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今月のおはよう21

おはよう21

介護専門職の総合情報誌『おはよう21』最新号の内容をご紹介します。

ケア場面別
認知症の人に伝わる“声かけ”○と×

『おはよう21』2023年8月号から、特集(ケア場面別 認知症の人に伝わる“声かけ”○と×)の内容を一部ご紹介いたします。

認知症の利用者に対して、その人の心理や認知機能に配慮せずにケアをしてしまうことはありませんか?

ケア時の介護職の声かけ次第で、利用者の意欲や発揮できる能力は大きく変わります。

食事、入浴、排泄、体位変換 移動・移乗の4つのケア場面ごとに、認知症の人に伝わりやすい声かけを○と×で考えます。


認知症の人のできること、できないことを把握する

利用者のできること、できないことに配慮したケアができれば、利用者の不安の軽減と意欲の向上につながります。
それにより、先にみたような本人の困りごとも軽減するでしょう。
利用者を理解しようとする過程が、専門職としての醍醐味ともいえます。

ここでは、「会話」「表情」「行動」から、利用者の状態を把握するためのポイントを解説します。

「会話」から把握する

利用者からよく「もの忘れが増えちゃって…」などの訴えがあります。
しかし、ひと言で「もの忘れ」といっても、いつから、どんなことが思い出せないのかは、人によって異なります。
見当識や判断力の低下などの影響を受けている可能性もあります。

認知症の人の言葉の背景や状態を探るためには、ふだんの会話で、次の点に注意して話を聞きます。

  • ❶もの忘れが始まった年齢や時期
  • ❷忘れるのはどのようなことか(過去の体験・言葉の意味や概念・自分が今いる場所や居室の場所・物事の良し悪しなど)
  • ❸忘れる内容は最近のことか、昔のことか(数秒前・数分前から数日前・数十年前)
  • ❹出来事は覚えているが、言葉でうまく伝えられないということはないか
  • ❺もの忘れの程度はごく軽微でも、失敗を過剰に受け止めすぎていないか

❶〜❸によって、いつ頃からもの忘れがあるのか、どんな記憶が思い出しにくいのか、見当識はどんな状態なのかが推測できます。

❹❺では、認知症に加えて、言語機能障害や不安神経症の可能性も推測できるでしょう。
その場合は、別のアプローチが必要になります。

「表情」から把握する

利用者の目を見てコミュニケーションをとることで表情や様子を観察し、利用者の状態を把握できます。

そのときに着目したいのは、利用者の視線です。
神経言語プログラミングの視線解析(Eye Accessing Cue)という技法では、人間の視線が五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)と連動することを利用して、気持ちを読み取れるといわれています。

視線から読み取れる気持ちのパターンは、のとおりです。
介護現場では、利用者の視線の動き方を確認することで、気持ちやその背景にある状態を推測できるかもしれません。

たとえば、「○○さんの顔は、お父さん似ですか」という質問をします。
そのとき、利用者の視線が左上に向けば、昔の体験などを思い出しており、右上に向けば、父親の顔を思い出すことが難しく、想像しているという推測ができます。

また、「昨日のお風呂のお湯加減はいかがでしたか」という質問に対し、視線が左下に向けば、感覚を思い出すことは難しいが、そのときの感情を思い出そうとしており、右下に向けば、体感したお風呂の温度や感覚を思い出そうとしていると考えられます。

もちろん、細やかな視線の読み取りが難しく、「話していても目線が合わない」「ほかの利用者ばかりを気にしている」ということもあると思います。
その場合は、認知機能における注意力や集中力の低下があると推測できます。

「行動」から把握する

認知症の人には、BPSDなどの特徴的な行動がみられることがあります。
しかし、一見同じような行動も、その背景は人によって異なる場合があります。

たとえば、アルツハイマー型認知症の〝徘徊〞と前頭側頭型認知症の〝周回〞は、どちらも「目的や意味はなく歩き回っている」ように見えます。

しかし、アルツハイマー型の場合、今どこにいるかわからないという見当識の低下により、「ここから出て行きたい」「自分の家に帰りたい」と出口を探して歩き回っています。
一方、前頭側頭型認知症の場合は、決まった時間に決まった行動を、誰にも邪魔されずに行いたいという思いに基づいています。

利用者の既往歴・現病歴などの基本情報を頭に入れたうえで、利用者に「何かお困りですか」「出口を探しているのですか」「食後は歩きたい気持ちになりますか」などの声かけを行い、利用者が、今、この場でどのような気持ちで行動しているかを細かく把握します。

また、介護職からの声かけやはたらきかけに対する、利用者の反応や行動からも把握できることがあります。

たとえば、本人に家族構成などを聞いているときに、同席している家族などに助けを求めようとする場合は、アルツハイマー型認知症による記憶力の低下が考えられます。
また、塗り絵をしてもらう際、絵の枠や内容にかかわらず、同じ色で塗り続けようとする場合は、前頭側頭型認知症による常同行動が疑われます。

ほかにも、会話をしている際、介護職とは違うところに目線が向かったり、何もないところに向かって話している場合は、レビー小体型認知症による幻視や視空間認知の低下が疑われたり、介護職がおじぎをしたり、手を合わせても、その行動の意味が理解しにくい様子であれば、認知症全般でみられる観念運動失行の可能性が考えられます。

受診拒否などで、医療機関で正確な認知症の診断を受けられない場合でも、行動から推測することは可能です。

監修
金岡禧秀
医療法人はぁとふる 介護老人保健施設 悠々亭 施設長
執筆
桑田直弥
医療法人はぁとふる 介護老人保健施設 悠々亭 公認心理師
協力
医療法人はぁとふる 介護老人保健施設 悠々亭

以上は、『おはよう21』2023年8月号の特集の内容の一部です。このほかにも本誌では、下記のトピックを取り上げ解説しております。ぜひお手に取ってご覧ください。


特集

ケア場面別 認知症の人に伝わる“声かけ”○と×

  • 1 4大認知症別にみる
    本人の困りごととコミュニケーションのポイント
  • 2 認知症の人のできること、できないことを把握する
  • 3 認知症の人とのコミュニケーションで大切な8つのポイント
  • 4 ケア場面別 認知症の人に伝わる“声かけ”○と×
『おはよう21 2023年8月号』
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