ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス
第2回 心のコップの正確な位置を知る—心の3層構造
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第1回は、人間関係において最も大切なことが、心のコップに命の水を豊かに注ぐことであり、そのことが、ほぼすべての理論やアプローチの目指すものだと伝えた。では、「心のコップ」は、一体、どこにあるのだろう? そのことを一緒に考えてみよう。
【著者】
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心の3層構造
神経言語プログラミングの実践家であるポール・マッケンナは、私たちの心は3層構造になっていると述べた。1層目が「見せかけの私」、2層目が「否定的な自己イメージ」、そして3層目が「真実の私」である。
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「あなたは、どのような人ですか?」と聞かれたら、どんな自分を思い描くだろう? 実は、ほとんどの人が、失敗や恐れなどがつまった自分を表す2層目を思い浮かべるようだ。それは「あなた=否定的な自己イメージ」という公式となる。
もちろん誰だって、否定的な自己イメージを周囲に気づかれたくはない。そこでお化粧をすることで1層目「見せかけの私」ができあがってしまう。悲しいことに、実に多くの人が、「自分には1層目と2層目しかない」とさえ思い込んでいる。
ところが、2層目の奥に3層目「真実の私」が隠されている。これはダイヤモンドのように輝く、すばらしい自分。これこそが「真実のあなた」なのだ。
心のコップは3層目に置かれている
「心のコップ」は3層目に置かれている。だから水を注ぐには、1層目、2層目を潜り抜け、3層目までたどり着かないといけない。どうすればよいのだろう?
シンプルな方法は、「2層目を小さくする」か「3層目を大きくする」。この二つにはシーソーのような関係があり、2層目が小さくなるほど3層目は大きくなり、3層目が大きくなるほど2層目は小さくなる。ほとんどの理論やアプローチは、こうしたバランスを取りながら、2層目を小さくし3層目を大きくすることを目指している(小さくなると力も弱くなり、大きくなると力も強くなるという意味である)。
もしあなたが、「自分には1層目と2層目しかない」と信じこんでいるなら、忘れてしまった、輝くダイヤモンドのような3層目を、掘り起こしてみたくないだろうか?
3層目を大きくする方法—3つの例
1.聴いてもらうこと、強さを伝えてもらうこと
否定的な自己イメージが大きくなると、あなたは、さまざまな悪感情で心を痛める。誰かがそのような感情に耳を傾け、共感し、質問するなら、あなたは話しながら、悪感情を外へ出すことができる。そのとき、あなたは「心が軽くなった」と言うだろう。それは2層目が小さくなっていく印である。そこで終わらずに、軽くなった心(つまり心のスペース)に、誰かが、あなたの強さを見出し、その強さを伝えてくれるなら、3層目は大きくなる。そのとき、あなたは「真実の私」をもっと感じることができる。
2.安全地帯(セーフティゾーン)を出る
学生たちとラフティングという、川の急流をゴムボートで下る活動をしたことがある。途中、インストラクターは、近くの崖に立ち寄り、頂上から川へ飛び込むようチャレンジした。みんなドキドキしながら崖を登り、周囲の歓声に応えて、飛び込みはじめた。最後におとなしい1人の学生だけが残った。「彼女には難しいかもしれない」と誰もが思っていたが、なんと彼女は、頂上に登っていき、見事、飛び込んだのだ。それは彼女にとって、安全地帯を出て、新しい経験の場所へと踏み切った大切な瞬間だった。
誰しもが自分の安全地帯のなかで、物事を選び、予想通りの結果を受け取る。そのことに驚きもないが、新しい学びと成長もない。3層目を大きくするということは、安全地帯を出て、これまでに経験したことのない場所へと踏み切り、川へ飛び込むことに似ている。リスクはあるが、そこでしか見えない風景や感情、得られる自信がある。
3.チームアプローチ
慣れ親しんだ安全地帯を出るには、チームアプローチが効果的だ。私は「体感的なワークショップ(Experiential Learning Approachと呼ぶ)」を好んでやっている。5~8名ずつのメンバーでグループをつくり、非日常的な体験にチャレンジする内容となっている。メンバーたちの反応はさまざま。ある者は「え? それは絶対に無理だ」、ほかの者は「きっとできる!」と分かれる。けれど最終的にチームは「やってみよう!」と決心する。
彼らが、リスクのあるほうを選び、未経験の領域に足を踏み入れるとき、自分や他者を真に信頼する力を感じる。彼らが見事、成功して、目標をクリアしたとき、大きな達成感を感じる。こうした力の源が「3層目」だと理解できるようになる。
あなた自身の心の3層構造を可視化する
誰かの心のコップに命の水を豊かに注ぐための最初のステップは、自分自身の心の3層構造を可視化すること。特に2層目に何があるか、どうしてできあがったのかを深く考えることだ。そして、誰かに話し、誰かと一緒に、安全地帯を出る経験をしてみよう。そのとき、3層目からの小さな声が聞こえてくるに違いない。
次回、そもそも、なぜ人は水不足になり、否定的な自己イメージの層が厚くなるのか、その鍵となる「理想と現実」について取り上げたい。
参考書籍
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