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道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援

第1回 自分のこと、仕事のこと

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表
社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。

 みなさん、はじめまして。竹矢 恒(たけや・わたる)と申します。一般社団法人あんぷの代表をつとめています。「あなたの仕事は何ですか?」と問われると説明がとても難しいのですが、現在 “楽しく働いている”ということは確かです。一昨年(2023)年の冬、自分は組織では働けない人間なのだとようやく気づき、自身で会社を作ってみた、というのが現在地になります。連載タイトルの「オルタナコンサル」には、「既存のものや主流のものに対して、もう一つの候補となる存在になりたい」という希望をこめて名付けました。

 昨年度まで社会福祉法人に所属し、20年以上にわたり障害者福祉の仕事を生業にしていました。私の障害者福祉の仕事の歴史は、雄弁に語るほど長くも、寡黙になるほど短くもありません。第1回は、私のこれまでの仕事について、独り言のように自己紹介として記してみたいと思います。

変な行動をとる人たちとの出会い

 「歴史」といっても、私の福祉人生など、とても人に自慢できるようなものではありません。学生の頃、一向に就職活動をしない私にしびれを切らした先生が紹介してきたのが、知的障害者の入所施設でした。「就職活動しないで就職決まった~!」くらいの軽い気持ちで就職を決めました。

 配属された部署では、驚きの光景の連続でした。自分の服を破って裸になっている人、ずっと部屋とトイレを行き来している人、いすに座ったり立ったりをくり返している人、急に殴りかかってくる人。「変な行動をとる人がいっぱいいる……」。利用者さんへの第一印象はそれでした。当時、「彼らはどうしてこんな変な行動をとるのか?」という強烈な興味をもったことを思い出します。今振り返れば、これが強度行動障害の状態にある人たちとの出会いであり、その強烈さを持ち続けたまま、長い時間を過ごしていたことに気づきます。

強度行動障害の支援に没入

 その情熱に突き動かされ、興味だけを頼りにいろいろな勉強をしました。上司にお願いして、強度行動障害の状態にある利用者さんだけを支援するための専門部署を立ち上げ、その運営を担当させてもらいました。当時は、今と比べて強度行動障害の支援は注目を集める状況にはなく、専門的な勉強をするにも苦労しました。

 そのような時間を過ごすなかで、「支援が割と得意な自分」を、勝手に“スーパー支援員”と思い込むようになりました。当時を振り返ると、「周囲が私に合わせてくれていたのだ」と気づきます。恥ずかしいほどにうぬぼれていました。ただ、当時勉強したことは、今でもとても役に立っています。そうして十数年が過ぎました。

やりたいことを追いかけて

 そんなふうに身勝手極まりない仕事をしてきた人間は、当然ながら組織からすればうっとうしい存在だったのだと思います。強度行動障害の専門部署の担当を外された私は、転職を決意しました。そんな欠陥だらけの私でも、謎の矜持をもっていました。「自分のやりたいことと組織が自分に求めることが明らかに違うようになったら、絶対に退職する!」。そんな信念に基づいて、その後、私は職場を転々とすることになります。もしかしたら、それは自分を生きにくくしている変なこだわりなのかもしれません。

 でも、いいこともありました。それは、組織に合わせてやりたいことを変えるのではなく、やりたいことに合わせて組織から移ることで、シンプルにやりたいことを継続できたのです。結果的に、やりたいことに合わせるように仕事をしていたら、自分で組織をつくる羽目になったというのが、正直なところです。

やりたいことを叶えるための「あんぷ」

 さて、2024年の4月より「あんぷ」という会社を立ち上げました。今までのさまざまな経験から、「強度行動障害のある人を支援する業界を盛り上げたい」というのが偽らざる気持ちです。とても漠然とはしていますが、そう表現するのが一番自分の気持ちに近い気がします。

 今、仕事を通じて全国のさまざまな事業所にお世話になっていますが、いつも耳にするのが、「人手が足りない」「支援力が足りない」「専門家が足りない」といった「足りない」という言葉です。私も含めて、我々の業界、あまりにも「足りない」から「できない」のだという枠組みに囚われすぎている気がするのです。それって、全然楽しくありません。
 どうするかは考えながら前進中ですが、「足りない」ではなく、いつの日か「人材を守る」「支援力を育てる」「専門家が自立する」、そんな枠組みでリフレーミングができたらうれしいなって思います。

 そのためにつくったのが「あんぷ」です。ちなみに「あんぷ」とは、Alternative Master PlanのAMPをとっています。Alternativeには「主流な方法にとって代わる新たなもの」という意味があり、何となく皆が盲目に信じている障害者福祉の常識や基本計画に対して、まったく新しい価値観や非常識も含んだ基本計画を世の中に示してみたい、という思いから名づけました。

 今、私はいろいろな施設・事業所のコンサルテーションや強度行動障害に関する研修、事例検討会等にかかわる仕事にしています。まだまだ「コンサルテーション」というのは、我々の業界にとっては謎の存在であると思います。ですので、何もないところから、業界に仕事を生み出す仕事をしていると勝手に解釈しています。

 さて、これまでの仕事をふまえて長々と自己紹介をしてきましたが、この後、一年にわたって強度行動障害の業界のこと、私が取り組んでいるコンサルテーションという仕事のこと、我々の業界が抱える課題やそのための提案など、私らしく、勝手気ままに語ってみたいと思います。もし、よろしければ最後までお付き合いいただけましたらうれしいです。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いいたします。