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利用者の疾患・症状に関する疑問

「おなかが痛い」 介護職が知っておきたい高齢者の腹痛への対処法

 高齢者が腹痛を訴えていたら、介護職はどうするべきでしょう。
 医師や看護師ではないので、何か処置ができるわけではありません。でも医師や看護師が来るまで何もできないのでしょうか? 眉間にしわを寄せ、苦しそうにしている利用者。少しでも楽になってもらいたい…。どんどん悪くなったらどうしよう…。そんな様子を見ていると、「何かできないか」と思う人もいるのではないでしょうか。

 実は、介護職だからこそ、利用者の腹痛に対してやるべきことはあります。
 今回はそんな高齢者の腹痛に対して介護職が知っておきたい対処法について解説します。

例えばこんな状況

 介護職は部屋で高齢の利用者が苦しそうな様子でお腹をおさえているところを見かけました。
 お腹をおさえているところから、「腹痛」になっていることはわかります。介護職は、まず、お腹の様子を確認します。すると、利用者のお腹は張っており、硬くなっていました。
 介護職は、「とりあえず何か処置をしなければ!」と思い、自分がいつもしているように、利用者の腹部を湯たんぽで直接温めることにし、そのまま様子を見守ることにしました。

自己判断をしていませんか

 この例のように利用者が目の前で痛みを感じていると、ついつい「すぐ対応しなきゃ!」と考えてしまいませんか。確かに介護職として苦しそうな利用者を見ていると何かしたい気持ちになるかもしれません。
 しかし、医師や看護師免許などを持たない介護職の医療行為は法律上禁止されています。

安易に温めてはいけない

 特に、この例の場合だと、介護職は利用者について、「利用者がおなかが痛いと訴えていること」「おなかは張っていて、かたくなっていること」しか把握していません。
 胃腸が弱い人の中には、腹痛があるとおなかを温める人もいると思います。しかし、腹痛にはさまざまな原因と種類があります。「たかが腹痛」と侮ってはいけません。
 痛みの原因や種類を把握しないで、自己判断でむやみにお腹を温めたり、冷やしたりといった対処をしては思わぬリスクを伴います
 特に身体の機能が弱まっている高齢の利用者には慎重に対応しなければなりません。

腹痛を訴える高齢者への対応の2つのポイント

 腹痛を訴えており、医学的対処が必要な場合、介護職ができることは限られています。1つは安楽な姿勢の確保、もう一つは医療職への報告です。

(1)本人が楽な姿勢を取ってもらう
 まずすぐできることとして、痛みの症状等を確認しながら、利用者本人が楽だと思う姿勢をとってもらいます。症状や原因がわからず、医師や看護師の指示がないうちは、介護職は本人が楽だと思う姿勢をとれるように支援しましょう。
 もし、吐き気もある場合は、窒息防止のため、顔を横に向けた状態で横になってもらいます。

(2)医療職に「適切な」報告をする
 「●●さんがお腹が痛いようです」と報告するだけでは、医療職はその人がどのような状態なのかよくわからず、対応が遅れてしまいます。介護職はただ単に報告をするだけでなく、「適切に」報告をしましょう。
 適切な報告のためには、適切な利用者の症状の観察が重要になってきます。何を見るかがわかっていなければ、適切な報告はできないからです。

<腹痛の観察ポイント>
●痛みの性質
間欠的か、持続的か。急激に起きた激しい痛みか or 2、3日続く慢性的な痛みか
●痛みの種類
キリキリする痛みか、ズキンズキンとする痛みか、刺すような痛みか
●痛む場所
腹痛の中央・左右など
●ほかの症状はないか
おなかのはり、発熱、吐き気、吐血、口臭、血尿、不正出血(ホルモンの異常などにより、生理時以外の性器からの出血)、黄疸などの症状の有無
●排便・食事・水分摂取の状態
ここ2~3日の排泄で、便秘気味ではないか、下痢・便が黒いか、食事・水分量はどれくらい摂取しているか
●バイタルサインの情報
血圧、脈拍、体温、顔色、唇の色など

適切な報告をして素早い対処を

 腹痛には、キリキリした痛みが生じる内臓性腹痛や、鋭く刺すような痛みが起こる体性腹痛、ストレスからくる心因性腹痛、他の部分の症状が腹痛となって現れる関連痛、痛みが徐々に伝染する放散痛など、さまざまな種類があり、原因も多くあります。

 そのため、実際の腹痛に対する対応や処置は、医療職へつなぎ、適切な処置をとってもらうようにしましょう。
 介護職の役割は、腹痛への直接の対応ではなく、なるべく利用者の痛みを和らげるようにしたうえで、医療職へつなぐことです。
 たとえば、この場合では、「楽な姿勢をとってもらう」ことが利用者への対応の大事なポイントになります。

本文監修:先崎章

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このページの内容は、先崎章監修・安西順子編著『ステップアップ介護 よくある場面から学ぶ疾患・症状への対応』からテーマを選定し、Web掲載に見合う形に編集したうえで転載しております。より詳しい内容は本書籍をご覧ください。

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