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利用者の疾患・症状に関する疑問

目の前で発熱している利用者に、
介護職があわてず対応できるようになるための3つのこと

 みなさんは、介護現場でこんな場面に遭遇したことはないでしょうか。
 ある時、介護職が、気分が悪そうな利用者を発見しました。
 その利用者の体温を測ってみると、いつもの体温より高い37.5度。
 どうやら熱を出してしまったみたいです。


 みなさんは、このような場面に遭遇した時、まず、どのように対応しますか?

 対応方法はいろいろ考えられるかもしれません。

 すぐに、冷やす?
 逆に、温める?
 解熱剤を飲んでもらう?

 さて、みなさんにここで少し考えてほしいことがあります。それは……

 「無理に熱を下げようとしていないかどうか?」
ということです。
 「え、違うの?」「熱が出たら、下げるのが普通じゃないの?」と思っている人がいるかもしれません。もちろん、熱を下げようとする対応が、間違っているというわけではありません。
 しかし、介護職が、利用者の「熱を下げよう」として対応すると、かえって利用者の状態を悪化させてしまうことがあるのです。
 せっかく、熱を下げようとしたのに、利用者の状態が悪化するのは絶対に避けたいですよね。
 実は、介護職であるあなたが対応する前に、知っておくべきこと・するべきことがあるのです。

原因を考えず、熱を下げようとしていませんか?

 目の前で発熱している利用者を発見したときは、まずどうすればよいでしょうか。
 熱があり、顔が赤くなっていれば、冷やしたら熱は下がるでしょうか。逆に温めて、熱を下げる方がよいでしょうか。あるいは、熱を下げる薬を処方してもらうために、医療職などに相談した方がよいのでしょうか。

 実は、これらの対応は、ある意味すべて間違いになります。なぜなら、どれも熱が出た原因を探らずに対処しようとしているからです。

発熱の原因を把握せずに、対応していること

 実は、発熱の原因を把握せずに対応することは、適切ではありません。

 高齢者は加齢に伴い、体温を調節する機能がおとろえていきます。
 一般に、ウイルスは熱に弱く、また、体温が高い方が免疫機能が活性化されます。
 例えば、利用者が「寒い」と言っているのにもかかわらず、37.5度という数値だけを見て、「冷やす」対応をしてしまったら、免疫機能を下げてしまうかもしれません。
 なぜなら、熱が出ているのにもかかわらず、利用者が「寒い…」と言っているのは、からだがさらに熱を出し、からだのなかにいる細菌やウイルスと戦おうとしている状態のこともあるからです。

 では、逆にからだを温めればよいのでしょうか。
 これも、原因を把握せずに行ってしまうと逆効果の可能性があります。
 からだが熱くなる高い体温には、「発熱」のほかに、「こもり熱」というものがあります。文字通り、熱がからだにこもってしまうことです。介護職が、衣類を着せて温めようとすると、熱が体内にこもってしまうことがあります。すると、そのまま熱がからだの外に放出できなくなり、熱中症が起きてしまうこともあるのです。

 発熱と一口に言っても、原因は多くあり、症状もそれに伴い、多くあるのです。このように、大切なのは発熱があったときに「どう対応すればよいか」を考えることではなく、「なぜ発熱があったのか」を冷静に考えることにあります。

発熱のおもな原因と症状とは

では、発熱のおもな原因と症状とは、いったい何でしょうか。
例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 風邪…上気道炎により、くしゃみや鼻水や咳、喉の痛みがみられる。そのほかにも、下痢や嘔吐などの胃腸炎症状なども生じる。
  • 肺炎…咳や痰、呼吸困難や胸痛など
  • インフルエンザなどのウイルス性疾患…突然起こる高熱(38.0度以上で、関節痛を伴う頭痛。倦怠感など)
  • 尿路感染…頻尿・残尿感・排尿痛・濃縮尿・混濁尿・血尿など
  • その他…悪性腫瘍など

