間にすべきことを5段階程度にまとめることです。もちろん、5段階の内容は、目指すゴール次第で大きく異なってきます。「発見、情報収集、事前評価、防止計画の立案、計画の実施と検証」といった大雑把なものにもなりますし、「信頼関係構築、心のコップの水をあける、洞察促進、解決のアイデア探し、アイデアの実施」など、個別具体的なものにもなります。
米国の心理学者、ジョージ・ミラー(George Armitage Miller)は、意味を持った「かたまり」について、人間は一時に7個(個人差によって±2)しか記憶できないとしています。この法則は「マジカルナンバー7」と呼ばれますが、5段階程度にまとめるのは、この理にはかなっています。対応チーム共通のプラットフォームとして、全員が書類を見なくても全体の流れを記憶できますし、他のメンバーの動きも把握できます。また、様式を工夫して、「○○が○○をすると○○が○○になる」などとすれば、役割分担もできますし、予測を踏まえた計画にもなり、実効性がアップすること請け合いです。
メンバーの所作振る舞いにもある程度のルールは必要です。しかし、余り細部にわたるまで規制するようなものは、メンバーが流動的な臨時のチームには向きません。ルールの習得に時間がかかり過ぎるからです。また、「皆が同じような対応を」と言われもしますが、何でもかんでも統一すればよいわけでもありません。非対立的な態度をとる人との信頼関係構築を促進するために、あえて対立的な態度をとる人を設定する場合などもあるからです。
肝心なのは、メンバーの強みを活かして弱みをカバーし合う連携のあり方を目指すことだと思います。連携の効果は絶大で、それを示す「ランチェスターのN自乗の法則」や「ネットワークの力の法則」が有名です。この数式を当てはめると、チーム全体が発揮する力は、個々にメンバーの力を全て足したもの(総和)の自乗に比例します。連携を良くしさえすれば、今より遥かにクリエイティブでダイナミックな支援を展開できるわけです。
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