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脊髄損傷を受傷して

松尾 清美(まつお きよみ)

年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。

プロフィール松尾 清美先生(まつお きよみ)

宮崎大学工学部卒業。
大学在学中に交通事故により車いす生活となる。多くの福祉機器メーカーとの研究開発を行うとともに、身体に障害をお持ちの方々の住環境設計と生活行動支援を1600件以上実施。
福祉住環境コーディネーター協会理事、日本障害者スポーツ学会理事、日本リハビリテーション工学協会車いすSIG代表、車いすテニスの先駆者としても有名。

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string(78) "第50回 「第48回 退院前夜」「第49回 退院当日」の解説"
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第50回 「第48回 退院前夜」「第49回 退院当日」の解説

 退院前夜には、最初に担当したNナースが仕事帰りに病室を訪ねて、入院当初からのことや退院後の排泄のことまでアドバイスしてくれたことが書かれています。これも心強く感じたことと思います。退院時には、丸山さんが患者仲間と書かれているように、多くの仲間やスタッフとご夫婦がにこやかに写真を撮って退院されたことが記述されています。

 退院当日、福岡空港ではMSWのHさんが飛行機への乗り込みや座席への移乗方法などを乗務員へ指導して乗せてくれたことや、機内では娘さんたちが同行してくれて心強かったこと、富山空港についたら大学の同僚や学生、友人が大勢で迎えに来てくれていたこと、友人の乗用車に乗せてもらって帰宅したことなどが写真と文章でわかります。

 自宅に着くと、計画通りに改修工事が終了しており部屋に入れたことや、友人や親戚など多く方々の迎えがあり、賑やかな歓迎会となりビールで乾杯となったこと、愛犬が丸山さんの側を離れないことなどが書かれています。丸山さんの愛犬を見る眼差しから、安堵の表情がうかがえます。また、総合せき損センターに無事到着の連絡もされたことも記載されています。

 丸山さんご夫婦のこれまでの人生やお人柄を再確認できるような光景です。


 丸山さんの住宅改修の話から少し離れますが、総合せき損センターでは、退院後、生活に慣れた頃に、自宅での生活状況を調査することにしていました。それは、相談を受けて決定した福祉用具や設計した住環境が、本人の身体機能や生活方法に適していたのか否かを知るためであり、その後の相談における住宅改修方法や福祉用具の選び方や使い方などの情報伝達や指導方法に活かすことを目的としています。

 また、相談や設計内容をはじめ、調査結果や重度障害者の社会参加の方法や支援方法を学会で発表し、社会へ還元していくことも目的の一つです。これらを通して、私は「重度の障害があっても、本人の障害受容後に、福祉用具の活用と住環境を改善することで、社会参加や就学就労することができ、生活や人生を楽しむことができる」ということを確信し、発表を続けています。

 この「けあサポ」での連載は、私のこの思いと丸山さんと奥さんが体現された「重度の障害を得ても環境整備を行えば生活を楽しみ、人生を全うすることができること」や「体育教師としての教育理念は教え子たちに伝わっていたこと」、今後出てくる「四肢麻痺になって電動車いすで大学の教授に復職し、より高度な教育を行ったこと」などについて、丸山さんと奥さんの日記から汲み取り、その内容を編集し、伝達するために行っているものです。