目の前で発熱している利用者への対応の3つのポイント

 では、目の前で発熱している(37.5度)利用者には、どのように対応すればよいでしょうか。
 ポイントは、次の3つです。

  • ●観察を行い、原因を探る
  • ●熱を無理に下げようとせず対応する
  • ●医療職に報告する

詳しい手順をみていきましょう。

①利用者の状態を観察し、原因を探る
 発熱した状態、つまりただ体温だけをみるのではなく、利用者の状態全体を確認することが必要になります。そのうえで、発熱の主な原因を探るようにしましょう。
 観察のポイントとしては、以下のとおりになります。

☑︎意識ははっきりしているか 呼吸状態は正常か  ☑︎いつから何度の熱が出たか(確認できたか)
☑︎厚着や室温の状況で体温があがっているのか  ☑︎咳やたん、鼻水は出ているか
☑︎頭痛や頭重感はないか  ☑︎喉の痛みはないか  ☑︎顔色はよいか
☑︎悪寒がしていないか  ☑︎脈拍はとれているか  ☑︎吐き気はないか

 とくに、利用者を身近にみている介護職は、利用者がいつもと違う様子はなかったか、以前と比べることが大切です。
 また、その際、全身状態を確認し、ほかの症状を把握することが大切です。肺炎が原因の熱の場合、呼吸困難におちいることも考えたうえで、パルスオキシメーターを装着します。可能であれば、自動血圧測定器による血圧測定などをして、医療職へすぐに報告できるようにしましょう。

②熱を無理に下げようとせず対応する
 対応のポイントとしては、発熱は、細菌やウイルスなどの外敵と戦うために自然にはたらく生体の反応であることを押さえましょう。
 つまり、一律に熱を下げる必要はないのです。
 ①で観察したポイントをもとに、まずは以下のように対応しましょう。

  • 1 水分が十分にとれていないようであれば、スポーツドリンクなどで水分を補給します。
  • 2 室温の調整および加温、衣類の調整をします。
  • 3 利用者が「暑い」と訴える場合は掛物を調節したり、クーリングしたりします。

 また、冷やす対応をするにしても、「冷やすタイミング」が必要になります。「寒い…」と訴える利用者に、冷やす対応をしてもさらに悪化するだけです。保温し、手足やからだ全体が熱くなった段階で(もしくは、利用者が訴えたら)、衣類などを薄着にし、クーリングします。
※クーリングには、3点クーリングと5点クーリングがあり、冷やすからだの部位は以下の通りになります。

3点クーリング…頭部、両腋下
5点クーリング…頭部、両腋下、両鼠径部

③医療職に報告する

 ①で観察した項目をもとに、医療職に報告します。ただし、症状によっては、重篤の危険性もあります。医療職への報告や連絡をまずは、先にするべき場合もあります。

まとめ:まずは、発熱の原因が何か考えたうえで、利用者が快適に過ごせるような環境にしよう!

 まずは、➀発熱の要因だけではなく、発熱にともなう利用者の全身状態を確認します。②原因に基づく対応をしつつ、③医療職に報告する、流れが大切になります。
 そのうえで、発熱した利用者へ対応するにあたっては、利用者が快適に休むことができる環境をつくりだすことが大切になります。たとえば、汗をかいていれば、着がえを行い、さっぱりとした気持ちになってもらう。また、クーリングを行う、食事や水分を摂ってもらう、など、利用者にとって快適と感じてもらえるような配慮が必要になります。

本文監修:先崎章

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このページの内容は、先崎章監修・安西順子編著『ステップアップ介護 よくある場面から学ぶ疾患・症状への対応』からテーマを選定し、Web掲載に見合う形に編集したうえで転載しております。より詳しい内容は本書籍をご覧ください。

監修:先崎章
編著:安西順子
本のサイズ:A5判、170頁
定価:1800円(税別)


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