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今月のおはよう21

おはよう21

介護専門職の総合情報誌『おはよう21』最新号の内容をご紹介します。

基礎から理解する 認知症の症状&間違いやすい疾患

『おはよう21』2024年12月号から、特集(基礎から理解する 認知症の症状&間違いやすい疾患)の内容を一部ご紹介いたします。。

「もの忘れが見られるようになった」「気分が落ち込みやすい」 「怒りっぽくなった」
利用者と接しているなかで、ついつい認知症を疑ってしまう症状はいくつもあります。

しかし、認知症とよく似てはいても、実は違う疾患ということも少なくありません。
そんな「これって認知症?」という疑問をすっきりさせましょう。


これって認知症? よく似た疾患を知っておこう

「認知症のせい?」と思っていた症状が、別の疾患の影響であることも少なくありません。
「もの忘れ」が現れる疾患も多種多様で、認知症だけではありません。
そんな認知症と間違いやすい症状を取り上げます。

せん妄

「ある日突然に」が特徴の精神障害

せん妄はある日突然に…

「突然、認知症が悪化した」
「急激に、元気がなくなった」
「明らかに、怒りっぽくなった」

このような症状が現れた際には、せん妄の可能性があります。
せん妄は「意識障害」の一つで、注意障害の日内変動が見られます。
介護現場では「突然」「急激に」「明らかに」様子が変わったというかたちで感知されるかと思います。
また、何らかの身体疾患の発症に伴って生じることもあります。

一般的に、せん妄を引き起こす要因は、加齢や認知症などです。
また、肺炎や尿路感染症の発症によって引き起こされることも珍しくありません。
発熱がない場合(あるいは微熱程度)でも、せん妄の要因となり得るので、注意が必要です。

ちなみに、脳梗塞や脳出血、脳炎といった中枢神経障害の初期症状(麻痺などの運動症状ではなく)がせん妄となることもあります。

軽減できる苦痛は何か

せん妄には、幻覚妄想や興奮を伴う過活動型せん妄、意欲低下や「ぼんやり」といった様子が見られる低活動型せん妄、その両方がある混合型せん妄があります。
介護現場で発見されやすく、対応に苦慮するのは過活動型せん妄です。
しかし、これはせん妄全体の10%程度とされ、多くは見過ごされがちです。

せん妄は本人の苦痛が大きく、身体疾患の治療期間に影響することが知られています。
また、せん妄発症による一時的な認知機能障害は、以前は数か月~1年程度で発症前の水準に回復するとされていましたが、近年では必ずしも戻りきらないとする見解もあります。
病院でのマネジメントの重要性が増えている疾患なのです。

せん妄の治療は、身体疾患治療が基本となります。
したがって、認知症のある人がせん妄となった場合は、身体疾患の治療のために入院することが多いかもしれません。

ただし、背景となる身体疾患が判明しない場合、突然発症の精神症状に対しては、非薬物療法による対処法が中心となります。
軽減できる苦痛が何かを見定め、それを取り除くことが重要です。
行動・心理症状と同様に、疼痛や便秘、掻痒感などの身体的な苦痛がせん妄を悪化させる要因になるので、介護現場でしっかり確認することが重要です。

また、高齢者に多く見られる肺炎や尿路感染症についても、ふだんの様子と異なる兆候がないか、注意しておくことが欠かせません。

うつ病

認知症との見極めは極めて困難

多様な要素が引き金に

誰もが罹患する可能性のある精神疾患です。
なお、「うつ」という言葉は、症状そのもの(抑うつ気分)、状態像(抑うつ状態)、疾患そのもの(うつ病)を指すため、文脈や意味合いなどに注意が必要です。

老年期うつ病は、さまざまな要素が重なり発症します。
加齢に伴う認知機能低下のほか、職場や家庭での役割の変化やライフイベントも多様です。
退職や子どもの独立は社会的な孤独感を増悪させる背景になります。
身体疾患の治療を受けることの不安から、うつ病の発症につながることもあります。

認知症との判別は難しく、専門家でも悩まされることは珍しくありません(図2)。
たとえば、記憶障害そのものは、どちらにも見られます。
違いとしては、認知症の場合は取り繕ったり、自身の状況について隠そうとするのに対して、うつ病の場合は自身の能力低下を嘆きがちで、質問に対しても「わからない」と回答したり、記憶力が落ちていることを強く訴える場面が目立ちます。

また、うつ病は不眠や食欲低下のほか、身体疾患の原因が特にない身体症状を訴えることも特徴です。
焦燥が強いことも珍しくなく、うつという言葉から連想される「元気がない」に該当しないことも多くあります。

重度だと妄想も

介護現場で遭遇する頻度は高くないかもしれませんが、重症のうつ病では妄想を伴うこともあります。
よくあるのは貧困妄想や罪業妄想、心気妄想などの微小妄想です。
これらは、実際には大きな問題がないにもかかわらず、経済的に困窮していると思い込む(貧困妄想)、取り返しのつかない罪を犯したと思い込む(罪業妄想)、重篤な疾患にかかっていると思い込む(心気妄想)、などの症状を見せます。
いずれも、加齢に伴う社会的・身体的不安により発症し得ます。

こうした妄想に囚われた結果として、通院やサービスの利用をやめてしまったり、絶望から自殺企図に至る例もあります。
もちろん、身体疾患が実際にある可能性もあるので、環境と本人の語りとのギャップを極めることが重要です。

抑うつが認知症の前駆症状であることも珍しくないため、判断に迷う際には、うつ病としての治療を行いつつ、年単位での経過を追うということも重要なアプローチです。

安心感と情報を提供

利用者を支援する立場として悩ましいのは、精神症状に対する初期対応の場面で、精神科への受診に抵抗感がある人への対応ではないでしょうか。
認知症のある人への対応に慣れている方でも、精神疾患・精神症状に対して不安を覚える方は珍しくないと思います。

しかし、うつ病が疑われる方に対する初期の接し方は、認知症の場合の受診援助の対応と根本的な部分は共通します。
具体的には、本人の話を批判せずによく聞き、安心感を与えながら情報を適切に提供します。
そして、サポートを得るように勧めるという流れになります。
なお、うつ病については、自殺のリスク(死にたい、消えてしまいたいような気持ち)がどの程度あるかという点も見逃せません。
実践の現場では、会話がある程度進んだ状態で、この点を婉曲的に切り出すことで、支援者側の躊躇も少なく済むかと思います。
このアプローチはメンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)と呼ばれる「心の応急処置」として知られる手法です。

続きは本誌でご覧いただけます。

執筆
大矢希/成本迅 京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学

以上は、『おはよう21』2024年11月号の特集の内容の一部です。このほかにも本誌では、下記のトピックを取り上げ解説しております。ぜひお手に取ってご覧ください。


特集

副作用・誤薬・服薬困難への対応がわかる 薬の基礎知識&服薬介助のポイント

  • 1 認知症の進行? それとも別の疾患?
  • 2 改めて知っておきたい認知症のこと
  • 3 これって認知症? よく似た疾患を知っておこう
『おはよう21 2024年12月号』
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