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おもいで栞を作ろう
――認知症に寄り添って生きる わたしたちにもできること――

 「おもいで栞」は、認知症のお年寄りの人生の一つのエピソードを、思い出の写真や品物と一緒に短い文章で表すものです。少しの知識と心構えは求められますが、誰でも気軽に、実は、今日からでも取り組める、ハードルのきわめて低い取り組みです。
 「おもいで栞」は、認知症のお年寄りがときどき取り出して昔を懐かしんだり、周りの人に自分のことをよく知ってもらったりするためのきっかけとなるので、認知症カフェなどでは、興味深い実践になることでしょう、
 NPOむすびは、「おもいで栞」を認知症のお年寄りと接する機会の一つにできればと願っています。
 試しに、「おもいで栞」を作成してみませんか。

荒川直美(介護支援専門員・介護福祉士)
プロフィールNPO法人むすび(居宅介護支援事業所)・荒川直美(介護支援専門員・介護福祉士)
〒179-0072 東京都練馬区光が丘3-9-3-206
Tel:03-6904-3275、03-5967-2141
Fax:03-6904-3276
URL:http://musubi-tasukeai.jimdo.com/

第1回 おもいで栞を提案します

 思うようなことができなくなる……。
 自分のことがうまく伝わらない……。
 これらのことは、やがて、わたしたちが歩む道です。

 認知症のお年寄りが急激に増えてきているということが、新聞やテレビなどで報道されることが多くなりました。
 皆さんの周囲でもそれを感じることがあるのではないでしょうか。
 まさに他人事ではありません。
 そうしたことを背景に、国の施策などもあって、認知症に対する一般市民向けの研修などが開催される機会が増えており、関心がますます高まってきています。
 私ども、NPO法人むすびでも、認知症にかかわるさまざまな研修を実施してきました。
 しかしながら、認知症のお年寄りにいざかかわってみようとなると、何となく腰が引けてくるものではないでしょうか。
 せっかく、認知症に対する理解が深まっても、行動につながらなければ意味がありません。
 そこで、NPO法人むすびでは、「おもいで栞」というものを考案しました。
 認知症カフェなどでは興味深い実践になると同時に、わたしたちが作成する段階、そして、まわりの人によって活用される段階で、以下に示すように、さまざまな意義もあると思います。

わたしたちにとってすてきなこと―人生を聴くことの意味

(1)いろいろな人生がある

 どう生きてきたのか、身近な人の人生も案外知らないもの。
 100人いれば100人の人生があって、決して同じものはありません。
 さまざまな人生や価値観があることに気がつきます。

 

(2)知り得ない時代に触れる

 人は時代の証言者。
 自分が生まれていなかったころのことを知る人や、自分とは違う場所からその時代を見てきた人に出会えます。
 あの時代の誰にも知られてこなかった事実、語られてこなかった真実が聴けることもあるでしょう。

 

(3)自分の人生を見つめる

 他人の人生と向き合うとき、自分の立ち位置を見つけて向き合わざるを得ません。
 自分はどう生きてきたか。これからどう生きていくか……。
 そんな自分の人生を見つめる時間となります。

 

(4)想像力が養われる

 人生を聞き出すとき、相手には気持ちよく話をしてもらいたいものです。
 どうしてそんなことをしたのか、そのときどんな気持ちだったのか……。
 相手の人生に寄り添う想像力が必要です。

まわりの人にとってすてきなこと

(1)ご家族にとって

 認知症の進行によって変化する、妻との、夫との、親との関係性。
 日々の介護と、その変化を目の当たりにする家族だからこそ、認知症のお年寄りの話をじっくり聴くのは難しいことなのかもしれません。
 「おもいで栞」作りは、認知症のお年寄りの想いや人生のエピソードを知る機会になります。
 また、ご家族と一緒に昔話をすることによって、「自分はこう思っていた」、「この人をこう見ていた」と客観的に捉え直すこともできるかもしれません。
 それが、日常の接し方を振り返ったり、敬意が高まったり、社会性や人間性を再発見することにもつながっていくのではないかと思うのです。

  • ※ご家族に「おもいで栞」を作成していただくのも一歩進んだ取り組みです。介護の協力をどのようにしたらいいのかわからない方、この取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。自分のあり方を見つめる機会になります。

(2)介護スタッフにとって

 作った栞をデイサービスなどに持っていくと、アクティビティなどで活用することもできるでしょう。
 介護スタッフが、認知症のお年寄りの人生を知るツールとなり、言葉かけや関わりのきっかけになります。
 一人の利用者に対して、複数のスタッフがそれぞれの栞を作るのはどうでしょう。
 人間はいろんな顔を持っています。
 それは認知症になっても同じ。
 利用者のイメージが膨らみ、さまざまな角度から理解するツールになるのではないでしょうか。

(3)認知症カフェで

 お互いを知るきっかけとして、栞作りに取り組んでみてはいかかでしょう。
 発表し合うと、共通点がみつかり、話が弾みます。
 本人が作るのを周りでサポートするのもいいですね。
 認知症の有無に関わらず、お互いの人生を共有することは、豊かなコミュニケーションを生み出します。

 次回は、「おもいで栞」の簡単な作り方をお示しします。
 皆さんも、試しに「おもいで栞」を作ってみませんか。

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